4回に1回の的中率なら「オオカミ少年効果」はない?
~新たなハザードマップと線状降水帯予測で「逃げるが勝ち」~

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[理事長雑感2022年5月号(6月初旬発行)]

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について毎回議論をしておりますが、今月は豪雨災害/水害/土砂災害のリスク回避のコツについて議論したいと思います。まずは、今月から始まった気象庁の「線状降水帯予測」に関するニュースをご視聴いただきたい:

◎的中率は4回に1回だけど「迷わず逃げて!」 線状降水帯予測情報はじまる
6/1(水) BSN新潟放送

https://news.yahoo.co.jp/articles/cf6eba1ae4e7a5fa99c2bb4da622f49baf1937f4

ここ十数年、たしかに全国各地で豪雨災害が頻発しており、筆者の実家である広島市安佐南区八木も大きな土砂災害に襲われ、同じ町内で何人もの犠牲者を出す悲劇となったことは、いまだ鮮明に記憶に刻まれている。あの時も間違いなく線状降水帯が発生し、それまで経験したことのない降雨量に山間部が襲われたことで、沢周辺の土砂がもろくも崩落したのだろう。

もしあの時、災害発生の半日前に線状降水帯予測情報が発令されて、避難指示が出ていれば、犠牲となった方々が助かったかもしれないと思うと、事前のリスク評価とともに「避難」というリスク管理が、いかに重要だったかということだ。ただ、4回に1回しか予測が当たらないと聞くと、2・3回予測が外れた段階で、また次も外れるんじゃないかと市民から信用されなくなる、いわゆる「オオカミ少年効果」が起こると危惧する方もいるだろう(参考:ウィキペデイア『嘘をつく子供』)。

だが筆者はその心配はないとみている。なぜなら4回に1回といえばMLBで活躍する大谷翔平の打率とほぼ同じなので、1日4回打席にたてば1回はヒットが出るわけだし、うまくいけば第一打席に的中することもあるからだ。1度でも予測が的中するところを目撃すれば、市民はこれを重要なリスク情報として認識し、リスク回避を真剣に模索するであろう。

ただ、線状降水帯予測情報が発令されて避難指示が出ても、10階建てのマンションに住んでいる方々や水害/土砂災害の危険性がまったく及ばない地域に住んでいる市民は、避難をする必要性がないため、これらの気象予報よりも前に、まず自分たちが水害/土砂災害のリスクの高い地域に住んでいるのかどうかを把握しておく必要がある。そこで重要なのが「全国ハザードマップ」だ。

◎NHKスペシャル 初回放送日:2022年6月5日
「いつ逃げる? どこへ逃げる? 〜新・全国ハザードマップ 水害リスクを総点検〜」

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/83K8WRV5LV/

“激甚化の一途をたどる豪雨。国は被害想定を”百年に一度の雨”から”千年に一度の雨”に切り替え、防災計画の大転換をはかっている。今回、国・都道府県が策定している千年に一度の雨のハザードマップをいち早く集積し、全国どの地域でも閲覧できるデジタルハザードマップを開発。大雨シーズンに入った今、番組を見ながら、スマホやPCで、自宅や遠くに暮らす家族、学校・会社など、気になる地域のリスクを総点検してもらいたい”

上記のNHKスペシャルを見逃された方は、6月9日(木)の午前1:15~NHK総合で再放送があるので、視聴されることをお薦めしたい(オンデマンドもある?)。このNHKが開発したデジタルハザードマップをスマホに保存しておけば、いま自分がいる地域の洪水/土砂災害のリスクがどの程度か、簡単に知ることができる。筆者も早速、自分の居住地区をチェックしてみたが、「浸水想定区域図」の0.5m~3mに当たるとのこと(汗)。すなわち、もし千年に一度の豪雨が来た場合に、家屋の1階部分が浸水してしまうリスクあり、との衝撃の結果となった。

だが、全国でこの浸水危険域に居住する人が約4,700万人とのことで、埼玉県・茨城県・岡山県・宮城県・新潟県など、多くの地域ではむしろこの浸水危険域の人口は増え続けているという。上記の「NHK全国ハザードマップ」を使って、自分の居住地域の洪水リスクを点検し、もし3m以上の浸水想定区域に該当する場合には、線状降水帯予測などの気象予報により警報/避難指示(レベル4以上)が出た場合に、3階以上への垂直避難・もしくは高台への水平非難を考えておく必要があるということだ。

なぜこの水害/土砂災害リスクが高い地域の人口が増え続けるのかと思ってしまうところだが、ハザードマップでリスクが大きいほど土地の値段が下がると考えると、住みやすそうな地域にリーズナブルな価格の不動産が提供されると、そこに市民が居住地を求めやすいということではないのか。上述のとおり土砂災害に襲われた広島市の筆者の実家エリアも、うちの親が50年前に一戸建てを建築して引っ越したわけだが、ハザードマップで土砂災害警戒エリアであったという話は災害後に初めて聞かされたのには驚いた。

しかし、上述の全国ハザードマップにおける浸水想定区域に住む方が3人に1人とすると、「皆さん総点検すべし」というNHKの呼びかけも決して大げさではないとわかる。ではこのハザードマップで浸水や土砂災害のリスクが大きい警戒区域に居住している方々はすぐ引っ越さないといけないのか、というとそうではない。気象予報、とくに上述の線状降水帯予測情報をもとに避難すれば、「逃げるが勝ち!」なのだ。なお線状降水帯予測が何度か外れても、決して「オオカミ少年効果」に陥るのではなく、避難訓練ができてよかったと思い粛々と逃げることだ。

そこで一番ミスを犯しやすい点が、前回もご紹介した”正常性バイアス”だ。すなわち、綿密なリスク評価をすることなく、「これまで災害/人身事故は起こったことがないから大丈夫だろう・・」、「自分たちだけがそんな事故にあうはずがない」と思ってしまうと、実際はそこに大きなリスクが潜んでいたということが災害後に判明するのでは手遅れだ。東日本大震災のときに、粛々と避難訓練を続けた小学生たちが津波災害の難を逃れたことは、決して偶然ではないのだ。

リスクとは「将来の危うさ加減」なので不確実性をともなう。すなわち、これまで事故がなかった=「危険」がなかったとしても、リスクが小さかったとは限らない。しかも千年に一度の豪雨と言いながら、明日起こることもありうると考えれば、「備えあれば憂いなし」ということだ。こういった大きな災害リスクが潜んでいることを予め把握するためには、綿密なリスク評価とリスク管理が重要であり、豪雨災害/水害/土砂災害のリスク回避の場合には、それがハザードマップと気象予報にあたるわけだ。

このリスク評価/リスク管理がどのように実施されているのかを市民と議論するのがリスクコミュニケーションであり、皆さんもご家族や近隣住民の方々と防災についての議論を一度もっていただきたい。まずは、上記の「NHK全国ハザードマップ」を使うことで、自分たちの居住地域の災害リスクがどの程度かを把握したうえで、その後の避難計画(避難スイッチを決めておくこと)を具体的に策定していただくようお願いしたい。

以上、今回のブログでは、豪雨災害/水害/土砂災害のリスク回避のコツについて解説しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム(4回シリーズ) オンライン開催(Zoom)
『消費者市民に対して説得ではなく理解を促すリスコミとは』
第2回:『輸入食品のリスコミのあり方』(6/26) ➡熊本県産アサリの偽装問題を議論します。

http://www.nposfss.com/riscom2022/index.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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