近年の食品安全委員会によるかび毒のリスク評価と
基準値設定の動向 (2018年7月27日)

髙橋治男


国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部
髙橋 治男


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 食の安全・安心にとって健康被害を引き起こす有害物質の規制は不可欠であるが、その規制値の設定にはリスク評価が前提となる。食品安全委員会かび毒・自然毒等専門調査会は、近年、精力的にかび毒のリスク評価を行い、その結果を公表している。さらに、厚生労働省はその結果を受けて規制値の設定を行っている。最近の動きを表にまとめた。本稿では、最近の動きなどを簡単に紹介する。

 アフラトキシン(AF):高い発がん性と急性毒性を有するAFB1について、1971年10 µg/kgの規制が設定された。その後、AFG1にも発がん性が確認され、コーデックス委員会などの国際的評価機関が総アフラトキシン(B1,B2,G1,G2の総和)規制を設けた。これらの動きもあり、わが国でも厚生労働省から食品安全委員会に評価が依頼され、その評価結果を受けて2011年に総和の規制値が設定された。実際、輸入落花生などではアフラトキシンB,G両群による汚染事例も少なくないことから有効な措置と言える。
 デオキシニバレノール(DON)、ニバレノール(NIV):化学構造が極めて類似しているかび毒で、国産麦類にはいずれも認められるがNIVによる汚染は日本など極めて限られ、輸入小麦ではDONによる汚染がほとんどである。国内で流通する小麦にDONの高濃度汚染が認められたこともあり、2002年、厚生労働省は1.1mg/kgの規制値を設けた。しかしながら、当時は国際基準が無いことや汚染データも不足していたことから耐容1日摂取量(TDI)に基づく暫定基準値とした。その後、2009年、食品安全委員会は自らが行う評価課題として取り上げ、DON、NIVのグループでのTDIを設定することを試みた。しかしながら、それらの複合的な影響評価は知見が乏しいことから、2010年、食品安全委員会はDONについてのみTDIを1µg/kg体重/日と設定した。さらに、2018年の会議ではアセチル体や配糖体DONの生体内での代謝に関する知見が集積されて来ていることからそれらも評価の対象とすることとしている。
 オクラトキシンA:輸入麦類やコーヒーなどに主として汚染が認められる。DONと同じく2009年に食品安全委員会が自ら行う課題として取り上げた。その結果、2014年、オクラトキシンAはDNAに間接的に作用する非遺伝毒性発がん物質であると評価し、非発がん毒性および発がん毒性に関するTDIを求め、さらに規格基準の設定が望ましいとした。なお、コーデックス委員会は2008年に麦類について最大基準値を5µg/kgと設定している。
 アフラトキシン(AF)M1:AFB1が牛などの摂取動物の体内で水酸化され生成される。発がん性がある。乳幼児は感受性が高いことから食品安全委員会の評価結果を受けて、2015年、乳について0.5µg/kgの基準値が設定された。また、飼料中のAFB1の濃度はできる限り低いレベルで抑えるべきであるとした。農林水産省では1988年から配合飼料を対象に管理基準(0.01mg/kg)を設けて低減化に努めている。
 フモニシン(F):化学構造の類似した1群の化合物の総称で、トウモロコシやその加工品からB1とB2が高頻度で検出される。食品安全委員会は、2015年自ら行う評価案件としてとりあげた。2017年、実験動物の肝臓や腎臓に対して毒性を示すが遺伝毒性はないと評価し、FB1、FB2及びFB3の単独または総和として、TDIを2µg/kg体重/日と設定した。今後、汚染状況のモニタリングを行うともに規格基準について検討することが望ましいと通知した。

 以上、食品安全委員会のかび毒に関するリスク評価の動向と厚生労働省の基準値設定の動きを概説した。国際的にはT-2トキシンなど他のかび毒についてもすでにリスク評価が行われており、わが国でも汚染実態などの調査が始まっている。かび毒汚染は気象条件の変動を受けやすく、近年の地球規模での温暖化によるとみられる異常気象がさらなる汚染要因となることは必至である。汚染のモニタリングや汚染低減のための管理は、一層重要となっている。

参考資料:
宮崎 茂、食品安全委員会によるかび毒のリスク評価、JSM Mycotoxins, 68, 41-48 (2018)
食品安全委員会かび毒・自然毒等専門委員会(http://www.fsc.go.jp/senmon/kabi_shizen/
農林水産省:いろいろなカビ毒:(http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/kabidoku/kabi_iroiro.html#af

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