食のリスクコミュニケーション・フォーラム2022(4回シリーズ)活動報告

2022年4月から10月にかけて食のリスクコミュニケーションを テーマとしたフォーラムを4回シリーズで開催いたしました。
毎回90名~120名程のご参加があり、3人の専門家より、 それぞれのテーマに沿ったご講演をいただいた後、 パネルディスカッションではオンライン参加者からの ご質問に対して活発な意見交換がなされました。

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2022
【テーマ】『消費者市民に対して説得ではなく理解を促すリスコミとは』

【開催日程】
第1回 2022年4月24日(日)13:00~17:30
第2回 2022年6月26日(日)13:00~17:30
第3回 2022年8月28日(日)13:00~17:30
第4回 2022年10月30日(日)13:00~17:30

【開催場所】オンライン会議(Zoom)
【主 催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
【後 援】消費者庁、東京大学大学院農学生命科学研究科
【協 賛】キユーピー株式会社、旭松食品株式会社、カルビー株式会社、株式会社セブンーイレブン・ジャパン、日清食品ホールディングス株式会社、日本生活協同組合連合会、サラヤ株式会社、日本ハム株式会社
【参加費】3,000円/回
*SFSS会員、後援団体、協賛団体(口数次第)、メディア(取材の場合)は参加費無料

<第1回> 2022年4月24日(日)『食品添加物の不使用表示について』

【プログラム】

13:00~13:50 『食品添加物の不使用表示に関するガイドラインについて』
宇野 真麻(消費者庁食品表示企画課 課長補佐)
13:50~14:40 『”〇〇でない表示”で広まるリスク誤認』
佐々 義子(くらしとバイオプラザ21 常務理事)
14:40~15:00 休憩
15:00~15:50 『無添加ガイドラインこれからどうなるか~報道の構図と対策~』
小島 正美(食品安全情報ネットワーク(FSIN)共同代表)
16:00~17:30 パネルディスカッション
『食品添加物の不使用表示について』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

宇野真麻先生

佐々義子先生

小島正美先生

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①宇野 真麻(消費者庁食品表示企画課 課長補佐)
『食品添加物の不使用表示に関するガイドラインについて』

食品添加物の不使用表示に関するガイドラインについてお話いたします。食品添加物が不使用である旨の表示は、食品関連事業者等が容器包装に任意で行っているものです。表示禁止事項を定めた食品表示基準第9条では、任意表示であったとしても、誤認させる表示、義務表示事項の内容と矛盾する表示であれば、消費者の食品の選択の機会において正確な情報たり得ないとして禁止しています。今般、表示禁止事項に該当するおそれが高いと考えられる表示についてガイドラインを取りまとめたのでお話いたします。

宇野先生講演レジュメ

②佐々 義子(くらしとバイオプラザ21 常務理事)
『”〇〇でない表示”で広まるリスク誤認』

食品添加物の不使用表示ガイドラインがついにできました。その背景にはいくつかの理由がありますが、「〇〇」にあたかもリスクがあるように消費者を誤認させ、結果的に健全な食のリテラシー醸成を妨げるというのが大きな理由のひとつです。一方、この「〇〇ない」表示は、差別化して自社の製品をアピールし、売り上げを伸ばすための役割を果たしてきたのも事実です。表示は消費者と食品事業者をつないでくれる大切な懸け橋です。「〇〇ない」表示が消費者にどのような影響を与えてきたのか、健全な表示はどうあるべきかをご一緒に考えたいと思います。

佐々先生講演レジュメ

③小島 正美(食品安全情報ネットワーク(FSIN)共同代表)
『無添加ガイドラインこれからどうなるか~報道の構図と対策~』

無添加表示が横行する背景は何なのか。またメディアはその状態をどう報じているのか。メディアの関心が強いようには思えないが、そのことが無添加の横着ぶりを助長しているようにみえる。現実にスーパーなどで見られる無添加表示を見ながら、どう改善していけばよいかを一緒に考えてみたい。消費者庁のガイドラインは無添加表示の横行に歯止めをかけるのか。ガイドラインは個人的には思ったよりも充実した内容だ。ガイドラインをうまく活用すれば、リスク誤認をもたらす無添加表示を減らすことができるはずだ。それがうまくいくかどうかはメディアの報道いかんであろう。

小島先生講演レジュメ

*参加者アンケート集計結果

<第2回> 2022年6月26日(日)『輸入食品のリスコミのあり方』

【プログラム】

13:00~13:50 『熊本県産アサリ産地偽装の裏側』
吉田 翔(CBCテレビ報道部 記者)
13:50~14:40 『輸入食品の偽装防止と行政の監視~農水省が異例の警鐘~』
中村 啓一(元農水省食品表示 Gメン)
14:40~15:00 休憩
15:00~15:50 『輸入食品の表示等のあり方』
天明 英之 (公益社団法人 日本輸入食品安全推進協会)
16:00~17:30 パネルディスカッション
『輸入食品のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

