トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸の中でも二重結合がトランス型になった一連の化合物であり、その定義やくわしい化学構造などは農林水産省のウェブサイト:『すぐにわかるトランス脂肪酸』を参照して、高校の化学で学んだ「シス」「トランス」などの幾何異性体についても復習するとよいだろう。このトランス脂肪酸について心臓病の健康リスクが疑われる疫学研究報告があり、世界的にも摂取量を抑える法規制がもうけられていることから、これまでも、たびたびメディアで採り上げられてきた。
今回ファクトチェックの検証対象となった記事もそのひとつであり、ネット上にも掲載されているので、以下をご参照いただきたい:
◎製パン大手3社が販売する「トランス脂肪酸を含む食パン&菓子パン」全204商品リスト 懸念される健康への悪影響、パッケージへの表示義務はなし(前編)
マネーポストWEB 2024.8.27 ※週刊ポスト2024年8月30日号
https://www.moneypost.jp/1180601
◎【製パン大手3社が回答】健康への悪影響が懸念される「トランス脂肪酸」を含む製品に関する取り組みと“現在でも主要商品に含まれている理由”(後編)
マネーポストWEB 2024.8.27 ※週刊ポスト2024年9月6日号
https://www.moneypost.jp/1180605
脂質に詳しい栄養学の専門家であれば、「トランス脂肪酸」の含有量だけで加工食品の健康影響を語っている時点で、ミスリーディングな記事との予測がつくと思うが、このような健康・医学・食品安全に関する記事の厄介なところは、科学文献や分析データ自体は事実であることが多い点だ。
本記事において事実として語られている部分を疑義言説としてピックアップし、ファクトチェックを実施したので、以下をご一読いただきたい。なお、SFSSのファクトチェック運営方針/判定レーティングは、以下をご参照のこと➡ https://nposfss.com/fact-check/02_operation_policy/
<疑義言説1>
トランス脂肪酸は1990年代以降、健康への悪影響が指摘されてきた。1993年に発表された米ハーバード大学の研究では、トランス脂肪酸の摂取量が最も高いグループが最も低いグループに比べて「心疾患」のリスクが50%高くなったとの結果が示された。前出・大西医師が解説する。「心疾患とは心筋梗塞や狭心症、不整脈などの心臓に起こる病気です。研究では、トランス脂肪酸が血中の悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減少させることで引き起こされると結論づけられました」
2019年には九州大学などの研究グループが、血中のトランス脂肪酸濃度の上昇が「認知症」の発症と有意に関連するとの研究結果を発表した。「トランス脂肪酸と『がん』の関連を調べる研究も進められています。2012年のベルギーの研究者らによる報告で、トランス脂肪酸の大量摂取によって前立腺がん、大腸がんのリスクが高まると指摘されました。2021年発表のフランスの研究では、乳がんのリスクが増加する可能性が示されました。このほか、脳卒中の発症との関連も指摘されています」(大西医師)
<ファクトチェック判定> レベル2(不正確、かつミスリード)
<エビデンスチェック1>
大西睦子氏は、たびたび週刊誌やネット記事において、食品中のハザードの健康リスクについて科学文献を引用してコメントされているが、摂取量とリスクの関係について言及されないケースが多いようだ。「トランス脂肪酸の大量摂取によって前立腺がん、大腸がんのリスクが高まる」とあるが、一体、今回分析された菓子パンでいえば、何個くらい食べたらその「大量摂取」に相当するのか。健康リスクを解説する場合には、ハザードの摂取量/暴露量についての説明が必須のはずである。
トランス脂肪酸の生体への悪影響については、大西氏も最初に言及された米ハーバード大学によるメタアナリシスの論文成績が、もっとも信頼できるエビデンスとして、WHOや日本の食品行政機関も引用している文献情報だ。トランス脂肪酸の健康影響に関する科学的エビデンス情報については、油脂化学が専門の東京海洋大学海洋生命科学部教授の後藤直宏先生に取材したので、以下をご参照いただきたい:
- トランス脂肪酸は人体への悪影響があるので、WHOもカロリーベースで1%未満での摂取を推奨しているとのことです。1%を超えるとどんな悪影響が出るのでしょうか?
