公益社団法人日本食品衛生協会
学術顧問
荒木惠美子
1960年代米国で、宇宙食の安全確保のために考案されたHACCPは、2021年6月、遂にわが国の食品事業者に対しても義務化(制度化)された。HACCPの概念は、製品100%(全数)の安全性を保証しようとするものである。最終製品の抜き取り型の試験検査だけでは、製造した製品100%の安全性は保証できない。重要管理点(Critical Control Point:CCP)を決定した上で、工程パラメータのモニタリングを行い、検証活動としての試験検査を組み合わせて製品100%の安全性を確保する常識的な考え方である。
管理対象となる食品安全ハザードは、原材料・製品設計および加工工程に依存している。加熱殺菌工程や冷却工程は典型的なCCPとなることが多い。作成するHACCPプランに書く検証は、多様な検証活動の一部に過ぎない。HACCPの運用、すなわちPDCAサイクルを回すには、多様な検証活動を理解することが不可欠である(表1)。
HACCPが世界標準になったのは、1993年、コーデックス委員会の食品衛生の一般原則の付属書として、HACCP適用の指針(7原則・12手順)が提示されたことによる(CXC 1-1969, Rev.1997)。その食品衛生の一般原則は2020年および2022年に改訂されHACCP適用の指針は、付属書ではなく本文に収載された。見かけ上7原則・12手順は維持されたが、タイトルと内容が改訂された(図1、表2)。
これまでの原則3(管理基準の設定)は、19.8(各CCPに妥当性確認された管理基準(Critical limits)の設定)に改訂された。原則6(検証方法の設定)は、19.11(HACCPプランの妥当性確認および検証手順)となり、さらに19.11.1(HACCPプランの妥当性確認)および19.11.2(検証手順)となった。元々、妥当性確認を求めてはいたのだが、明確に妥当性確認という用語を定義することによって、検証活動の多様性が分かり易くなった(表3)。
製品100%の安全性を確保するといっても、予防的であって安全性が100%であるとはいえない。なぜならば、100%の妥当性確認は不可能といってもよいからである。また、何らかの変更があったときの再妥当性確認は重要である。定期的な検証によって、変化点が検出されることもある。そのため定期的および必要に応じて検証を実施しなければならない。さらに図1に示したようにHACCP単独では機能しないのである。実際、食中毒(事故)例の多くは一般衛生管理の失敗が原因であることが多い。
HACCPが世界で利用されている理由は、重要なハザード(significant hazard)に焦点を当てていること、および監査可能(auditable)なことによる。監査は、重要なハザードが管理されているか、記録に不正がないか、および逸脱を見逃していないかを主な目的として実施する。この不正がない記録とは、正確で正直な(accurate and honest)記録を指すが、かなり難しい。いずれにしてもゼロリスクではないことを理解しておかなければならない。