2024年4月から10月にかけて食のリスクコミュニケーションを テーマとしたフォーラムを4回シリーズで開催いたしました。
毎回80名~100名程のご参加があり、3人の専門家より、 それぞれのテーマに沿ったご講演をいただいた後、 パネルディスカッションではオンライン参加者からの ご質問に対して活発な意見交換がなされました。
◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2024
【テーマ】『消費者市民の安全・安心につながるリスコミとは』
【開催日程】
第1回 2024年4月21日(日)13:00~17:30
第2回 2024年6月23日(日)13:00~17:30
第3回 2024年8月25日(日)13:00~17:30
第4回 2024年10月27日(日)13:00~17:30
【開催場所】東京大学農学部フードサイエンス棟中島董一郎記念ホール+オンライン会議(Zoom)ハイブリッド開催
【主 催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
【後 援】消費者庁、東京大学大学院農学生命科学研究科
【賛助・協賛】キユーピー株式会社、旭松食品株式会社、カルビー株式会社、
株式会社セブンーイレブン・ジャパン、日清食品ホールディングス株式会社、
日本生活協同組合連合会、サラヤ株式会社、日本ハム株式会社、東海漬物株式会社
【参加費】3,000円/回、学生は1,000円/回
*SFSS会員、後援団体、協賛団体(口数次第)、
メディア(取材の場合)、学生は参加費無料
<第1回> 2024年4月21日(日)『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』
【プログラム】
13:00~13:50 『低アレルゲン鶏卵の作出と安全性評価について』
堀内 浩幸 (広島大学大学院統合生命科学研究科 教授)
13:50~14:40 『ゲノム編集ジャガイモの研究開発について』
村中 俊哉 (大阪大学大学院工学研究科 教授)
14:40~15:30 『日本発ゲノム編集食品~これまでとこれから』
佐々 義子 (くらしとバイオプラザ21常務理事/SFSS理事)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

堀内浩幸先生

村中俊哉先生

佐々義子先生

*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀堀内 浩幸 (広島大学大学院統合生命科学研究科 教授)
『低アレルゲン鶏卵の作出と安全性評価について』
私たちの研究グループでは,ゲノム編集技術を用いて鶏卵の主要なアレルゲンであるオボムコイドをノックアウトすることに成功しました。今後,この低アレルゲン鶏卵を食品等に利用するためには,厳しい安全性の評価が必要になります。すでにいくつかのゲノム編集食品が開発され,一部は販売されています。本フォーラムでは,私たちの研究グループにおいて,どのようにしてオボムコイドをノックアウトしたのか,またどのような安全性評価を行っているのかをご紹介させていただきます。
<堀内先生講演レジュメ>
➁村中 俊哉 (大阪大学大学院工学研究科 教授)
『ゲノム編集ジャガイモの研究開発について』
ジャガイモは、世界の生産量が4番目の主要作物であるが、作物自身が持つ毒を気にしなければならないのはジャガイモのみである。私たちの研究グループは、毒の成分が、ジャガイモでどのように作られるかの研究を実施し、その過程で、SSR2と名付けた遺伝子をゲノム編集することにより毒成分が大幅に低減することを2014年に報告した。ジャガイモは”イモ”で増える栄養繁殖性であることから元の品種の特性を維持しつつ、かつ、外来遺伝子がない系統を取得するための技術開発には年単位の時間が必要である。本フォーラムでは、私たちの研究開発のプロセス、その過程での技術的課題、リスクコミュニケーションのあり方など、私自身の実体験をもとに話を進めたい。
<村中先生講演レジュメ>
➂佐々 義子 (くらしとバイオプラザ21常務理事/SFSS理事)
『日本発ゲノム編集食品~これまでとこれから』
2020年12月にGABAを多く含むトマトが、2021年9月に肉厚のマダイが、2021年10月に成長の早いトラフグがゲノム編集食品として届け出られた。現在、このトマトはネット販売と店頭販売で、マダイやトラフグはネット販売で消費者の手に届くようになった。この背景には、迅速に食品としての安全性確認や環境影響評価のしくみが整い、表示のルールも定められたことが大きい。日本は、ゲノム編集食品の上市と規制や表示の制度整備の両面で海外から注目されている。上市後のリスクコミュニケーションも含めて、ご一緒に考えたい。
<佐々先生講演レジュメ>
<第2回> 2024年6月23日(日)『食のリスクに対する認知バイアスにどう取り組む』
【プログラム】
13:00~13:50 『食の基準値を通して考える、リスクとの向き合い方』
小野 恭子 (産業技術総合研究所安全科学研究部門 研究グループ長)
13:50~14:40 『食の安全性に対する専門家と一般市民のリスク認知の特徴』
山口 治子 (愛知大学地域政策学部 教授)
14:40~15:30 『食のリスクに対する認知バイアスの修正:不安の低減と批判的思考の促進』
楠見 孝 (京都大学大学院教育学研究科 教授)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『食のリスクに対する認知バイアスにどう取り組む』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

