ひやりはっと事例から学ぶ食物アレルギーの問題点 (2017年11月20日)

近藤 康人


藤田保健衛生大学総合アレルギーセンター
近藤 康人

ひやりはっと

1.食物アレルギーひやりはっと事例の収集

 

 食物アレルギーのアクシデントにも、ハインリッヒが労働災害で見出した「1件の重要災害の陰には29件の軽症事故があり、そのまた陰には300件の無傷災害が起きている」という1:29:300の法則があてはまると推測されます。人間はもともとミスを犯しやすい動物でありヒューマンエラーは避けられません。そこで、食物アレルギー児の誤食事例が発生した背景や原因を検証し、誤食防止策を講じることは食物アレルギーアクシデントを未然に防ぐうえでとても大切なことだと考えます。

2.アレルギー誘発症状は個人個人で異なります

 

 アレルギー症状を誘発するアレルゲン食品の摂取量は個人個人で違います。なかには、ごく僅かなアレルゲン量に反応する患者もいます。例えば、牛乳アレルギー患者がお茶を欲しがったので、他の子が牛乳を飲んだコップを水でよく洗ってからお茶を入れて渡しました。しかし、それを飲んだら全身の蕁麻疹がでました。またノズルが共通タイプの自動販売機を利用してオレンジジュースを飲んだらアレルギーを起こしました。その理由として前に購入されたコーヒーのミルクがノズルに残っていた可能性が考えられました(図1)。このような自販機には乳成分が混入する可能性があると明記しておく必要があります。

3.わかりにくい食品表示によって発生したひやりはっと事例の紹介
  • 平成27年4月から施行された食品表示法では、一括表示ではなく個別表示が原則となりました。平成32年3月までは猶予期間ですが、アレルギー患者にとっては、個々の原材料の直後にそれぞれに含まれるアレルギー物質が表示されるため、アレルゲンが含まれている食材がわかりやすくなりQOLの向上につながることが期待されます。しかし、個別表示であっても、省略規程によって誤食事例が起こることがあります。省略規程とは特定原材料を重複して使用する場合に、いずれかにアレルゲンの表示があれば省略してもよいというものです。図2にしめす表示で小麦患者がアナフィラキシーを起こしました。問題になったのは、小麦アレルギーの患者の多くは醤油を食べられるため、この表示をみて小麦が醤油にしか使用されていないと勘違いして食べさせてしまったのです。そのため酵母エキスに入っていた微量の小麦もしくは大麦でアナフィラキシーを起こしたと考えられました。

  • 商品名から特定原材料であることが判断しにくいため誤食を生じた事例があります。沖縄にはジーマーミー豆腐という、外見と味が大豆で作られた豆腐とほぼ変わらない、ピーナッツ製品があります。特に旅行者にとってはピーナッツが原材料であることが理解できずに誤食を起こしているので、パッケージを見ただけで誰でも原材料が明確にわかるような改善策が求められます。

  • リニューアルにより原材料の変更が行われたにもかかわらず、パッケージがそのままであったためリニューアル商品とわからず誤食した事例があります。企業努力でリニューアルした製品はわかりやすく明示していただければ、患者は食べなれた製品の表示を毎回チェックしなくてもよくなります。

文 献
1)ぜん息予防のための よくわかる食物アレルギー対応ガイドブック2014
2)食物アレルギーひやりはっと事例集 2012、2013、2014、2015、2017年度版

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