GO TO トラベル:東京除外を解除すべし~感染原因は移動にあらず、リスク低減策の甘さにあり~

[2020年8月28日日曜日]

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。毎回、本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがいまだ収束しないなか、7月下旬より実施された「GO TOトラベル・キャンペーン」の東京除外を解除するかどうかが争点となっているようですので、その点を考察したいと思います。なお、世界中でCOVID-19により亡くなられた方々に、謹んでお悔やみ申し上げます。

この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、通常の風邪を引き起こすコロナウイルスと同様、感染したヒトが軽症の風邪症状ですむ場合も多いものの、肺炎などが重篤化して亡くなる方も一定割合で発生する厄介な感染症とわかってきたが、人類がその予防対策にもたついているうちに、あっという間に感染爆発/パンデミックが世界を襲い、多数の犠牲者を出してしまった。これは世界だけの問題ではなく、国内でも千人以上の尊い生命が失われていることを重く受け止めるべきだ。

重篤な健康被害を起こし、死亡例も少なくない感染症なのだから、そのリスクを綿密に評価したうえで、感染リスクを如何にして低減していくか(リスクマネジメント)について、世界中の保健行政が専門家を結集して、いち早く公衆衛生リスク低減策を打ち出すべきだったが、決してうまくいったとは言えない状況だ。

・WHOテドロス事務局長のTwitter:(WHOが開始した「WearAMask challenge!」について)
https://twitter.com/DrTedros/status/1291056191569887233?s=20

中国武漢で新型コロナウイルスによる感染爆発が起こり、日本でもダイアモンドプリンセス号における集団感染が起こったのは今年2月のことだが、それから半年もたってから、やっとすべての市民に外出時のマスク着用(ユニバーサル・マスク)を推奨し始めたWHOは、世界の保健行政として適切なリスコミができていたとは、とても思えない。なぜテドロスさんがWHO事務局長に居座っていることを世界が許すのか、まったく理解できないところだ。

COVID-19について、日々世界中の研究者から論文発表され、新たな知見が伝わってくることで、専門家たちの見解も少しずつ変わってきたが、われわれの見解はぶれていない。SFSSでは2月中旬から国立医薬品食品衛生研究所客員研究員の野田衛先生にご助言をいただきながら、市民むけのリスコミを以下の通り続けてきた:

◎「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法について」
SFSS 食の安全・安心Q&A 2020年02月19日

https://nposfss.com/qa/covid-19/

野田衛先生が提唱された「集団予防」のポイントは以下の3つだ:
① 飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;マスクも有効)
② 手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)
③ 消毒薬をうまく使う(アルコール以外も有効利用)

いまでこそ世界各国の健康行政がすべての市民に外出時や公共機関利用時にマスク着用を義務付けているが、今年2月の時点で我々は健常者も外出時はマスク着用すべき(ユニバーサル・マスク)と主張していたわけだ。また、世界の国々の中でも全国民にマスクが支給され、感染者をほぼ完全に抑え込んだ国がある。それはお隣の台湾だ。

日本も「アベノマスク」をすべての国民に無料配布すると提案した厚労省担当者は偉かったと思うが、ユニバーサルマスクの重要性が理解できない政治家/偽専門家/マスコミ関係者たちの邪魔が入ったことで、スムーズな運用ができなかったことは大変残念だ(いまだにTVで「アベノマスク」を馬鹿にするコメンテータがいるのには呆れるしかない)。もし日本でも台湾と同様のユニバーサルマスクが達成できていれば、もっと感染者数/死者数を抑え込めた可能性が高いと考える。

日本で「アベノマスク」が全国民に支給されるのは運用がうまくいかなかったが、志村けんさんが新型コロナ感染症で亡くなったことの衝撃により、日本人の外出時マスク着用率は80%強に跳ね上がったことで、新型コロナ第一波は収束していった。ただ、残念なことに国民の新型コロナ感染症に関するリスクリテラシーが不完全なまま推移したため、第2波が到来することとなった。

すなわち、外出自粛すること=「Stay Home」、移動/旅行しないこと、お店が営業しないことなど、「フィジカルディスタンス」=感染者から距離をとることのみが感染症リスク低減策であるかのようなリスコミがされたことで、市民はウイズコロナ時代のリスク低減策を誤って理解したということだ。その証拠に、小池都知事が「Stay Home週間」をうったえた東京都では、緊急事態宣言解除後に感染が再び拡大し始めたが、これは都民(とくに若者たち)が経済活動をまわしながらの感染症リスク低減策において、マスク・手洗い・消毒が重要ということを理解していないからだ。

