東京オリパラのリスクを誰が評価したのか?~感染原因はイベント自体にあらず、感染対策の甘さにあり~

[2021年5月21日金曜日]

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回は再び新型コロナ問題に関して、東京オリパラを中止すべきというマスメディアの不安煽動報道が活発になってきたので、東京オリパラを開催することが本当にわれわれ日本国民やアスリートたちにとって大きなリスクなのか、考察してみたいと思います。

まずは、楽天グループ会長の三木谷浩史氏がCNNのインタビューに答えたというニュースを、以下でご視聴いただきたい:

◎「東京五輪は自殺行為」楽天・三木谷会長が政府批判 ~ANN News(2021年5月15日)
https://www.youtube.com/watch?v=JbPoXD1gmVQ

“楽天の三木谷浩史会長がアメリカのCNNのインタビューに応じました。「東京オリンピックの開催は自殺行為だ」と日本政府を批判し、「中止するべきだ」と訴えました。”

このニュースをみた筆者が一番疑問に思ったことは、三木谷氏がどんな手法でリスク評価をされたうえで、東京五輪のリスクがそんなに大きいと判断されたのか?ということだ。いまのところ、日本国内の都市部を中心に各種スポーツイベントが開催されており、箱根駅伝・春の甲子園大会・国際体操・バレーボール国際マッチ・国際陸上大会・ゴルフなど開催されているが、最近大きなクラスターが発生したとは聞かない。

三木谷氏がオーナーである東北楽天ゴールデンイーグルスもヴィッセル神戸も、観客をいれて試合を実施しているではないか。ソフトバンクの孫さんも東京五輪のリスクを懸念しているというが、自分たちの運営するプロスポーツの観客をいれた開催はリスクが小さく安全で、東京五輪はリスクが許容できないくらい大きいという科学的根拠は、どこにあるのだろうか?

新型コロナの感染リスク低減策がしっかりできていればイベント開催は十分可能・・とリスク評価したから、国内のプロスポーツ開催は許容したのではないのか? だとしたら、東京オリパラも、いま東京五輪組織委員会が綿密にリスク評価をしたうえで、最善のリスク感染対策を施して、安全・安心な大会の運営を目指しているのを、日本の経済界のTOPがなぜ応援しないのか・・不思議だ。

いやいや、海外から選手だけでなく大量のスポンサー関係者やメディアも入国するのだから、バブルがはじけて危ないに決まっているじゃないか、という「企業経営者の勘」だろうか?感染症や公衆衛生の専門家でもないのに、よく感染リスクが評価できたなぁ・・・ まあ、テレビのワイドショーに登場される感染症の専門家と呼ばれるお医者さんたちですら、東京五輪開催は変異株が入ってきたらどうするんだと言われているので、致し方ないところか。

この東京五輪を契機に水際対策が強化されたら、むしろ国内の新型コロナ予防対策が強化されるのではないかと、なぜリスク評価できないのか?また、海外から流入してくる10万人とも言われる代表選手/スポンサー関係者/メディア関係者が、もし全員ワクチンパスポートをもち、PCR検査も2度陰性を確認することを来日の必須条件とした場合、いまだ医療従事者と高齢者しかワクチン接種が終わっていない大半の日本国民と比較して、どちらが感染リスクが大きいのか? 答えは簡単だ。

本ブログで何度も強調していることだが、「リスク」と「安全」を論じる際には、その定義を知ることが重要だ。「リスク」とは「いま危険」という意味ではない。ここ50年間津波が来ていないから「危険はない」と思っていたら、津波に襲われて尊い生命が失われる災害が発生した・・という場合に、ずっと危険はなかったけれども「リスク」は思いのほか大きかったということになる。

「リスク」とは「将来の危うさ加減」「やばさ加減」をはかるモノサシであり、不確実性を伴う。大津波・大震災・土砂災害などが明日発生するかどうかは不確実だが、もし万が一災害が発生した時に、どれだけの危険に遭遇するかという「危うさ加減=リスク」は評価が可能であり、地域のハザードマップを作成することで、住民はリスクの大小、すなわち「やばさ加減」を知ることができる。

東日本大震災で津波警報がアナウンスされたときに、釜石東小学校の生徒さんたちは津波被害のリスクが大きな地域にいることを正しく認識し、普段から避難訓練をしていたので、高台に一目散に逃げて九死に一生を得たという。これらはリスクアセスメントとリスクマネジメントが体現できていた典型事例であり、「大津波なんか来るはずない」と思ってリスク管理を怠っていたら、まさかの悲劇に遭遇してしまうのだ。

