「発がん性リスク物質を含むハム・ソーセージ[ベーコン][123商品実名リスト]」⇒「フェイクニュース(レベル4)」
~週刊ポスト(2024年9月20日・27日合併号)をファクトチェック!~

ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉は発がん性の根拠が強いとの分類を国際がん研究組織(IARC)が発表したのが2015年だが、それから9年間、日本国内では加工肉の発がんリスクが大きいとの科学的根拠が示されておらず、内閣府食品安全委員会のウェブサイトでも冷静な評価となっている(https://www.fsc.go.jp/fscj_message_20151130.html)。

そんな中、先月もパンのトランス脂肪酸に関して不安を煽る記事を発信した週刊ポスト誌が、今度はハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉製品の実名を多数あげて、発がんリスクを暗示する記事を発表したので、今回ファクトチェック記事の検証対象にすることとした:

◎発がん性リスク物質を含むハム・ソーセージ[ベーコン][123商品実名リスト]
 週刊ポスト 2024.9.20.-9.27.合併号 *ネットへの記事掲載はなし
 https://www.shogakukan.co.jp/magazines/2005409124

先月の「トランス脂肪酸」に関する記事を真偽検証した際にも述べたところだが、このような健康・医学・食品安全に関する記事の厄介なところは、WHOやその下部組織が引用している科学文献や分析データ自体は事実であることが多い点だ。本記事において事実として語られている部分を疑義言説としてピックアップし、ファクトチェックを実施したので、以下をご一読いただきたい。なお、SFSSのファクトチェック運営方針/判定レーティングは、以下をご参照のこと

➡ http://www.nposfss.com/cat3/fact/02_operation_policy.html

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<疑義言説1> IARCの報告では「毎日50gの加工肉を食べると大腸がんのリスクが18%上昇する」としている(大西睦子医師)

<ファクトチェック判定> レベル2(不正確、かつミスリード)

<エビデンスチェック1>
大西睦子氏は、食品中の特定のハザード(今回であれば「加工肉」)の健康リスクについて科学文献を引用してコメントされているようだが、発がんリスクが高いとされる加工肉をよく消費される集団の栄養の偏りなどは考慮にいれておられるのだろうか? またIARCは、一部の疫学論文やメタアナリシス論文を引用しているだけで、結局、加工肉の発がん性をテーマとした科学論文をレビューした評価しかしていない、すなわち、各国の食品安全規制当局が通常行っている総合的なリスク評価をしているわけではない、との理解だ。

加工肉の発がんリスクに関しては、食品中の化学物質の安全がご専門の野良猫食情報研究所の畝山智香子先生に取材したので、以下をご参照いただきたい:

- IARCが「毎日50gの加工肉を食べると大腸がんのリスクが18%上昇する」と報告している、というのは正確な情報なのでしょうか?800の論文を評価した・・というのも事実でしょうか。

畝山:まずIARCはある物質が何らかの条件で発がん性があるかどうかのハザードを評価するのであってリスクを評価することはしない、ということは押さえておきましょう。そのうえで、IARCは2015年のモノグラフ114巻で「赤肉と加工肉」を評価しました。そして赤肉についてはグループ2A、加工肉についてはグループ1と結論しています。

この理由は赤肉についてはヒト疫学研究で正の関連が報告されているものの根拠としては限定的であること、加工肉についてはヒト疫学研究で十分な根拠がある、と判断したからです。動物実験の根拠はあまりなくメカニズムも不明です。しかしIARCはヒト疫学研究を最も重視するので、赤肉と加工肉についてはヒト疫学研究だけで判断できました。

そして800の論文という数字は「赤肉または加工肉の摂取と、ヒトの15以上の臓器でのがんの関連を調査した疫学研究」の数です。つまり加工肉だけで800の文献を調べたわけではありません。加工肉についてはたくさんの疫学研究があって、その中には多くの研究をひとつにしたメタ解析の論文も多数ありました。その中で比較的多くの論文で「毎日50g程度以上の高摂取群で最も少ない摂取量の群に比べると大腸がんのリスクが18%程度増化しているようだ」とまとめることができたのでそれを言っているだけで、IARCの結論のメインは「加工肉は大量に継続して摂取すると大腸がんの原因になることはほぼ確実」ということです。

(山崎注釈:お肉を毎日大量に摂取すると発がんリスクが高いって、今さら記事にすること?)