新型コロナの感染形態は空気感染ではない。飛沫感染と接触感染がメインであることがわかっている。だからこそ、経済活動を制限する「フィジカルディスタンス」のみが感染症リスク低減策ではない。リスク低減策の基本として、マスク・手洗い・消毒の3つをしっかりやれば、感染リスクは無視できるまで下げられるわけだが、移動しなければ感染するはずがないと勘違いして、マスク・手洗い・消毒の基本対策が甘いヒトは、残念ながら危ない橋を渡っていることになる。だから都内に市中感染者がそれなりにいれば、新規感染者も毎日数百人レベルで起こるのも避けられないのだ。

新型コロナに感染してしまった方で、「ずっと在宅勤務で外出時はマスクをしていたのに・・」と言われる方も、本当に外出時に一切マスクを外さなかったのか、会食時にマスクを外して誰かと会話しなかったのか、買い物に出たときに公共施設の何か物体に手が触れた後で、手洗い・消毒を怠ったのではないか・・など、飛沫感染/接触感染経路の可能性を思い出してほしい。リスク低減策の基本として、外出時のマスク着用・頻繁な手洗い/消毒の3つをしっかりやれば、ほぼ感染することはないレベルまでリスクを抑えることができるのは間違いない。

先日開催された高校野球の甲子園交流大会において、全国から代表校の選手・部員・保護者たちが集まって16試合を敢行したが、クラスター感染が発生したとは聞いていない。おそらく徹底的な感染リスク低減策を施したうえで、大会開催にこぎつけたものと思うが、これもまさに全国各地から関西への移動自体が大きなリスクと考えるのは誤りだ。これまで「GO TO トラベルキャンペーン」を利用した420万人で、クラスター感染が発生したという事故もいまのところ聞かない(感染者の報告が1名?)が、移動/旅行すること自体が大きな感染リスクとは言えないように思う。

「いやいや、東京から沖縄や札幌への旅行者たちが感染を広げたじゃないか」というご意見もあるだろうが、それは移動/旅行が原因ではなく、その感染者たちや受け入れた店舗側が感染症予防対策をしていなかったことが原因だ。接待を伴う飲食の席で、マスクを外して会話していた人たちが感染してしまったのは、移動/旅行が原因でなく、やらかした特定の個人や事業者が原因なのは明らかだ。

除外するなら、そのような感染対策ができない特定の個人や事業者(固有名詞)であるべきで、「GO TO トラベルキャンペーン」から東京を除外することも、感染予防対策ができている方々にとっては全く問題ないと考える。国民の税金で実施される国のキャンペーンであるにもかかわらず、なぜ感染症対策がきっちりできている東京の観光業者さんたちや、東京の旅行者が除外されるのか、不公平としか言いようがない。

どうしても「GO TO トラベルキャンペーン」を非難したいメディアの姿勢にも、本当に困ったものだ。ワイドショーの出演者/芸能人も、「東京から地方へは行きたくないよねぇ。感染が怖くて、そんな目でみられるのもイヤだし・・」などと無責任なコメントをするし、「飛行機や新幹線は使わずにマイカーで移動する方が安全?!」などと、全く根拠のないリスク感覚を視聴者に押し付けるのにはガッカリだ。飛行機や鉄道での移動の際にクラスター感染が発生したという証拠がどこにあるのか?むしろクラスター感染を発生させているのは、近場のマイカー移動で友人たちとマスクなしでバーベキューをした人々ではないか。遠距離移動は危なくて、近距離移動ならリスクが小さい、という印象操作はやめてほしい。

筆者自身も、7月初旬に首都圏から北海道に旅行した(当然、航空便を利用した)のだが、どこへ行っても感染予防対策がしっかりされており、首都圏からの旅行者だからといって歓迎されない、などという不愉快な体験は全くなかった。観光業の皆さんにそんな失礼な方々はいないし、旅行する側も迎える観光業者さんたちも、しっかり感染症リスク低減策ができていれば、移動/旅行自体は何の問題もないのは明らかだ。

繰り返すが「GO TO トラベルキャンペーン」から東京を除外するのは、まったく意味がない。感染症リスクが高いのは東京という特定の地域だからではなく、感染症予防対策ができていない個人であり事業者なので、もしキャンペーンから除外するなら、そちらが適当だろう。日本国内で1日1000人前後の新規感染者が発生している現状で、東京以外の地域(大阪・愛知・福岡・神奈川など)なら感染者がいないと考えるのも矛盾しており、世界中どこにいても感染予防対策は必要なのだ。

