SFSS緊急パネル討論会『豊洲市場移転に関わる食のリスクコミュニケーション』(2016.12.20)より
「卸売市場の食品衛生 環境があるべき姿」 (2017年1月24日)

小暮 実 NPO法人食品保健科学情報交流協議会(食品衛生監視員)
小暮 実

 全国の卸売市場は、卸売市場法の規定により農林水産大臣の認可を受けて開設されている。開設者は都道府県と人口20万超の市等であり、平成28年4月現在、全国の40都市に64市場が開設されている。このうち、都道府県が開設しているのは、東京都11市場、大阪府1市場、沖縄県1市場の13市場である。その他の多くは市が開設者となっている。築地市場は東京都の11市場の一つであり、卸売業者(荷受業者)が7社もある日本一の卸売市場である。築地市場には、水産物5社の卸売業者と約600の仲卸業者を有しており、毎日約1,600トン(約16億円)もの水産物が取り扱われている。物量からすれば世界一の取扱量を誇る市場であるが、衛生的には課題の多い施設であると言わざるをえない。昭和10年に開設されて以来、今年で81年目を迎えており、この間に補修や増設を繰り返しているが、基本的な構造についてはあまり変化していない。

現在の仲卸施設

 近年の食品衛生確保の流れから、うに、まぐろ、えび、塩干物等、高価な魚介類の「せり場」については、空調管理の可能な「せり場」が整備されてきたが、その他の魚介類や仲卸業者の施設については、屋根はあるものの、壁等の隔壁がないほぼオープンな施設であり、空調管理のできない施設である。築地市場は、その物量の多さから市場の休日以外は24時間開場しており、関係者なら誰でも入場可能であり、食品テロ防止の館員からも課題がある。さらに、築地市場が観光スポットとして旅行者等に人気があり、海外旅行者の見学等が絶えないのが現状である。大量の食品の取扱のため、毎日約42,000名、約19,000台の車両が行きかう中で、市場関係者と観光客が交雑している状況にある。市場関係者のための、市場内の飲食店は観光客の長い行列のため、気軽に飲食できないのが現状である。

 衛生の基本は、毎日のように洗浄して乾燥することにある。仲卸売場の床は古くからの石畳の床であるため、排水が悪く乾燥しにくい。また、床の洗浄等には、隣に流れている墨田川の水を砂ろ過して塩素消毒した雑用水として使用しているが、汽水域のため塩分を含む等の課題もある。さらに、外的にオープンであることから、ネズミ、カラス、野鳥、野良猫等の問題もあり、環境的にも衛生管理が懸念される施設である。この点では、築地市場について言及した石原都知事の「汚くて、危険で、狭い」の発言のとおりである。新たに整備された豊洲市場では、市場関係者と見学者の分離、温度管理が可能で外部からの侵入を防ぐ閉鎖系施設の整備、荷おろし→荷受け→せり→仲卸→積込みまでの物流を考えたスペースの確保、各仲卸業者ごとの区画等が衛生的に整備されていると聞いている。現状の築地市場と比較すれば、食品衛生上は雲泥の差があることは明白である。市場関係者からすれば、他の課題が早く解決され、一日も早く移転されることが望まれている。

 平成28年1月に農林水産省は、新たに「卸売市場整備基本計画」を策定して示している。卸売市場の本来の目的である、新鮮な食品を迅速に衛生的に提供するためには、使用目的別施設の整備、コールドチェーンの確立、トレーサビリティの確保、HACCP考え方を採り入れた品質管理などが求められている。一足飛びにすべてを改善することは難しい状況であるが、豊洲市場については、築地市場の課題を払拭し、物量だけでなく衛生的、機能的にも世界に誇れる卸売市場となるよう期待したい。