吉田翔先生

中村啓一先生

天明英之先生

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①吉田 翔(CBCテレビ報道部 記者)
『熊本県産アサリ産地偽装の裏側』

国内に流通する活アサリの約9割が中国と韓国からの輸入品だが、スーパーに中国・韓国産の活アサリはなく、”熊本産”と表記されたアサリが多く販売されていた。一体なぜなのか。愛知の漁業関係者は「中国・韓国産のアサリが熊本産に偽装されている」と証言した。取材を重ね、熊本の干潟で産地が化ける瞬間の撮影に成功した。今年1月、産地偽装の当事者の証言も交えて放送すると、国や県が対策に乗り出した。一方、正しく”中国産”と表記したアサリが売れないなど、新たな問題も…。取材を通して見えてきた、行政、業者、スーパー、消費者が複雑に絡み合った産地偽装問題について考える。

吉田先生講演レジュメ

②中村 啓一(元農水省食品表示 Gメン)
『輸入食品の偽装防止と行政の監視~農水省が異例の警鐘~』

本年2月、農水省は熊本県産あさりに外国産が混入している可能性があると公表した。特定の産地の産品について産地表示を疑う公表は極めて異例だ。公表の背景には行政の背中を押した報道と看過できない現状があった。輸入食品の産地偽装はこれまでも様々な品目で繰り返されており、その多くが中国産隠しだ。生産者に配慮した長いところルールが偽装を招いたのか。輸入食品の偽装防止に行政の監視は行き届いているのか。今、産地の本気度も問われている。過去の事例も踏まえて輸入食品の偽装防止への取り組みと行政の監視について考える。

中村先生講演レジュメ

③天明 英之 (公益社団法人 日本輸入食品安全推進協会)
『輸入食品の表示等のあり方』

あさりの産地偽装事件が社会問題になり世間を騒がせ、このため、消費者庁はあさりの産地偽装の再発防止策として食品表示基準Q&Aを改正しました。今回のフォーラムではこの食品表示基準Q&A改正を分かりやすく解説すると共に、この大前提となる、外国から食品を問題なく日本に輸入するための、食品の安全性の確保に必要な食品衛生法遵守についての行政と輸入者の役割分担、また、国内で流通させるために必要な食品表示法に適合した食品表示について、輸入食品に特に重要な産地表示を生鮮食品、加工食品、加工食品の原料の3つの場合に分けて解説します。また、あさりに合わせて改正されたしいたけの原産地表示についても解説します。

天明先生講演レジュメ

*参加者アンケート集計結果

<第3回> 2022年8月28日(日)『科学報道におけるリスコミのあり方』

【プログラム】

13:00~13:50 『メディア・リテラシーと批判的思考』
楠見 孝(京都大学大学院教育学研究科 教授)
13:50~14:40 『リテラシー構造に基づくコミュニケーションとは? -エネルギーリテラシー構造モデルを事例に-』
秋津 裕(エネルギーリテラシー研究所 代表)
14:40~15:00 休憩
15:00~15:50 『科学報道-メディアはリスクを伝えられるか』
小出 重幸(日本科学技術ジャーナリスト会議 理事)
16:00~17:30 パネルディスカッション
『科学報道におけるリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

楠見孝先生

秋津裕先生

小出重幸先生

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①楠見 孝(京都大学大学院教育学研究科 教授)
『メディア・リテラシーと批判的思考』

市民は、様々なリスク情報について、何を信じて行動したら良いのか迷うことがある。そこで、リスク情報を、批判的思考に基づくメディアリテラシーによって読み解くことが重要であることを、認知心理学の立場から紹介する。第1に、メディアリテラシーとは何かを、リテラシーの構造やテクノロジーの進歩と情報環境の変化に基づいて捉える。第2に、批判的思考とは何か、そのリスク情報の吟味のプロセスについて述べる。第3に、市民のリスクリテラシーの育成がリスク対処のために重要であることを述べる。最後に、リスクリテラシー育成のための、教育、マスメディアによるリスクコミュニケーション、ネットコミュニティの役割について述べる。