もし特定の地域の方々を除外/隔離するとしたら、離れ小島の住人が100人しかいないのに50人が感染した・・などという特殊なケースのみだろう。職場や病院でのクラスター感染が発生した場合に、念のため濃厚接触者として関係者全員をPCR検査して隔離するのと同様だ。地域としての新宿区を除外すべきだというのは誤りで、感染予防対策ができていない店舗名を公表し、客も含めて関係者全員を隔離するとともに、お店は営業停止とすべきなのだ。

これは「GO TO イート・キャンペーン」でも同様だ。新型コロナ感染症リスク低減策ができている事業者は税金で保護し、経済活動をまわすことが重要であり、観光業にしても飲食業にしても、特定の地域を除外するという考え方は、リスクの観点からおかしいと気付いてほしい。ただし、TVで何度か散見したが、クラブやスナックなどで感染予防対策がきちんとできていると言いながら、客が堂々と酒を飲みながらマスクをしていないシーンが映っていたのにはガッカリした。それで感染予防対策ができていると理解しているのか、取材するメディア側もその程度のリスク認識では、市民に対してリスコミをする資格はない。

飲食の席で客がマスクを外してよい条件は、換気がしっかりした室内、もしくはオープンテラスであって、ご家族のみもしくは単独でテーブルを囲んでいる場合、もしくは客同士や従業員との間がアクリルボードで明確に仕切られているか、ソーシャルディスタンス(2m以上の距離)が維持できている場合のみだ。それ以外の状況で、たとえば友人や会社の同僚が同席して、食事の時だけはマスクを外しても大丈夫だろうと、結局2m以内の距離で会話をしていれば、感染症リスク低減策は明らかに不完全だ。感染してしまった方々は、ここを怠っていたことを記憶されているのではないか。

新型コロナ感染症は、発熱などの症状が出ていない方でも感染している可能性があり、その場合は無症状のうちに他人にうつしてしまうことがわかっている(発熱などの症状が出る2日前が伝搬のピークとのデータもある)。だから、「マスクは感染者が人にうつさないためのもの」などと、いまだに誤ったリスコミをマスメディアやSNSで拡散している偽専門家たちを信じたら、自分が感染しているはずはないと勘違いした方々は、マスクをせずに他人と会食/会話して、どんどん飛沫をとばすことになる(職場クラスターのほとんどは、これが原因と推察する)。

あと熱中症のリスクの方が新型コロナの健康リスクより大きいので、高温多湿時はマスクを外した方がよいというリスコミもよくTVで見かけるが、非常に無責任なリスコミだなと思う。マスクをした場合に熱中症リスクが高い、との明確な根拠はあるのか?(サーモグラフィーで温度が高いだけでは、熱中症は発症しないはず)マスクを外す言い訳を作ってあげることが決してよいことではなく、熱中症のリスクを下げるには水を頻繁にのめばよいだけではないか。なぜ、わざわざマスクを外した方がよいと、メディアから市民にむけて、新型コロナ感染リスクを大きくするような情報発信をあえてするのか意味不明だ。夏場なのに新型コロナの新規感染者が減らない理由が、このあたりのメディアによる誤ったリスコミにあるのではないかと疑いたくなっても仕方ないだろう。

新型コロナ感染症リスクの大小を決める主な要因は、移動/旅行や経済活動(外食やイベントなども)ではなく、あくまで外出時マスク着用・頻繁な手洗い/消毒など、個人/事業者の感染症リスク低減策の良しあしに依存するものだと理解していただきたい。このような市民のリスクリテラシーやそれに多大な影響を与えるメディアのリスコミが改善してこない限り、新型コロナ感染症は抑制されないだけでなく、われわれの生きる力を支えている世界の経済活動も復活してこないだろう。

必要以上の経済制限をしないウイズ・コロナの生活様式における有効な感染リスク低減策を啓発するためには、このようにリスクの大小をイメージしながら議論すること、すなわちリスクコミュニケーションが重要ということだ。

以上、今回のブログでは「GO TO トラベルキャンペーン」から東京を除外することの矛盾について議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(参加費は1回3,000円です)。なお、フォーラム当日に視聴いただけなかった場合でも、参加者/SFSS会員には、後日YouTube動画も限定配信しておりますので、ご利用ください:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020(4回シリーズ)開催案内
http://www.nposfss.com/riscom2020/

◎SFSS食の安全と安心フォーラム第19回(7/26:オンライン)開催速報
『飲食業にとっての新型コロナ時代のリスク低減策
~食品衛生ならびに法規制上のリスクにどう対処する~』
http://www.nposfss.com/cat9/forum19_sokuho.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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