さらに注意すべきことはIARCの「加工肉」の定義は塩漬けや燻製、発酵など、一つ以上の加工工程を経た全ての肉製品を指すもので、亜硝酸塩の使用の有無は関係ありません。そして加工肉が何故大腸がんの原因になるのかについて結論を出しているわけではないです。亜硝酸塩や燻製工程で生じる各種化合物、ヘム鉄、塩など仮説はありますが証明されていないので、IARCの評価だけを根拠に何かを言うとすれば、全ての加工肉が発がん性の可能性があるので食べるべきではない、になります。

(山崎注釈:日本人の摂取量/暴露量が考慮されておらず「論文があるから食べるな!」というのは暴論)

<疑義言説1に関する事実検証の結論> レベル2(不正確、かつミスリード)
(食品安全委員会のウェブサイトより)以前から、食の欧米化や肉類の摂取と大腸がんの関係は、疫学研究などで指摘されており、新しい情報ではありません。日本人については、国立がん研究センターの研究によると、大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても小さい、とされています。また、2013年の国民健康・栄養調査によると、日本人の摂取量は、赤肉は50g、加工肉は13gで、世界的に見て最も摂取量の低い国の一つであり、平均的摂取の範囲であれば大腸がんのリスクへの影響はほとんど考えにくいとされています。

上述の畝山先生からのご助言のとおり、IARCが引用した文献情報自体は誤りではないものの、IARCの結論は、あくまでハザード評価(発がん性に関する論文が確かにある)であり、加工肉の摂取量を考慮した総合的リスク評価になっていないため、消費者の不安を煽るミスリーディングな言説と言っていいだろう。よって、疑義言説1に関するファクトチェックの結論は、レベル2(不正確、かつミスリード)との評価判定となった。

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<疑義言説2> IARCの発がん性分類で「グループ1」に次ぐ「グループ2A」に分類されている添加物に亜硝酸塩がある。市販のハムやソーセージ、ベーコンなどには亜硝酸塩の一種である「亜硝酸ナトリウム」が含まれている商品が多い。

<ファクトチェック判定> レベル2(不正確、かつミスリード)

<エビデンスチェック2> ここでいうIARCの発がん性分類で「グループ2A」に分類されているのは「Nitrate or nitrite (ingested)」であり、これは和訳すると「経口摂取された硝酸塩と亜硝酸塩」となる。すなわち、これは添加物の亜硝酸塩と限定した分類ではなく、食品中に含まれる硝酸塩/亜硝酸塩全般を指すと考えるべきだろう。
畝山智香子先生に、本疑義言説についても取材したので、以下をご参照いただきたい:

畝山: 硝酸と亜硝酸は野菜を食べることによってもADIを超えて摂取する可能性があるのですが、それによる健康被害は確認されておらず、硝酸含量を気にして野菜を食べないことの方が有害だろうというのが概ね合意のあることです。食品添加物由来の摂取量より天然の食品由来の摂取が多い場合はよくあり、多くの場合気にする必要はないです。

<疑義言説2に関する事実検証の結論> レベル2(不正確、かつミスリード)
野菜など天然の食品に含まれる硝酸塩/亜硝酸塩の方が、ハム・ソーセージ・ベーコン等に配合された微量の亜硝酸ナトリウムより摂取量が多いことを考えると、「発がん性リスク物質」をより多く含む野菜類も商品実名リストを調査する必要があることになるが、これはナンセンスではないのか?いずれにしても、「経口摂取された亜硝酸塩」自体はIARCの発がん性分類に掲載されているものの、添加物に限定して掲載された事実はないため、疑義言説2に関するファクトチェックの結論は、レベル2(不正確、かつミスリード)との評価判定となった。

