調理師専門学校における食品衛生教育に関する取り組み(2026年8月18日)

中川学園調理技術専門学校/SFSS理事
大瀧 直子


調理師を取り巻く現代の状況
 調理師には安全かつ美味しい食品を提供することが求められている。そのうえ、食をめぐる状況が日々変化しており、調理師はそれにも柔軟に対処しなくてはならない。例えば、食のサプライチェーンはグローバル化し、種々の新技術が導入されたことから、これまで以上に多様な食材が入手できるようになってきた。一方で、気候変動により入手可能な食材の種類、量や品質が少しずつ変化してきている。また、消費者の食品に対する価値観も多様化している。そうした社会の変化の中、調理師養成課程においては食品衛生教育、食品安全教育がますます重要になってきている。

食品衛生+食品安全教育
 調理師養成課程において、食品衛生法に則った食品衛生学の教育が第一に重要であることはいうまでもない。さらに、食品衛生法の改正に伴って、飲食店を含む全ての食品事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化された。また、食品安全基本法によって、法令遵守にとどまらず、事業者の自主的な管理が求められていることから、食品のリスク理解に関する教育を行うことが必要になってきた。さらに、調理師は消費者に最も近い食品事業者であるため、リスクコミュニケーターとしての役割も求められている。これらの状況を踏まえて、本校では、科学的視点に立った食品の安全に関する授業や実習を取り入れている。

食品のリスクについての理解
 一般の消費者においては、ハザードとリスクが混同されることが多い。このため、授業では、この二つが異なるものであることを説明した上で、リスクの考え方、リスク分析、安全確保の仕組みなどを解説している。化学的ハザードの例として食品添加物や残留農薬等を取り上げ、そのリスク評価、ADI、使用基準値、残留基準値等を説明し、いかにして食材の安全性が確保されているのかを理解させている。また、食物アレルギー、食品中の放射性物質、その他調理や加工中に発生するハザードなど、食品中の様々なハザードを取り上げている。さらに、今日的な話題として、遺伝子組換え食品やゲノム編集食品の安全性確保の仕組みについても解説している。それらの授業を行った結果、認知バイアスの生じやすいハザードについて、認知バイアスの有意な解消が見られ、十分な教育効果が認められている。

現場でのリスク管理への対応能力
 生物学的ハザード、つまり微生物汚染については、調理師が自分自身で細心の注意を払い、リスク管理を行わなければならない重要なハザードである。食品のリスクは、食品によってそれぞれ異なるため、食品の性質を知り、食品のリスクを考えるための実習(食品のpH、水分活性、環境中・食品中の細菌汚染度の測定等)を教育に取り入れてきた。
 昨年度からは、食品衛生・食品安全学の担当講師と調理実習の担当講師が共同して、飲食店HACCPに関する授業と実習をセットで行う取り組みを進めている。さらに、保健所の食品衛生監視員との共同授業を企画することにより、食品衛生監視員の視点や考え方を学生達に学ばせ、食品衛生管理能力を向上させたいと考えている。
 また、日々更新される食品安全に関する科学的中立公正な情報を入手する力は極めて重要であると考え、主要な公的機関のホームページを紹介し、それらの検索と閲覧を学生達に体験させている。

将来の調理師に期待すること
 学生達には、潜在的な問題箇所を自ら見つけ、自発的かつ能動的に食品衛生に取り組める調理師になってほしい。さらに、調理に使用する食材や調理した食品の安全性を科学的に理解し、それを消費者に適切に説明できる能力を身に付けることを期待する。
 日本の食文化は、長年にわたり多くの先人から引き継がれ、かつ知恵によって創造されてきたわが国の大切な財産である。「日本の食は安全で美味しい」と世界中に誇れるよう、これからの調理師の可能性、発展性を考え、調理師教育を進めていきたいと考える。本校校長が会長を務める全国調理師養成施設協会、調理技術教育学会においても、今後の調理師のあり方、食品衛生教育について真剣な議論を重ねているところである。

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