後藤:実際に悪影響が言われているのは2%以上かと思います(WHO推奨の「1%」というのは、安全の安全を見ている)。この値を超えると、血中の悪玉コレステロールと善玉コレステロールの比率が悪化すると言われており、それに起因して「トランス脂肪酸の摂取量が増加すると心臓病発症率が増加する」という点は、疫学研究から得られた知見が元になっています。
ハーバード大学のAscherioたちが1999年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに報告したメタアナリシスの結果では、トランス脂肪酸のカロリーベースでの摂取量が増えてくると、LDL/HDLの比率が大きくなっていく、すなわち虚血性心疾患の発症リスクが高くなることを示しました。
(参考)食品に含まれるトランス脂肪酸(内閣府食品安全委員会、食品健康影響評価)より
P44図4に上述のメタアナリシス論文の成績が紹介されている
http://www.fsc.go.jp/sonota/trans_fat/iinkai422_trans-sibosan_hyoka.pdf
さらに、ハーバード大学のMozaffarianたちが2006年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに報告した総説では、トランス脂肪酸のカロリーベースでの摂取量が2%を超えてくると虚血性心疾患の発症リスクが問題となることが示されました。ある意味この報告が世の中の栄養学のルールを決めたといっても過言ではありません
なお、トランス脂肪酸摂取と糖尿病、癌、アレルギーなど様々な疾病との関係が疑問視されることが多いですが、それを裏付ける明確なエビデンスはないと考えます。
- 内科医の大西睦子氏から、具体的に認知症・前立腺がん・大腸がん・乳がん・脳卒中の発症にもトランス脂肪酸が影響しているとのご指摘なのですが・・
後藤:記事に登場する文献情報に対しての小生の評価は、以下の通りです:
「2019年には九州大学などの研究グループが、血中のトランス脂肪酸濃度の上昇が「認知症」の発症と有意に関連するとの研究結果を発表した」
➡ 九州大学と神戸大学が行った久山町研究は、エライジン酸摂取量の増加が認知症の増加につながることを示した疫学調査である。このことから部分水素添加油の摂取は認知症に対して問題があることを提起した研究と言える。ただし、エライジン酸は反芻動物由来食品にも多く含まれているトランス脂肪酸異性体であり、なぜこの結果から部分水素添加油摂取が問題と言い切れるのか疑問が残る。(逆に考えると、乳製品や牛肉を食べると認知症になると考察できるがそれでも良いのだろうか?)まさか、部分水素添加油中のトランス脂肪酸はエライジン酸だけで、反芻動物由来食品中のトランス脂肪酸はバクセン酸だけと考えているのか?
「2012年のベルギーの研究者らによる報告で、トランス脂肪酸の大量摂取によって前立腺がん、大腸がんのリスクが高まると指摘されました。2021年発表のフランスの研究では、乳がんのリスクが増加する可能性が示されました。このほか脳卒中の発症との関連も指摘されています」
➡ これらはすべてハザード性評価しかしていないので量的な議論はありません。つまりリスク評価はされていません。もしこのようなことを提言するのならば、どれだけ食べたら問題があるのかを記すべきです。太陽の光と発がん性との議論と同じことです。
<疑義言説1に関する事実検証の結論> レベル2(不正確、かつミスリード)
トランス脂肪酸の摂取量がカロリーベースで毎日2%(4g程度)を超えるような場合に、LDL/HDL比率が上昇し、心疾患の発症リスクが上昇するという信頼できる疫学情報があるのは事実だ。その点で、大西氏が指摘した前半のエビデンス情報は事実と評価できるが、摂取量がカロリーベースで2%以上の場合との言及がなく、不正確と評価する。さらに、トランス脂肪酸の摂取量と認知症・がん・脳卒中などの発症との因果関係については、いまだ信頼できるエビデンスとは言えない(学会での定説にもなっていない)。よって、疑義言説1に関するファクトチェックの結論は、レベル2(不正確、かつミスリード)との評価判定となった。
<疑義言説2>