楠見先生講演レジュメ

②秋津 裕(エネルギーリテラシー研究所 代表)
『リテラシー構造に基づくコミュニケーションとは?-エネルギーリテラシー構造モデルを事例に-』

近年、「〇〇リテラシー」という言葉をよく耳にするようになりました。ご存じの通り、リテラシーとは単に知識を言うのではありません。リテラシーは,与えられた課題を社会の中で広く議論するために必要な能力であり、問題解決の主体者となる社会構成員の基礎として教育によって育まれる公共的教養と言うことができます。そこで、「リテラシーがある人」とはどのような姿であるのかを調べるために、エネルギーリテラシーを事例に、日本、米国、タイの中学生の調査で得たエネルギーリテラシー構造モデルをご紹介いたします。外からの刺激が構造モデルのどの部分に影響を及ぼすのか、そのイメージができると、より効果的な発信につながるのではないかと考えます。

秋津先生講演レジュメ

③小出 重幸(日本科学技術ジャーナリスト会議 理事)
『科学報道-メディアはリスクを伝えられるか』

お話しでは、以下のような素材をもとに、討論の手がかりを提示したいと考えています:
◎英国のコミュニケーションに学ぶ
・福島事故後の科学コミュニケーション成功例
・政府科学顧問の役割 GCSAとそのフレーム
・COVID-19では?
・科学的助言と政策決定 日本はどうするのか?
◎専門家に賛否があるケース、どう報道するか
・英国でのトライアル UK Science Media Centre
・両論併記にさせない 専門家・SMC・ジャーナリストの連携
◎マス・メディアを知る Newsとはなにか?
・「たいへんだあ~」、これが報道の原点
・「マスコミ」の4文字に”報道”と”娯楽”がある
・報道現場の「事実」と、伝えられる「事実」の乖離
・多様化するメディア(Data Journalism、Fact Check、Digital Platform問題)

*参加者アンケート集計結果

<第4回> 2022年10月30日(日)『消費者はゲノム編集食品のリスクを受容するか』

【プログラム】

13:00~13:50 『生協組合員はゲノム編集食品をどう捉える?』
古山みゆき(生活協同組合コープこうべ)
13:50~14:40 『消費者がゲノム編集食品を受け入れるには』
浦郷由季(全国消費者団体連絡会 事務局長)
14:40~15:00 休憩
15:00~15:50 『ゲノム編集食品をめぐるリスクコミュニケーションの課題』
山口治子(愛知大学地域政策学部 准教授)
16:00~17:30 パネルディスカッション
『消費者はゲノム編集食品のリスクを受容するか』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

古山みゆき先生

浦郷由季先生

山口治子先生

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①古山 みゆき(生活協同組合コープこうべ)
『生協組合員はゲノム編集食品をどう捉える?』

食の安全にかかわるさまざまな情報があふれています。消費者は何を信じてどのように商品を選んだらよいのか迷っています。特にゲノム編集のような新しい技術については、否定的な意見に偏りがちです。ゲノム編集食品については、「生協で取り扱うのか」というところまでの論議には至っていません。しかし、取り扱う云々とは別に、「新しい技術としてしっかりと学習しよう」という立ち位置で情報提供に努めているところです。生協に直に寄せられた組合員の声についてご紹介をしながら、消費者とどう向き合っていくかをご一緒に考えたいと思います。

古山先生講演レジュメ

②浦郷 由季(全国消費者団体連絡会 事務局長)
『消費者がゲノム編集食品を受け入れるには』

ゲノム編集技術応用食品については、現在 3 品目が厚生労働省へ届出され、インターネットで通信販売されています。ゲノム編集技術応用食品の安全性については消費者団体の中でも受け止めは様々です。一般の消費者はどのように受け止めているのか、全国消団連ではアンケート調査を行いました。その調査結果から見えてきたこと、また厚生労働省での食品衛生上の取扱いについての議論の際、参考人委員として参加した経験から、消費者が受け入れるにはどのような情報が必要か、どのような情報共有の場があるとよいのかなど考えます。

浦郷先生講演レジュメ

③山口 治子(愛知大学地域政策学部 准教授)
『ゲノム編集食品をめぐるリスクコミュニケーションの課題』

2019年10月ゲノム編集食品の届出制度が開始された。ゲノム編集食品をリスクベースの食品安全管理の枠組みからとらえると、これまでのハザードとの決定的な違いはリスクアセスメントが実施できないことである。科学的評価が実施できない中で、ゲノム編集食品の安全性を客観的にどのように確保し、管理していくべきだろうか。リスクガバナンス研究やいくつかのリスクコミュニケーション研究の成果を紹介し、アンケート調査から得られた消費者のゲノム編集食品のリスク認知や受容性(態度)を踏まえ、ゲノム編集食品という新規技術を用いた食品のリスクコミュニケーションの課題について議論する。

山口先生講演レジュメ

*参加者アンケート集計結果

(文責・写真記録:miruhana)

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