食の安全の落とし穴~紅麹問題を教訓として~(2024年8月23日)

特定非営利活動法人食の安全と安心を科学する会(SFSS) 理事長
山崎 毅
TakeshiY amasa ,ik DVM, Ph.D

 「食の安全」を正しく理解するためには「リスク」の定義を知る必要があり、これを怠っていると、大きな落とし穴に落ちる危険性をはらんでいます。「リスク」の定義は、いま危険という意味ではなく「将来の危うさ加減」であり、不確実性をともなうので、これまで人身事故がなかったからといって、リスクが許容範囲内=安全かどうかが綿密に評価&管理されていなければ、明日事故が起こってもおかしくないわけです。そして、実際にそのような事故が、本年3月に紅麹サプリで報告されました。
 この「紅麹コレステヘルプ」というサプリメントを摂取していた消費者において、腎障害などの重篤な健康被害により死亡事例まで報告されたことから、大きな社会問題に発展したわけですが、この紅麹問題はなぜ起きたのでしょうか。世の中では、以下のような7つの原因が議論され、政府も早急な法規制改正を進めているところです:

  ① 機能性表示食品は国の審査がない届出制だから
  ② 食品製造の衛生管理が悪かったから
  ③ 摂取量が多すぎたから(オーバードーズ)
  ④ 外部からの健康被害情報を無視して売り続けたから
  ⑤ 紅麹は医薬品の成分を含むから
  ⑥ そもそも健康食品は安全ではないから
  ⑦ 食品衛生法や食品表示法などの法規制に不備があるから

 メディア報道をみていると、①や②を原因とする論調が多いように思いますが、機能性表示食品以外の「いわゆる健康食品」でも、今回のような紅麹菌由来の機能性成分を含む製剤であれば、製造品質管理に問題がなくとも、同様の健康被害が起こった可能性は高いと思われます。また④の販売事業者から政府への健康被害報告が遅れたことについては、たしかに被害の拡大につながった原因として、今後、有害事象報告の義務化が進めば改善されるものと思いますが、被害者が出てからでは手遅れであり、今回の事故が起きた原因の本質ではありません。
 さらに、十分なリスク評価を経て開発された機能性成分を含むトクホや機能性表示食品も多数市販されている状況で、健康被害報告のない数千におよぶ保健機能食品全体に網をかける法規制が本当に必要なのかという疑問もあります。また、高齢化社会が進む中での生活習慣病予防の必要性を考慮すると、「いわゆる健康食品」自体をなくすべきだという議論も非現実的です。
 他方、筆者が今回の紅麹問題で原因として捉えているのは、おもに③と⑤:すなわち医薬品成分であるロバスタチン=モナコリンKを天然の紅麹から濃縮して開発された製剤において、十分なリスク評価がなされておらず、紅麹菌培養の製造工程において、カビ由来の不純物も濃縮される危険性に気づかなかったことが問題の本質ではないかと思うわけです。ですので、たしかにサプリメント形状の健康食品全般について法規制改正は望ましいものの、健康被害のリスクを本質的に下げていくためには、医薬品成分を一定濃度以上含む米紅麹のような天然の機能性成分を「もっぱら医薬品成分」とする食薬区分改正(食品成分としての使用を禁ずる)がよいと考えます。食品衛生法で健康被害報告が義務化された健康食品の指定成分(プエラリア・ブラックコホッシュなど)についても、成分ごとの各論として、食品での使用を禁ずる措置が適切であり、健康被害の心配の少ない大多数の保健機能食品にまで網をかけるのは過剰な規制ではないでしょうか。

 今回の記事では「いわゆる健康食品」のリスクと安全について考察しましたが、食の安全/食のリスクを正しく見極めるための書籍『食の安全の落とし穴~最強の専門家13人が解き明かす真実~』(共著:小島正美・山﨑毅;女子栄養大学出版部刊)』を発刊しましたので、ぜひご一読いただければ幸いです。学生・栄養士・メディアの記者の方々に食のリスクを正しく理解していただくために、本書籍を無償配布する特別講義を各大学にて随時行っておりますので、趣旨にご賛同いただける方は協賛・寄付をお願いいたします。




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