2018年には、WHO(世界保健機関)がトランス脂肪酸の食品への含有を「2023年までに全廃する」との目標を掲げ、その勧告に応じて規制を導入した国は2022年末時点で46か国に達している。
<ファクトチェック判定> レベル3(事実に反する)
<エビデンスチェック2>
本記事の冒頭でも紹介した農林水産省のウェブサイト:『すぐにわかるトランス脂肪酸』によると、食品中のトランス脂肪酸は反芻動物由来の天然のものや、植物油の脱臭工程で生成されるものも含まれるため、食品からトランス脂肪酸を完全に除去すること(=「全廃」)は不可能だ。当該週刊誌記事の後編でも、そのあたりを製パンメーカー3社の担当者も完全除去は難しいと回答している。
疑義言説で言及されている2018年のWHOによる目標設定については、農水省ウェブサイトに以下のような記載がある:
“WHOは、トランス脂肪酸の摂取量の目標とは別に、2018年、加工食品を製造するときにできるトランス脂肪酸を減らすための行動計画(REPLACE)を公表しました。WHOは、各国の政府に対し、この「REPLACE」を使って、2023年までに、加工食品を製造するときにできるトランス脂肪酸を減らすよう呼びかけており、特に、部分水素添加油脂の食品への使用規制や、食品中のトランス脂肪酸濃度の上限値の設定を推奨しています。こうした規制を導入する国は、近年増加しています。“
(参考)WHOウェブサイトのREPLACEに関する広報ページ
https://www.who.int/teams/nutrition-and-food-safety/replace-trans-fat
すなわち、WHOが2018年に発表した行動計画でも、工業的に生成されるトランス脂肪酸をできるだけ減らすアクションを摂取過剰の国々に対して指導し、2023年までにこの行動計画を完遂すると宣言しているのであって、食品中のトランス脂肪酸含有を全廃する(ゼロにする)とは言っていない。あくまでトランス脂肪酸摂取量をカロリーベースで1%未満にするというWHOの勧告した基準を消費者が達成できるよう、各国に働きかけているということだ。
また農水省ウェブサイトには、以下のような記載もある:
“トランス脂肪酸をとる量が少ない国では、食品中のトランス脂肪酸について、表示の義務づけや濃度の上限値の設定は行わず、事業者に、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の総量を自主的に低減するよう求めているところがあります。”
“食品安全委員会は、平成24年(2012年)3月に、食品に含まれるトランス脂肪酸の健康影響評価(リスク評価)の結果〔外部リンク〕を公表しました。この評価では、日本人のトランス脂肪酸の平均的な摂取量を、平均総エネルギー摂取量の約0.3%と推定しており、「日本人の大多数がエネルギー比1%未満であり、また、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる」と結論しました。”
<疑義言説2に関する事実検証の結論> レベル3(事実に反する)
上述のとおり、本疑義言説における「2018年には、WHO(世界保健機関)がトランス脂肪酸の食品への含有を「2023年までに全廃する」との目標を掲げ」とした部分は事実ではなく、あくまでWHOがトランス脂肪酸過剰摂取の国々に対して、できるだけ工業的に生成される加工油脂中のトランス脂肪酸を低減するよう勧告しただけであり、「トランス脂肪酸の食品への含有を「2023年までに全廃する」」とは言及していないことが判明した。よって、疑義言説2に関するファクトチェックの結論は、レベル3(事実に反する)との評価判定となった。
<疑義言説3>
「日本人の平均的な総エネルギー摂取量で換算すると、『1日当たり約2グラム未満』となります」(前出・井上教授)同商品を1日に2個食べたとしても2グラムには届かないが、井上教授はこう付け加える。「『2グラム未満であれば食べても問題ない』という意味ではありません。心疾患、がん、認知機能の低下などといった症状は、その人の生活習慣や持病などによって発症リスクが異なります。人体への有害性リスクが指摘されている以上、摂取しない選択をできる環境は必要です」
<ファクトチェック判定> レベル2(不正確、かつミスリード)
<エビデンスチェック3>