このリスクを綿密に評価したうえで、許容可能な水準まで抑えられた状態のことを「安全」という。よく「安全」とは「ゼロリスク」のことだと勘違いする消費者がおられるが、それは誤りだ。残留リスクが許容可能、すなわち「Tolerable(我慢できる)」レベルであれば「安全」と言ってもよいということだ。

東京オリパラなどのイベントはリスクがあるから回避すべきと発言する方は、おそらく「ゼロリスクでないと、イベントのせいで誰かが命を落としたらどうするんだ!」と主張されるのだろう。しかし、イベント自体のリスク評価/リスク対策がしっかりできていれば、リスクは許容範囲=安全になるはずで、もしそれでも事故に遭って命を落とした方がいた場合には、別のリスク、すなわち感染リスク対策の甘さがほかにあった可能性が高い。

たとえば、あるイベントに参加した高齢者がインフルエンザにかかって、予後が悪く死亡したとしよう。そのときにイベントのせいで亡くなったと言われても、イベント主催者は受け入れがたいだろう。そのような場合には、インフルエンザの予防対策をしっかりしておくべきだったと考えるのが普通だ。田舎に帰省して兄弟から新型コロナをうつされた、という場合に、帰省や旅行が原因だ・・というメディア報道にもあきれる。兄弟が隣に住んでいても感染予防が甘いとうつされるわけで、感染原因は旅行ではない。

リスクの大小を専門家が綿密に評価したうえで、社会が許容できる範囲内の小さなリスクであれば「安全」として、市民がこれを回避する必要はないとリスコミで伝えることになる。その反面、当該リスクが市民や社会にとっての大きなリスクと専門家が評価した場合は、このリスクを回避するための市民向けのリスコミやリスク低減のための公共政策が必要だが、そのためにはリスク要因がどこにあるのか特定できないと無理だ。

すなわち、新型コロナに関しては、より的確な市民向けのリスコミ(ユニバーサルマスク+手洗い+消毒)に加え、リスク低減の公共政策(ワクチン+感染対策のできない事業者への休業要請)が必要だ。いま大阪を含む近畿圏や東京+首都圏3県において、コロナの感染拡大がなかなか収まらないのは、綿密なリスク評価を実施していないため、感染源が特定できておらず、闇雲に感染対策ができている事業者にまで時短要請/休業要請をし、99%の非感染者に対して外出自粛/ステイホームを叫んでいるからだ。

残念ながら、闇雲な時短要請/休業要請に従わない事業者が感染源であり、ステイホームに従わない1%の感染者が感染源の飲食店に集まって騒ぐのだから、これでは感染拡大はなかなか収束しないのも頷けるところだ。インフルエンザで学級閉鎖にするのは、そのクラスに感染者が複数出たことを特定して実施する。感染者が出ていないクラスでは生徒全員のステイホームは必要ない。

飲食店を営業停止にするのは、食中毒の事故が起こってリスクが残っていることを特定してから行政処分を執行するのであって、町全体の飲食店に休業要請などかけないだろう。まさに山梨県が模範であり、新型コロナ感染対策を真摯に実行している飲食店にのみに自治体が認定マークを発行し、市民を安全な飲食店にのみナビゲートするのがよい。筆者が行政担当者なら、感染対策ができないリスク高の飲食店は感染源なので、休業要請をかけて従わないなら店名公表⇒過料という厳しい措置もやむをえないと考える。

いま大相撲夏場所を開催中の両国国技館における観客の皆さんの礼儀正しい観戦姿勢をみるにつけ、東京オリパラも、感染予防対策が徹底されれば、まず問題は起こらないだろうと見込めるのではないか。そこも東京五輪組織委員会が、あと2か月の間で、いかに綿密にリスク評価/リスク低減策を構築できるかどうかが、安全・安心な大会開催のカギになるものと考える。

以上、今回のブログでは、東京オリパラにおける新型コロナ感染症リスク対策と開催の可能性について議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021(4回シリーズ)
『withコロナの安全・安心につながるリスコミとは』
第2回テーマ:『残留農薬のリスコミのあり方』(6/20、Zoom)

http://www.nposfss.com/riscom2021/index.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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