新型コロナ感染の後遺症における疲労症状等について (2022年6月3日)

倉恒弘彦


大阪公立大学客員教授、大阪大学招へい教授
倉恒弘彦

 2019年末より急速に広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界を揺るがす大事件となりました。アメリカ、インド、ブラジル、フランス、スペインなど欧米や中南米の各国に瞬く間に広がり、極めて多くの感染者と死者が報告されています。
 幸い、2020年末頃より漸くCOVID-19に対するワクチンが開発され、ワクチン接種により感染とともに重症化を予防できるようになってきました。しかし、未だ感染拡大がみられた国や地域では都市封鎖や移動制限、在宅勤務などの社会生活の制限が行われています。それにより、疲労やメンタルヘルス障害の発生頻度が増えて、産業医がその対応に追われているとの報告もあります。
 最近、COVID-19感染後に呼吸器症状は改善しても、長期間にわたってブレインフォグと呼ばれるような思考力や集中力の低下、記銘力の低下がみられる疲労病態が続く症例が多くみられることがわかってきました。新型コロナウイルス感染後後遺症として、テレビや新聞などでも大きく取り上げられています。

  2020年11月8日(日) 総合 午後9時~ NHKスペシャル
  https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/nhkspecial_1108/

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 国際医学雑誌に報告されたCOVID-19に罹患した120名の予後調査(フランス)では、入院後110.9日経過した時点でも、疲労55.0%、記憶力低下34.2%、睡眠障害30.8%、注意力低下26.7%などがみられることが報告されています。日本でも、岡山大学医学部総合診療科にコロナウイルス感染(COVID-19)後遺症外来が設置され、200名近くのCOVID-19感染後患者のケアが行われていますが、感染後3か月経過した時点でも約1割の患者に原因の明らかでない疲労・倦怠感がみられています。
 ウイルス感染後にこのような疲労がみられる報告は古くからあり、イギリスでは1980年頃にはコクサッキーBウイルス感染後に慢性的な疲労がみられる患者が、ウイルス感染後疲労症候群として報告されていました。アメリカでもヘルペスウイルス属のEBウイルス感染症と慢性的な疲労病態との関係についての臨床研究報告が多くみられます。しかし、このような患者では、通常の保険診療でみとめられてる血液検査や生理学的検査、画像検査にはほとんど異常がみられないため、有効な治療法も確立していません。
 私たちは、2021年12月「COVID-19後遺症の診療体制の構築を急げ─ME/CFSの診療経験から学ぶ」と題して、COVID-19後遺症診療の現状と課題について日本医事新報に論文掲載を致しました。

  医師新報:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=18368

 COVID-19後遺症患者の診療窓口になり、かつ罹患後時間が経過した外来でのCOVID-19後遺症患者の病態についての臨床研究も可能とするような「総合診療医を中心とした集学的診療体制」の全国的なネットワークの構築が喫緊の課題となっています。


新型コロナウイルス感染症 後遺症リーフレット(東京都福祉保健局)

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