福島原発事故から3年・・いまだ放射線情報の呪縛は解けない

[2014年3月19日水曜日]

今年も3.11の記念日に、3年前の東日本大震災で亡くなられた方々の御霊を偲び、黙祷をされた方が多いと思う。突然の自然災害で無念にも生命を落とした近親者や友人たちの分も、強く生きることをあらためて決意された被災地の方々を何とか応援したい・・そう感じた日でもあった。

テレビ番組も、東日本大震災の回顧とそれに付随して発生した福島第一原発事故の問題をテーマにしたものが多数放映されたようだ。津波対策の防潮堤建設もなかなか進まず、震災復興の動きが加速しないことに、被災地の皆さんの苛立ちにも限界があるのではないかと察するが、福島原発事故のため避難を余儀なくされた方々がいまだ自宅に帰還できない現状も目の当たりにし、震災の傷がいまだ癒えないことを非常に残念に思う。

福島第一原発事故の影響により福島県の子供たちで甲状腺がんが増えている疑いがあるとの報道番組も見られただろうか?原発事故から3年目という節目のタイミングで、追い打ちをかけるように福島県民の不安をあおる報道の意図が筆者にはわからない。

番組をご覧にならなかった方は、以下のサイトでその報道番組と翌日に発表した福島県立医科大の見解の概要をみていただきたい:
http://www.j-cast.com/2014/03/13199174.html?p=all

この中で本番組が疑義をとなえているのは、福島県立医科大や福島県民健康管理調査検討委員会などが当時18歳以下の県内の子どもに甲状腺がんが出たことについて、「原発事故との因果関係は考えにくい」との認識にある、という部分である。

本番組の意図したとおり(?)、番組を見ていた視聴者からはツイッターで、福島県立医科大や福島県の対応に対する批判の声が多く寄せられたとのこと、福島県民だけでなく、全国民の放射能汚染に対する不安をあおることに成功したようである。

リスク情報の断片をそのまま垂れ流してしまうと、そのリスク情報が理解できない市民は不安を覚える。それは、リスクを過大に感じてしまう要因として「未知性因子」があるからだ(Slovicによる「リスクイメージの因子分析」、1988)。すなわち、リスク情報がよくわからないと、本当は気にしなくてよいレベルのリスクでも、リスクを過大視してしまい、危なそうだから近づくのはやめておこう、という防衛本能が働いてしまうのである。

だからこそ、リスク情報を市民に伝える際は、専門家のリスク評価結果を踏まえて、わかりやすく明快に伝える必要がある。それが正しいリスクコミュニケーションの姿であろう。本番組では、原発事故による放射線被ばくと子供の甲状腺がん発症の因果関係に関して、専門家は「考えにくい」との見解を報道している。

一見、専門家のリスク評価の見解を中立的に伝えたようにも見えるが、内容は一貫して「本当か?よくわからないのでは?」という報道姿勢で、「未知性因子」を十分刺激している。残念ながら専門家の見解も、自信がなさそうなコメントで明快とは言えない。

ツイッターで「福島では27万人で33人もの(甲状腺がんの)発生が確認されているが、原発事故との因果関係はないと云うのが国や県の公式見解となっている。これだけでも、有り得ない嘘だと判る筈なのだが・・・」とのコメントがある。やはり、専門家のリスク評価の説明が十分でなく、一般市民に理解されていないことを象徴している。

筆者の理解では、今回みつかった甲状腺がんはいわゆる「スクリーニング効果」であり、福島県以外でも同様の調査を実施すれば、おそらく同程度の甲状腺がんがみつかるはずとの専門家の評価結果ということであろう。

さらに、リスクを過大視してしまうSlovicのリスクイメージ要因として、「恐ろしさ因子」「災害規模因子」の2つがある。「甲状腺がん」、「原発事故」という用語をきいただけでも、リスクが高そうだなぁ・・とあなたも感じないだろうか?本番組で、甲状腺がんの摘出手術を受けた子供の母親がインタビューを受けていたが、まさに「恐ろしさ因子」「災害規模因子」を刺激する演出になっていたように思う。

この報道番組を見た方々がツィッターでその刺激された不安を爆発させた形だが、冷静になって番組内容を見直してみる(もしくは上述のサイトの記事の後半部分を読む)と、専門家のリスク評価は「シロ」であり、チェルノブイリの医師も「福島原発事故の放射線被ばくはレベルが低く、健康影響は出ないのでは?」と見解を述べていることからも、今回のような報道で不安をあおるのは不適当であったと言わざるをえない。

放射線被ばくによる健康影響をいまも語ることが、地元の復興支援に水をさすからと周囲から圧力を受けているとの報道もされているが、甲状腺がんなど実際に健康障害が出ている患者さんの個人的なケアは医療面・精神面で必要なことは自明である。ただ、原発事故のせいで健康影響が出たという場合にはエビデンスが必要になってくるので、その点については慎重な扱いが必要であり、少なくとも報道でとりあげることの必要性はまったくないであろう。

非常に残念なのは、本報道番組を見られた視聴者が、「やはり福島県の放射能汚染はまだ終わっていない。福島県産の商品はまだ買うのは控えよう」と感覚的に思われたのではないかということだ。福島原発において放射能汚染水がいまだ漏れだしている問題も報道が続いている。
今回のような報道で消費者の意識が「未知性因子」「恐ろしさ因子」「災害規模因子」によって刺激され続ける限り、福島県産の農産物は、たとえ放射性物質検査の結果が「不検出」であったとしても、買い控える消費者がなかなか減らないものと予測される。

マスコミの報道姿勢に関して、リスクコミュニケーションのあり方を十分配慮したガイドラインを設けることはできないものだろうか?

SFSSでは、来月より4回シリーズで「食のリスクコミュニケーション・フォーラム2014 ~食の安心につながるリスコミを議論する~」を開催します(第1回は4月20日(日)@東大農学部)。
フォーラムの詳細ならびに事前参加登録はこちらより
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(文責:山崎 毅)

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