上述の農水省ウェブサイト:『すぐにわかるトランス脂肪酸』には、以下のような記載がある:
“国際機関が生活習慣病の予防のために開催した専門家会合(食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合)は、食品からとる総脂質、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等の目標値を2003年に公表しました。その中で、トランス脂肪酸の摂取量を、総エネルギー摂取量の1%に相当する量よりも少なくするよう勧告をしています。日本人が1日にとるエネルギー量の平均は約1,900 kcalであり、この1%に相当するトランス脂肪酸の量は約2グラムです。”
すなわち、このWHOの勧告内容を読んだ限りでは、2グラム未満のトランス脂肪酸摂取により健康への悪影響が起こるという信頼できる科学的根拠はないものと解釈できる。すなわち、井上氏により指摘されている懸念に関しては、どのくらいのトランス脂肪酸摂取によりがんや認知症の発症リスクが上昇するのか、国際学会でコンセンサスが得られていない状況と考えられる。
そもそもヒトへの健康リスクを評価する場合に、具体的な暴露量/摂取量の提示がない時点で、典型的な「ゼロリスク症候群」(摂取量の観点が欠落したオール・オア・ナン)の見解ではないのか。また加工食品に天然由来や植物油由来のトランス脂肪酸が、微量に含有する状況は変わらないため、トランス脂肪酸をまったく「摂取しない」という環境はありえない。
ただし、加工食品中の気になる栄養成分の含有量(たとえば「食塩相当量」)を知りたいとする消費者のニーズに対して、ラベル表示で応えるという方針自体は悪いことではないだろう。しかし、含有量をラベルに表示することで、消費者のリスク誤認につながり、相対的に危ない加工食品として恐れる消費者が多数出現する環境はよいことではないと考えられる。
たとえば、「この野菜には####という農薬がわずかに0.005ppm残留していますが、安全性に問題はありません」などとラベル表示してあったら、そのような野菜をあなたは買うだろうか。ヒトへの健康影響が否定されている微量成分の含有量を、あえてラベル表示してしまうと、むしろ消費者の正しいリスク感覚による商品選択を阻害することにつながると考えるべきだろう。その意味で、製パン大手メーカー3社が、食品のラベルにトランス脂肪酸含有量を表示するのではなく、各社のウェブサイトで知らせているのが適切と評価したい。
<疑義言説3に関する事実検証の結論> レベル2(不正確、かつミスリード)
上述のとおり、本疑義言説における「『2グラム未満であれば食べても問題ない』という意味ではありません。心疾患、がん、認知機能の低下などといった症状は、その人の生活習慣や持病などによって発症リスクが異なります。人体への有害性リスクが指摘されている以上、摂取しない選択をできる環境は必要です」とした部分は、あくまで井上氏による評価であって、WHOや日本の食品行政(専門家の調査会を含む)におけるリスク評価とは異なることが判明した。ただし、トランス脂肪酸の加工食品中の含有量を知りたいという消費者の選択の権利は守られるべきであり、その点に関する井上氏のコメントは誤りではない。よって、疑義言説3に関するファクトチェックの結論は、レベル2(不正確、かつミスリード)との評価判定となった。
今回ファクトチェックの対象とした週刊誌の記事より、疑義言説を3つピックアップして事実検証した結果、疑義言説1はレベル2(不正確/ミスリーディング)、疑義言説2はレベル3(事実に反する)、疑義言説3はレベル2(不正確/ミスリーディング)となった。しかし、記事全体のイメージはタイトルで印象が決まるので総合判定については、本記事のタイトル:「製パン大手3社が販売する「トランス脂肪酸を含む食パン&菓子パン」全204商品リスト 懸念される健康への悪影響、パッケージへの表示義務はなし」を疑義言説の対象として総合的な事実検証を行った。
<記事全体に対するファクトチェックの総合判定> レベル4(フェイクニュース)
本記事タイトル中の「(日本では)トランス脂肪酸のパッケージへの表示義務はなし」という文言は事実だ。農林水産省のウェブサイト:『すぐにわかるトランス脂肪酸』には、以下の記載がある:
