Globalな食糧と栄養のSecurity議論の現在とビジネスセクターの参画(2025年2月17日)

NPO食の安全と安心を科学する会(SFSS) 理事
小出 薫


◆昨年10月開催リスコミフォーラムのテーマは Food Securityリスク。筆者は特に海外依存度の高い食事業に関わる会員の参考になる話題に絞り、上記表題での情報提供を行った。戦後我々が育てた日本型Dietは、欧米諸国のそれとかなり異なるが(別表参照)、その栄養バランスの良さに世界評価は高い。しかし必要な食素材の自給率が畜肉も魚介も50%台、乳成分も60%台と低い。従ってGlobalに或いは世界特定地域の酪畜水産産業に様々な形の「動揺」が起これば、Diet提供のリスクに繋がる可能性がある。

◆実際、Globalな状況は「動揺」を起こす要因に満ちている。途上国での人口増加、気候変動問題の複雑さ、様々な種類の栄養不良の蔓延等々である。「今後のFood Systems、Globalなそれも、各国地域ごとのモノにもTransformationが必要となる」と誰もが語る。それは正しいが、そこに続く議論の質には注意が必要である。Ideologicalな表現で動物起源食の排除を主張するグループも幾つかある。気候問題へのエネルギー産業の対応が遅い中で、農業分野に期待が向けられ、では酪畜業を削減すればといった性急な議論も出て来る。さらに、1つのDietモデルを提案して世界に従わせようとする論調も時に在る。

◆しかし幸いにも、2021年以降のGlobalなSecurity議論は至極holisticな考察を伴うものになって来た;世界が必要とする栄養の詳細と、例えば酪畜産業が人と社会にもたらす多様な価値と問題の双方を全体的に分析した上で、産業を世界の多様な地域で育てる最適の道筋を探ろうというモノになっている。
*その様な議論の一例を紹介する。KWJA;Koronivia Joint Work on Agricultureという国連FCCC内での農業問題協議体が2021年COP26後に発信した文書の中の家畜産業に関する認識を示した部分である。KWJAは文頭で、家畜産業は気候からの「影響を受け易い」ものと表現した。そして良く管理されるシステムを作れば、気候変動へのAdaptation(適応)が出来て強靭性も確保し、家畜産業本来の幅広い役割である「食糧と栄養の供給保証」、人々の生計等の社会的、そして環境面のSustainability全般を守ることが出来ると続けた。さらに家畜産業が使える具体的なGHG削減策や炭素隔離技術を列記。産業としても長期視点では気候対策に「貢献出来る」ことも認めている。

◆この様な全体視野の論調を産んだ「立役者」は2点在り、
*第1は:議論の中心にある国連FAO系機関:FAO本体の経済社会理事会、国連食糧安全保障委員会(CFS)、及びGlobal Agenda for Sustainable Livestock(GASL:FAOが創らせた持続可能な家畜産業を目指す組織体)が持つ、重要課題に関する議論や出版物の編纂に、ビジネスセクターを含む諸関係者を参加させるinclusiveなやり方を徹底する姿勢である。実際例えばDairyの国際団体は、気候問題対応や産業の存在が及ぼす世界の社会経済へのインパクトをまとめた文書を4冊FAOと共同出版している。
*第2はずばり、2015年国連サミットで採択された SDGs17項目の存在。個別産業の評価にせよ、Foodシステムの変革案にせよ、SDGsを下敷きとして共有する中でオープンかつ広い視野で議論が出来るようになったのだ。

◆さて、冷静な議論の場に加えてもらうビジネスセクターの側は何を提供出来るか、SFSS内でも業種間情報交換をしたいが、まずは筆者が属したDairyの話を。
*Dairy産業はIDFとGDP(Global Dairy Platform)という2つの国際的業界団体を持ち、SDGsの幾つもの進展に貢献する戦略活動を、国連機関を含む多様な機関と共働しつつ構築しその成果を発信して来た。例を3点紹介すると:
①世界の先進国途上国其々の実態に合わせてGHG排出の少ない酪農を実現する為のPathways to Dairy Net Zero(P2DNZ)なる活動推進体を2021年9月に設立公開。FAOや国際的研究機関のサポートも明記、既に200を超える参画企業や団体がある(米国農務省や幾つかのFund機関も)。
②乳には豊富な必須栄養素が身体に使われ易い機構も有することの証明研究、及び多様な食品蛋白質の栄養的効率の見直しに繋がる研究の実施。
③酪農が存在することの社会的経済的「効果」を数値化する取り組み。
 上記3点共に活動のかなりの部分で国連機関や国際Fundとの共働が成立。
*最後に今後の課題:世界各地の乳成分の生産と消費のマスバランスは今後確実に変化する。それが自らの食にどう影響するか、リスク予測目線が必要である。

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