HACCP義務化を半年後に迎えるに当たって (2020年12月8日)

戸ヶ崎惠一


一般社団法人HACCPと経営・理事長
NPO近畿HACCP実践研究会・理事/最高技術アドバイザー
NPO HACCP実践研究会・幹事 主幹研究員
戸ヶ崎惠一

■HACCPと家庭の食育

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Farm to Tableを正しく理解
 この言葉は1997年に当時のクリントン米国大統領が、自ら国民の理解を得るためにラジオを通じて語りかけたセリフの一部からとられています。食の安全を保つには、農場から食卓までの全てのプロセスをHACCPで管理する事の必要性を説いたものです。いわば安全の駅伝であり、ゴールにいる消費者へは安全が届けられるはずですが、安全の受け渡しが強調され過ぎています。なぜならもう一つの事実、危害要因も同様に受け渡されるからです。安全の定義を許容可能なリスクに管理された状態としますと、ジビエ肉中のヒト感染性ウイルスや市販の鶏肉類から高率に検出されるカンピロバクターなど「安全を脅かす危害要因」は枚挙にいとまがありません。これらの危害要因は最終取扱の場である家庭での加熱調理によってのみ確実に排除できます。これはCCPの定義と一致し、この”Table”は「安全な食物はないが、安全に食べる事はできる」の実践の場といえます。そう考えますと、家庭での食育の充実こそが、食物を介した感染症低減の鍵といえます。

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食品安全基本法にある消費者の役割
 食品安全基本法における消費者の役割は、「食品の安全性確保に関し知識と理解を深めるとともに、施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たす」と規定されています。前述の通り、家庭の”Table”は真のCCPです。食品を提供する事業者はここを外してHACCPの整備をしてはなりません。また、この基本法が制定されて15年、HACCPに沿った衛生管理が必須となった今、消費者が食の安全に果たす機能がどれだけ大切かを見直す施策が急務と考えます。
 食物アレルギーはHACCPが考案された時代には想定できなかった危害要因ですが、今日的に食物アレルギーは重要な危害要因です。消費者は食物アレルギーを含む旨の表示を確認する以外に命を衛る方法がありません。この点からも新興危害要因に対する適切な施策が望まれます。

■HACCPを導入する時のヒント

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日本的思考と西洋的思考
 半世紀以上前にアメリカで考案されたHACCPの土台は西洋的思考といえます。人とは「間違いを犯すもの」を前提としています。換言すると、人は安全ではない商品を必ず作りだすということです。すなわち、HACCPとは、安全でない商品は必ず誤って作られるので、それを絶対に出荷しない仕組みといえます。一方、日本では人を「完成されたもの」と見がちで、それ故に、昨日入ったばかりのアルバイトの高校生に「なんでできないの?」と叱ることが日常茶飯事です。日本の手順書・マニュアルの欠点に「問題が起こった時の措置」の欠如があります。私達は「失敗をしないことを目標とする国民性」ですので、失敗を前提とした管理手法は「受け入れがたいもの」になりがちです。
 また、日本の組織の維持は「報連相」に象徴されるように人治主義で、指示を待つ風土が根強く残っていますが、HACCPでは、「承認された手順に従い措置を完了、よって不良品は出荷前に排除されています」と上司に報告する事を手順とします。
 業務に帰属する意識が乏しい日本での自己紹介は、「〇〇会社の△△です」となります。会社に帰属している意識が強く、労使共々で組織第一が貫かれます。一方、帰属意識が業務の場合は、「品質管理を担当している△△です」となります。HACCPは「会社がどんな業績で何を目指しているかなんて私には関係ない。しかし、自分の仕事は正確にやり遂げる。だから、必ず正確にやり遂げた証のサインを記す」とした文化を前提としています。良くも悪くも、「入社したら定年まで」の文化ではなく、「この会社で経理のスキルを上げたので、ジョブトリップして別の会社の経理に」という文化の産物です。これらの点がHACCPの背景にあることに注意しませんと、現場に混乱が生じかねません。

食中毒予防の三原則とCodexの食品衛生の一般原則の規範
 HACCP義務化(HACCPに沿った衛生管理)が間近ですが、皆さんは食中毒予防の3原則を知っているので慌てる必要はありません。HACCPは高度で最新、国際標準の衛生管理システムとして紹介されていますが、私たちが慣れ親しんでいる食中毒予防三原則を体系的に整理したものに過ぎません。保健所や第三者で認証を取るものでもありません。「事業者自ら」が立法趣旨ですので、謂わば、自己認証といえます。
 また、殆どの食品を扱う食品事業者等は、導入に当たり負担が掛からないようにと準備された柔軟な「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」でHACCP義務化を果たす事ができます。令和2年8月現在で89業種の導入手引書が公開されており、これを自施設に当てはめれば衛生計画を作成できます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00003.html

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