食のリスクコミュニケーション・フォーラム2014 (4回シリーズ) 活動報告

2014年4月から10月にかけて標題のミニフォーラムが4回シリーズで開催されました。

毎回30名前後のご参加があり(定員30-40名)、リスコミ/食の安全・安心に関してのご講演とパネルディスカッションで非常に有意義な意見交換ができました。

■食のリスクコミュニケーション・フォーラム
テーマ:「食の安心につながるリスコミを議論する」

【開催日程】
第1回 2014年4月20日(日)13:00~17:40
第2回 2014年6月29日(日)13:00~17:40
第3回 2014年8月31日(日)13:00~17:40
第4回 2014年10月26日(日)13:00~17:40

【開催場所】東京大学農学部フードサイエンス棟 中島董一郎記念ホール
【共催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)、一般財団法人社会文化研究センター
【後援】東京大学大学院農学生命科学研究科食の安全研究センター、一般社団法人品質と安全文化フォーラム
【参加費】3,000円/回

【当日の写真、講演要旨、&アンケート集計結果】

<第1回 2014年4月20日(日)>

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吉井 正武(一般財団法人社会文化研究センター常務理事)

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山﨑 毅(SFSS理事長)

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髙橋 梯二(東京大学非常勤講師)

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岸本 充生(東京大学公共政策大学院特任教授)

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① 『食品成分自体の健康リスクを検証』
山﨑 毅(SFSS理事長)

食の安全・安心を語る際に、合成の食品添加物がよく議論の対象となるが、実際は天然の食品成分自体が生活習慣病などヒトの健康に悪影響を及ぼすことが多い。もちろん食品の栄養バランスがその主原因だが、加工食品中の特定成分(トランス脂肪酸、アクリルアミド、フランなど)も、内閣府食品安全委員会のリスク評価の対象となってきた。これらの健康リスクが実際どの程度かを検証し、そのリスク情報をどう伝えていけば消費者の不安を煽らないか、について議論したい。

② 『食品の安心と不安をどうとらえるか』
髙橋 梯二(東京大学非常勤講師)

食品に関連して日本では、「安全」と「安心」が併存しているが、安心について関係者間で見解の違いが大きく、消費者と事業者・行政との間での食品の安全に関する認識の違いが縮まらない。したがって、リスク分析、WTO、コーデックスにおける安心の取り扱い、日本社会と欧米における安心の思想の比較など多角的な方向からの検討を行い、食品の安全を確保し、消費者の不安を取り除いていく上で、「安心」をどのように理解し、捉えていくべきかを検討する。その上で、リスクをゼロにすることができないリスク社会における対応のあり方を模索する。

③ 『リスクに正面から向き合うには』
岸本 充生(東京大学公共政策大学院特任教授)

リスクコミュニケーションの議論において、「リスク」部分が無視あるいは軽視され、「コミュニケーション」部分に偏る傾向がある。安全を、リスク概念を使わずに説明していることは、安全を結果で判断する、民間認証が根付かない、手続きへの軽視などにつながり、社会のリスクを最小化することや責任あるイノベーションにはつながらない。講演では、リスクに正面から向き合うためのリスクコミュニケーションの戦略について、それが可能か、そして可能だとしたらどのように実施すればよいのか、について思うところを述べ、議論を行いたい。

第1回 アンケート集計結果pdf

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<第2回 2014年6月29日(日)>

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荒井 祥(上野製薬株式会社 食品事業部事業企画部企画課 課長)

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古川 雅一(東京大学農学生命科学研究科特任准教授)

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中嶋 洋介(品質と安全文化フォーラム代表理事)

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①  『食品添加物・保存料についての消費者意識とメーカーの取組み事例』
荒井 祥(上野製薬株式会社 食品事業部事業企画部企画課 課長)

食の安全において最も大きな課題の一つは、腐敗や食中毒の原因となる微生物の制御である。上野製薬㈱は食品工場の衛生化に役立つ資材・サービスを提供しており、保存料等の食品添加物もその一つである。食品添加物は安全性が確認されており、特に保存料等については適切な使用が食品の安全性を高める。しかし、消費者は食品添加物に不安を感じていると言われている。本フォーラムでは、弊社における食品添加物への消費者意識調査の結果やコミュニケーション・情報発信の事例について報告する。本フォーラムから、弊社の今後の取組みへのヒントをいただけるものと期待している。

② 『なぜ、消費者はわかってくれないのか ~情報の捉え方と行動パターンを理解する~』
古川 雅一(東京大学農学生命科学研究科特任准教授)

人間は感情を持つ動物であるがゆえに、さまざまな不合理な行動をとってしまう。安全性といった何らかの情報を与えられた際も同様である。ただ、その不合理な行動には一定のパターンが存在する。本フォーラムでは、そのパターンについて解説するとともに、それぞれの不合理性に対する対処法について、消費者対応・リスクコミュニケーションの視点から考える。

③ 『食品の安全・安心と”コミュニケーション”』
中嶋 洋介(品質と安全文化フォーラム代表理事)

