低アレルゲン鶏卵の加工食品を食卓ヘ(2024年8月23日)

国立広島大学大学院統合生命科学研究科教授
広島大学ゲノム編集イノベーションセンター副センター長
堀内浩幸

■はじめに
 日本人の食物アレルギーの原因物質は、鶏卵が一番多く、全体の1/3にのぼります。特に鶏卵アレルギーは若年齢層に多く、誤飲誤食の原因となり、家族の食卓から鶏卵食品は消えてしまいます。鶏卵の成分の中でも最も厄介なのがオボムコイドというタンパク質です。卵の成分の中で、オボムコイド以外のタンパク質は調理の過程で変性し、アレルギーが起きなくなりますが、オボムコイドは加工しても残ってしまい、アレルギーの原因となります。私たちの研究グループは、ゲノム編集という技術を用いて安心して食することができるオボムコイドがない鶏卵の開発に成功しました。現在、試作品作りとともに臨床研究も進めています。

アレルゲンノックアウトの卵(左)普通の卵(右)

■ゲノム編集によるオボムコイドのノックアウト
 鶏卵からオボムコイドをとり除ければ、その鶏卵から作られる加工食品は、鶏卵アレルゲンフリーとして食すことが可能になると考えました。そこで私たちの研究グループでは、オボムコイドが完全に作られないように、platinum TALENというゲノム編集ツールを用いて、オボムコイドの完全除去に成功しました。

■オボムコイドのノックアウト鶏卵の安全性
 オボムコイドのノックアウト鶏卵を食品として利用するためには、徹底的な安全性評価が必要になります。まず、オボムコイドをノックアウトすることでニワトリ自身に与える影響です。オボムコイドは、産卵鶏の卵管でのみ作られ、全て鶏卵に移行するため生体では機能しません。よって、産卵鶏に影響はありません。また、受精卵中での胚発生にも全く影響は認められませんでした。さらにゲノム編集による遺伝的な解析を行った結果、ゲノム編集により副産物が生じないこと、外来遺伝子の挿入やオフターゲット(予期せぬ変異)も認められないことを確認しました。次に加工特性を物性の面から評価しました。ノックアウト鶏卵では、若干、ブリックス値が上がりましたが、加工特性は通常の卵と何も変化がありませんでした。現在、国立病院機構相模原病院の海老澤元宏先生とキユーピー株式会社と共同で臨床研究に着手し、良い成果が得られています。

■おわりに
 私の息子もオボムコイドに対する強いアレルギーを抱えており、幼少期には家族全員で食生活に気をつけていました。それでも思わぬ食品にオボムコイドが混入しており、アレルギーを起こすことがありました。幸い、大事にはいたりませんでしたが、食物アレルギーのお子さんをお持ちのご家族の心労はよく理解できます。また季節性のインフルエンザワクチンなど鶏卵由来の医薬品にもオボムコイドの混入が認められることから食品だけの問題ではありません。私たちたちが作出したオボムコイドのノックアウト鶏卵がこのような心労を抱えているみなさんの一助になるように、今後も安全性確認を第一に社会実装を進めていきます。

 
広島大学免疫生物学研究室 https://immunobi.hiroshima-u.ac.jp/
Web記事(NHK)https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/backstories/3344/

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