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<疑義言説3> 「化学合成添加物の1日摂取許容量については、基準値を下回っても心疾患などのリスクが示されたケースがあり、許容量未満だから安全とは言い切れません」(中村幹雄氏/NPO法人・食品安全グローバルネットワーク事務局長)

<ファクトチェック判定> レベル3(事実に反する)

<エビデンスチェック3>
食品添加物が、許容1日摂取量(ADI)未満の摂取量でも安全とは言い切れない、という言説は初めて聞いた見解であり、この中村幹雄氏が食品安全に詳しい有識者とはとても呼べないことは明白だ。また、亜硝酸ナトリウムを使用していない「無塩せきハム」も販売されているとのことだが、賞味期限が10日短くなるということは、無添加のほうが食中毒や食品ロスのリスクが大きいことを表しており、添加物自体の無視できるような小さなリスクと比較した場合には、どちらを優先すべきかよく考える必要があるだろう。

畝山: この場合、中村氏の「安全」の定義が食品安全委員会を含む世界の食品安全機関の定義とは違うのでしょう。信頼性に関わらずどんな論文であっても疑義が提示されたら安全とは言えない、ということならほぼすべての食品は「安全とは言い切れない」になります。それではなんの役にも立たないので責任ある機関がそのような立場をとることはないのです。

<疑義言説3に関する事実検証の結論> レベル3(事実に反する)
化学合成添加物の1日摂取許容量を下回った摂取量において、健康リスクが許容範囲を超えることはない、すなわち安全であると食品安全の専門家は評価しているので、本疑義言説は科学的に誤りであることは明らかだ。よって、疑義言説3に関するファクトチェックの結論は、レベル3(事実に反する)との評価判定となった。

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今回ファクトチェックの対象とした週刊誌の記事より、疑義言説を3つピックアップして事実検証した結果、疑義言説1はレベル2(不正確/ミスリーディング)、疑義言説2もレベル2(不正確/ミスリーディング)、疑義言説3レベル3(事実に反する)、となった。しかし、記事全体のイメージはタイトルで印象が決まるので総合判定については、本記事のタイトル:「発がん性リスク物質を含むハム・ソーセージ[ベーコン][123商品実名リスト]」を疑義言説の対象として総合的な事実検証を行った。

<記事全体に対するファクトチェックの総合判定> レベル4(フェイクニュース)
本記事タイトル中の「発がん性リスク物質を含むハム・ソーセージ」というタイトル中の文言については、加工肉食品メーカー大手4社が販売するハム・ソーセージ製品のうち亜硝酸ナトリウムを含むもの123商品が「発がん性リスク物質を含む」とした時点で、添加物の含有量(1日摂取量)をまったく考察せずして、発がんリスクを暗示するのは意図的な虚偽だ。

 今回の記事の一番大きな問題は、あえて「加工肉食品大手4社が販売するハム・ソーセージ」の実名のみをあげて、いかにも健康に悪影響がある商品と名指しする信用棄損行為だろう。さらに、本記事は消費者のリスク誤認と不安を煽っていることも明白で、それにより保護者の方々が、美味しいウインナー・ソーセージを子供たちのお弁当に入れなくなったら、なんと不幸なことか・・・

 以上、本記事の内容とタイトルが善良な消費者に与えるリスク誤認と不安を考慮すると、本記事全体を検証対象としたファクトチェックの評価判定はレベル4(フェイクニュース)=意図的な虚偽情報という最終結論になった。

 なお、SFSSが2015年の段階で配信していた食の安全・安心Q&Aも、本ファクトチェックの参考になるものと思うので、ご参照いただきたい:

◎食の安全・安心Q&A【食肉・加工肉の安全性について】

また、IARCによる発がん性分類について詳しく知りたい方には、参考情報として本年6月に発刊した書籍「食の安全の落とし穴~最強の専門家13人が解き明かす真実」(小島正美・山崎毅・共著、女子栄養大学出版部刊)の「リスク1:食品添加物」、「リスク2:食品の残留農薬」「リスク13:食品のリスクアセスメント」をご参照いただきたい。

(初稿:2024年9月20日17:45)

*SFSSファクトチェックの運営方針・判定基準はこちら
*SFSSの組織概要はこちら

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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