食品の安心を実現するためには、科学技術(製造)によって食品に潜在するリスクを消費者が受容できるレベルにまで低減させ、食品に残留するリスクが十分に小さいことを検証して、その結果を消費者に伝えねばなりません。しかし、安全を実現した企業が消費者からの信頼を失っている場合には、どのような情報を発信しても、消費者には受け入れられないでしょう。その意味では、安心は安全と信頼の関数と言えるのですが、消費者からの安心を得るための重要なツールが”コミュニケーション”です。皆さんが良く使われている”リスクコミュニケーション”という用語は1988年頃に現れたのですが、いずれは消えていく可能性が高いと思われます。そこで、この用語の問題点と、食品の安全と安心のためにはどのようなコミュニケーションが必要かについて、皆さんと一緒に考えたいと思います。

第2回 アンケート集計結果pdf

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<第3回 2014年8月31日(日)>

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関崎 勉 (東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター センター長・教授)

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北野 大(淑徳大学人文学部 教授)

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細野 ひろみ(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)

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① 『食中毒予防のリスコミ:一般消費者には専門書を読むほど難解か?』
関崎 勉 (東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター センター長・教授)

「ご飯の前に手を洗いましょう。」「何故?」「手にはばい菌がついているからです。」 これは、食中毒防止の基本的なリスクコミュニケーションで、恐らく昭和以前から交わされてきた会話である。しかし昨今、ユッケ食中毒に端を発した牛肉・レバーの生食企画基準設定とそれに対する一般消費者からの賛否両論入り交じる議論を見ると、食中毒のリスクコミュニケーションはそんな単純な会話では伝わらなくなったと感じる。専門家には当たり前のように認識されている食中毒予防の心得を、細かく丁寧に伝えれば、一般消費者は自身で行動できるのか、それとも一般消費者に基本的な事柄を伝えることすら不可能なのか、演者のこれまでの活動を振り返って議論してみたい。

② 『安全・安心とリスクコミュニケーション』
北野 大 (淑徳大学人文学部 教授)

20世紀は安全を求めた世紀であったが、21世紀は安全・安心な世紀にすることが望まれている。安全はその時点における科学技術に裏付けられた客観的事実であるのに対し、安心は自らの理解と納得に基づく主観的な事実である。 この安全と安心の橋渡しをするのがリスクコミュニケーションともいえる。本講演では安全学の考え方と最近の事故例について、次にリスクコミュニケーションの概要及び化学物質や食の安全に係るリスクコミュニケーションの場での質疑応答例などを受講者とともに考えていきたい。

③ 『放射能汚染と消費者意識~震災後3年 の変化』
細野 ひろみ(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)

東日本大震災から3年 が経過し、首都圏に住む私たちの生活はほぼ日常を取り戻している。被災地では、人々の生活を取り戻すべく懸命の努力が続けられているが、 原子力発電所の事故は収束に至っておらず、地域の復興と食品や環境中の放射能汚染については今後も長く我々日本人が考えていかなくてはな らない課題である。本報告では、震災発生後に実施された食品の放射能汚染をめぐる消費者調査を振り返り、私たちはどのような食と農を望んでいるのか、そのためにフードシステムの各主体は何をすべきか、考えてみたい。

*細野ひろみ先生のご講演資料に一部誤りがあったとのことをご了承ください:
http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/information/news/1411%EF%BC%917_owabi.html

第3回 アンケート集計結果pdf

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<第4回 2014年10月26日(日)>

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田野井 慶太朗(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)

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向殿 政男(明治大学 名誉教授)

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蒲生 恵美(公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会)

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① 『食・農業環境の放射能汚染』
田野井 慶太朗 (東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故では、多くの農業の場や環境が汚染されました。農業は、自然環境を利用して作物を生産する活動であるが故に、大きな影響を受けました。本講演では、事故から3年半が経過する中で行われてきた調査により判明したことや、未だ解決できないことについて紹介したい。その上で、従来から問題となっている風評被害を含め、食や農業における放射能汚染に我々はどのように向かい合っていけばよいのか、受講者と一緒に考えていきたい。

② 『安全学における安心の位置づけ』
向殿 政男 (明治大学 名誉教授)

各分野の安全を包括的に考察し、共通する事項を総合的に、統一的に体系化しようとする新しい学問を安全学と呼んでいる。安全学では、例えば、安全の確保は、技術的側面、人間的側面、及び組織的側面の三側面からバランスを考慮して、総合的に考えて対応しなければならないとしている。それぞれの役割は、技術的にリスクを低減し、残ったリスクの存在に注意しながら人間が利用し、それらが正しく行われているかを規則や組織を作って監視するという関係にある。この関係において、企業や国は安全な製品を作ることを目指すが、現実には、顧客は安心を求めている。安全と安心の関係を安全学の視点から考えてみることにする。

③ 『食品安全情報の消費者教育』
蒲生 恵美 (公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会)

遺伝子組換え作物はリスクコミュニケーションで多く取り上げられてきたテーマの1つであり、国内外を問わず研究報告も多い。食品安全委員会がH16から毎年行っている意識調査では、食品の安全性の観点から遺伝子組換えを不安であると回答する割合は年々低下傾向にある。一方で遺伝子組換え作物の安全性評価の仕組みや輸入の実態などの具体的な事実はほとんど理解されていないという指摘もある。
そのような中、遺伝子組換えの新たな技術に関するコミュニケーションはいかにあるべきか模索が始まっており、遺伝子組換え食品の表示制度見直しも予定されている。遺伝子組換え作物について消費者に何をどのように伝えるべきか考える機会としたい。

第4回 アンケート集計結果pdf

2015年も「食のリスクコミュニケーション・フォーラム」を開催予定ですので、
ふるってご参加ください。

<文責:山崎 毅>

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