常務理事/ SFSS理事
佐々義子
■ロールプレイをとりいれたワークショップ
特定非営利活動法人くらしとバイオプラザ21は2002年、バイオ産業人会議の提案によって設立され、多様な人々との間でバイオテクノロジーを中心としたコミュニケーションを実践したり、研究したりしてきた。本稿では、ゲノム編集食品の社会実装に向けた活動の中で開発したワークショップ手法「ステークホルダー会議」について報告する。
日本では2020年に高GABA蓄積トマトが、2021年に肉厚のタイ、成長の早いトラフグが上市されたが、このステークホルダー会議が考案されたのはその前であった。全国で50回以上の専門家と市民がゲノム編集食品について話し合う場を企画した。多くの参加者がゲノム編集食品に期待を抱いても、最後に不安を口にする参加者がいると、予防原則のような雰囲気が出てきて、全体としての総意は新しい食品には用心しようというような、ネガティブな論調で閉会になることが多かった。
そこで、専門家の話題提供の後のグループディスカッションにロールプレイをとりいれてみた。生産者役のグループ、食品メーカー役のグループ、消費者役のグループなどのいくつかの役割をつくって、その役だったらどう考えるかを話し合ったところ、「消費者として食べるのには不安があるが、小売りとしてはゲノム編集食品も取り入れて差別化を図りたい」というような発言がでた。意見に多様性が生じた。 ディスカッションの後には、各グループにそのゲノム編集食品を使うか、使わないかの答えと簡単な理由を発表してもらい、その場でYES-NO表に記入して、意見の多様さを「見える化」してみた。以前のネガティブな閉会とは景色が変わった。
実際には、ゲノム編集技術により自然毒をできにくくしたジャガイモ、肉厚のタイに関するステークホルダー会議を生協の学習会、大学の講義などで何度も行ってきた。コロナ以降はオンラインでブレイクアウトセッションの機能を使って、ステークホルダー会議を行っている。図1は2018年に初めて行った時、図2は2023年に行った時の結果だ。上市される前に比べると、最近はYESが多くなってきているようだ。
ステークホルダー会議の利点は、1)立場を変えてディスカッションをすることで、多様な発言を引き出せる、2)グループディスカッションで発言することで参加者の参加感・満足度が増す、3)ゲーム感覚で楽しいなどである。課題としては、1)複雑なテーマはとりあげにくい(例:ゲノム医療など、倫理的な要素が強い)、2)グループディスカッションの基盤になる話題提供の内容や方法に影響されやすいので、講師探しが大変なことがあるなどがあげられる。本手法は学習手法としても評価されている。より多くの方にこの手法を利用していただき、頂いたコメントを糧にさらなるブラッシュアップができたら、望外の喜びである。