“食品安全委員会は、食品からトランス脂肪酸をとることによる日本人の健康への影響について、「通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる」としています(平成24年(2012年)3月)。日本では、食品中のトランス脂肪酸について、表示の義務や濃度に関する基準値はありません。また、トランス脂肪酸だけではなく、不飽和脂肪酸や飽和脂肪酸、コレステロールなどの他の脂質についても表示の義務や基準値はありません”
すなわち、現時点で日本人の通常の食生活においてトランス脂肪酸の過剰摂取が健康に悪影響を与えている可能性が極めて低いため、パッケージへのトランス脂肪酸の含有量表示を義務付けていないと明言しているわけだ。
次に、「製パン大手3社が販売する「トランス脂肪酸を含む食パン&菓子パン」全204商品リスト 懸念される健康への悪影響」というタイトル中の文言については、製パン大手3社が販売する食パン&菓子パン・全204商品についてトランス脂肪酸の含有量を調査された点は事実だろうが、「懸念される健康への悪影響」という見解は明らかに誤りだ。
なぜなら、今回調査された食パン&菓子パン・全204商品のトランス脂肪酸含有量は、すべて1個当たり1gを超えておらず、WHOや日本の食品行政(食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省、消費者庁)の専門家たちが勧告しているトランス脂肪酸の摂取量上限=「カロリーベースで1%(通常の食事摂取量でいえば2g程度)」をクリアしているからだ。すなわち、今回調査された食パン&菓子パン・全204商品のトランス脂肪酸含有量のデータが、むしろ「健康への悪影響がない」ことの証拠として、皮肉な結果をもたらしていると言えるだろう。
「いえいえ、トランス脂肪酸を0.8グラム含有する菓子パンを3個以上食べてしまったら、2gのWHOの勧告基準を超えて、健康への悪影響が懸念されるじゃないですか?」というご指摘もあるかもしれない。しかし、同じ菓子パンばかり毎日3個以上食べるような食生活は、そもそも健康的な栄養バランスの食習慣とは言えず、トランス脂肪酸の含有量がどうこうの議論以前の問題だろう。
それよりも、トランス脂肪酸は我々人間が必要としている脂質という栄養素のひとつであり、決して毒物ではないということ。それでも、トランス脂肪酸を毎日過剰摂取してしまう(カロリーベースで2%以上など)と、心臓病の発症リスクが上昇するエビデンスがあるので、各人が脂質全般に関する栄養バランスに留意した食生活を心がけることこそが重要ということだろう。
今回の記事の一番大きな問題は、なぜあえて「製パン大手3社が販売する食パン・菓子パン」の実名のみをあげて、いかにも健康に悪影響がある商品と名指しして、消費者のリスク誤認と不安を煽っていることだ。実際、ここに掲載されているパンを食べている消費者は、毒を食べさせられたかのような不安にかられる方も多いだろう。
「市販の加工食品3つ(A,B,C)の食塩相当量を調査したところ、1食分でA:2.5g、B:3g、C:3.5gでした。塩分の過剰摂取は脳卒中のリスクが大きく、WHOも摂取量を減らすよう推奨しています」ここまでは事実であり誤りではないが、「結論:加工食品ABCは1日3回食べたら、WHOの塩分摂取推奨量を超えるので要注意だ」と、あえて商品ABCの実名のみをあげてメディアで警鐘をならすのは、明らかに当該商品に対する信用棄損行為に違いない。
以上、本記事の内容とタイトルが善良な消費者に与えるリスク誤認と不安を考慮すると、本記事全体を検証対象としたファクトチェックの評価判定はレベル4(フェイクニュース)=意図的な虚偽情報という最終結論になった。
なお、トランス脂肪酸について詳しく知りたい方には、参考情報として本年6月に発刊した書籍「食の安全の落とし穴~最強の専門家13人が解き明かす真実」(小島正美・山崎毅・共著、女子栄養大学出版部刊)のp183-p198「リスク11:トランス脂肪酸(東京海洋大学教授の後藤直宏先生に取材)」をご参照いただきたい。
(初稿:2024年9月2日12:00)
*SFSSファクトチェックの運営方針・判定基準はこちら。
*SFSSの組織概要はこちら。
【文責:山崎 毅 info@nposfss.com】