企業や市民団体の食への取り組み

迅速検査研究会
迅速検査研究会 理事/SFSS理事
本間 茂

■ライバル同士が集まるユニークな研究会
 当研究会は1999年6月に「ATPふき取り検査研究会」として発足し、2005年に「ATP・迅速検査研究会」、2022年に「迅速検査研究会」と名称を変えて、現在に至っています。
 今でこそ“ATPふき取り検査”は食品衛生に携わる人であれば誰もがご存じの検査法ですが、その概念がもたらされた90年代初めには“清浄度は微生物(一般生菌)の多寡で判定すること”があたり前であり、食品残渣に含まれるATPを汚染指標とするこの検査法はほとんど知られていませんでした。
 一方でATP測定を応用した微生物数を測定することは古くから知られており、この二つが混同され、「測定値は微生物数とイコールである!」等の誤解が広がり、この検査法への正しい理解を広めることが最重要課題となりました。
 そのような中、当時日本食品保全研究会を主催され、東京都衛生研究所OBで迅速検査法の先駆者である春田三佐夫先生のお声掛けにより、この検査法に関わる試薬・機器メーカー、販売業者が集まって発足したのが、当研究会でした。その後も、食品微生物検査の分野の第一人者であり、かつ迅速検査の意義や役割についても積極的に情報発信をしておられる東京顕微鏡院の伊藤武先生、農研機構の川﨑晋先生に会長として牽引していただき、現在に至っています。
 そのような背景から、市場ではシェア争いにしのぎを削るライバル同士が、研究会では協働して次のイベントの相談をしているという、とても不思議でユニークな研究会が生まれました。2005年に「ATP・迅速検査研究会」と改称した後も、この“不思議でユニーク”な性格は続いており、例えば寒天培地を代替するフィルム培地等を扱う全てのメーカー・販売元が会のメンバーとして運営に参画しています(図1)。これは「衛生管理に関わる知識・技術は公共財」という考え方がベースにあって成り立っているのではないかと私は考えています。

■多岐にわたる活動
【講演会】
 1999年6月の発足記念講演会に始まり、年2回のペースで開催してきた講演会は、昨年3月に51回を数えることが出来ました。延べ180件を超える講演は、主に会長が担う「基調講演」、保健所をはじめとした行政、国公立・民間の試験研究機関・大学関係者による「特別講演」、迅速検査を応用した「事例紹介」、そして当会が実施した研究活動の報告等から構成されています。
 演者・演題の詳細は研究会ウェブサイト<https://jinsokukensa.com/kouen.html>に紹介されていますが、ここでは当会講演会の特徴である「事例紹介」について、少し詳しく説明します。このカテゴリーでは60件を超える演者・演題を数え、これまで扱われた分野は飲料・食品工場はもちろん、牛乳の搾乳現場、食品流通、レストラン・居酒屋・ファストフード・ホテルなどのフードサービス、学校給食・企業給食・病院給食、院内感染対策、保健所・学校等での衛生教育、食品工場の洗浄サービス等々、大変多岐にわたっています。これは当会がコンセプトに掲げる「いつでも、どこでも、誰にでも、安全かつ迅速に行える衛生検査」の適用分野が広いことを示していると考えています。
【実習/研修会】
 「HACCP導入のための迅速検査実習」と題する実習/研修会は、主に食品安全・食品衛生に携わる方々を対象に、ATPふき取り検査やタンパクふき取り検査、アレルゲン検査キット、簡便・迅速な微生物検査の培地や装置、各種キットの有用性や操作性の良さを実際に体感していただくことを目的に、2016年から“体験型”の講習会として開催しています<https://jinsokukensa.com/jisyu_report_12.html>。
 一昨年からは年2回の開催ペースが定着、2025年3月には初めて関西(神戸三宮)でも開催し、全体で13回を数えるまでになりました。
 また、昨年度は新しい試みとして微生物検査を行う実務者を対象に、培地作成の際に注意すべきノウハウや、菌種同定の仕組み解説等を行った「培地学特別講座」を行いました。今後も迅速検査や衛生管理をテーマとしたこの種の小規模研修会を企画・実施していきたいと考えています。
【書籍刊行】
 当会ではこれまでに、①新しい衛生管理法 ATPふき取り検査(2000年初版、2005年改訂版、2009年改訂増補版)、②現場のためのATPふき取り検査マニュアル 基礎から応用まで(2016年)と題する書籍を刊行しました。
 これらはタイトルが示すようにいずれもATPふき取り検査を扱ったものでしたが、今後はATP検査にとどまらず、種々の迅速検査法を広く取り入れた形で、より実践的な清浄度管理の手段や考え方を発信・広報できるよう、作業を進めているところです。

■おわりに
 食品製造現場には食中毒菌汚染、アレルゲン混入等、食品の安全を脅かすリスクが隠れており、これらは“洗浄・殺菌”によって排除され適切な清浄性が維持されなければなりません。また、先の新型コロナウイルスパンデミックは、医療、介護、温浴施設、コンサート会場などの集会施設等々、人の集まる場所すべての衛生管理や、そこに関わる人々の衛生習慣の重要性を改めて認識させました。このような現場では、その場で扱いやすい検査手法と迅速なフィードバックが求められますが、ここで役立つのが様々な迅速検査技術です。
 当会は、衛生管理における迅速検査法に関する調査・研究と、その成果に基づいた適切な情報提供や提言を行い、迅速検査法を活用した衛生管理技術の向上・発展に寄与することを目的として、先に述べたような活動を行っています。皆様の当会活動へのご参加をお待ちしております。

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