化学物質の管理(2025年5月16日)

技術士、労働安全コンサルタント/SFSS理事
東 剛己



 このたび理事に就任させていただきました東剛己です。私からは化学物質管理について書かせていただきます。

1.労働安全衛生法関係政省令の改正
 2021年に「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の報告書が発表され、2023年から順次改正政省令が施行されました。具体的には、事業者は化学物質管理者を選任し、洗剤等を含め事業所内にある様々な化学物質についてリスクアセスメントを実施させ、その結果に基づいて化学物質を管理することになりました。従来は、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則などの特別規則で化学物質を個別に指定して規制していましたが、化学物質による休業4日以上の労働災害のうち、約8割が規制対象外物質を原因としているため、この改正が行われました。
 リスクアセスメントの対象となる物質は、改正前では674物質でしたが、現在は2000物質以上に増加しており、今後も増えていく予定です。事業者は洗剤等の薬剤を購入する場合、SDSを入手し、使用実態に即してリスクを判定し、保護具の使用や使用量の制限など薬剤ごとに使用ルールを作って実行していく必要があります。
 
2.その他の化学物質に関わる法令
 化学物質に関わる法律は他にもあり、例えば消防法では火災の危険のある物質に指定数量を設定し、保管や取扱いのルールを定めています。機械オイル、スプレー缶などが該当します。アルカリ洗剤や除草剤などで毒物劇物取扱法にかかる化学物質も食品工場内で使用されています。これらは持ち出しに対してルールが決められており、紛失した場合は警察への届出が必要です。

3.食品安全における化学物質管理
 食品安全の分野では、洗剤などの化学物質は「化学的危害要因物質」としてリスク分析の対象となります。化学物質が食品に混入する経路としては、事故等による意図的でない混入と、食品テロのような意図的な混入があり得ます。非意図的な混入については一般的衛生管理上の対策が必要であり、意図的な混入については食品防御としての対策が必要になります。
 食品安全上の化学物質管理の原則は、①食品とは隔離して保管する、②ラベルにその薬剤名を書く(特に小分けしたもの)、③在庫を適切に管理する、の三つです。
 これに加えて、万が一事故が起こったことを想定し、どのような薬剤に何の化学物質が含まれているのかをわかるようにしておくことも必要です。食品テロ対策としては施錠管理、持ち出し者の制限、監視カメラなども考慮すべき事案となります。

4.総合的な化学物質管理
 同じ薬剤であっても関わる法律は多様です。適切な化学物質管理を行うためには、「化学物質リスト」を作成することが有効です。リストに従い、全ての法律が網羅的に管理できるようにします。
 化学物質リストの項目は名称、分類、購入元、容量、用途、保管場所、保管責任者、どの法令に関わっているか等になります。リストに連動して、リスクアセスメントシートやSDS、外観写真等が参照できるようにしておくと便利です。作業現場では思いもよらない化学物質が使われていることもあるため、必ず現場で確認します。
 事業所内の化学物質を全て管理することは非常に大変な作業です。そのため、同じような目的で使用している化学薬剤を集約したり、できるだけ安全な薬剤に変更したりするなど、管理の手間を減らすことはとても有意義です。
 化学薬剤の食品への混入事例自体は近年ほとんど報告されていませんが、身近に存在し、必ず食品製造の近傍で使用されているものである以上、適切な管理とルール作りが重要となります。

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