小野恭子先生

山口治子先生

楠見孝先生


*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀小野 恭子(産業技術総合研究所安全科学研究部門 研究グループ長)『食の基準値を通して考える、リスクとの向き合い方』
食にまつわるリスクとリスクのトレードオフについて、基準値を通して考える機会としたい。食のリスクは、究極的には美味しさや文化的豊かさとのトレードオフで決まっているはずである。ここでは村上ら(2014)講談社ブルーバックス「基準値のからくり~安全はこうして数字になった~」の中から第一章「消費期限と賞味期限」にある例を中心に、食品の基準値がどのような科学的根拠や社会的背景に基づいて設定されたかについて解説する。食品包装とプラスチックリサイクルとの関係や、食品ロス問題なども多面的に取りあげる。「消費期限や賞味期限は、どのような種類の安全や豊かさを担保していることになるのか?」を知り、個々人や社会において、食で大事にすべきことは何か、を語り合う一助になれば幸いである。
<小野先生講演レジュメ>
➁山口 治子(愛知大学地域政策学部 教授) 『食の安全性に対する専門家と一般市民のリスク認知の特徴』
これまでのリスクコミュニケーションの失敗の要因の一つに,専門家と一般市民のリスク認知バイアスの存在があげられている.Slovic は,リスクの捉え方には技術的パラダイム,心理学的パラダイムそして社会学的パラダイムがあるとし(Slovic, 1986,FAO/WHO 2006),安全管理は技術的パラダイムで,リスク認知は心理学的パラダイムでリスクを捉えているとする.本フォーラムでは過去の様々な食品安全問題におけるリスクコミュニケーションの失敗を踏まえながら,専門家と一般市民のリスク認知の特徴について述べ,両者のリスク認知バイアスを改善するには,リスクアナリシスの枠組みの拡充とそれに基づいたリスクコミュニケーションが重要であることについて議論する.
<山口先生講演レジュメ>
➂楠見 孝 (京都大学大学院教育学研究科 教授)『食のリスクに対する認知バイアスの修正:不安の低減と批判的思考の促進』
多くの人がとらわれてしまう認知バイアスとは何か。なぜ生じるのか、どのようにしたら修正できるのかを、食のリスクをテーマにして、認知心理学の立場から紹介する。第1 に、認知バイアスとは何か、なぜ生じるのかを、人の認知と食品リスクの特徴に基づいて捉える。第2 に、批判的思考とは何か、どのようなプロセスでリスク情報を吟味して、バイアスを修正するのかについて述べる。第3 に、バイアスの修正には、不安の低減と批判的思考の促進が重要であることを、福島原発事故後の食品放射能汚染へのリスク認知を例に、直観的-批判的思考の二重システム理論に基づいて検討する。
<楠見先生講演レジュメ>
<第3回> 2024年8月25日(日)『食品安全におけるHACCP認証の役割』
【プログラム】
13:00~13:50 『HACCPを包含した食品安全マネジメントシステムの認証制度』
宇野 由華 (FSアシスト 代表)
13:50~14:40 『食品安全マネジメントシステムの有効性向上を目指して』
宮田 芳男 (ISOコンサルタント/SFSS理事)
14:40~15:30 『HACCPの概念は常識的:運用の鍵は多様な検証活動』
荒木 惠美子 (日本食品衛生協会 学術顧問)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『食品安全におけるHACCP認証の役割』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

宇野由華先生

宮田芳男先生

荒木惠美子先生


*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀宇野 由華 (FSアシスト 代表) 『HACCPを包含した食品安全マネジメントシステムの認証制度』
HACCPは、確実に安全な宇宙食を製造するための手法として考案された。この手法がコーデックス委員会の「食品衛生の一般原則」に採用されたことから、国際的にHACCPシステムの導入や義務化が進んでいる。さらにその有効性を確実なものにするために、ISO 22000をはじめとしたHACCPを包含する食品安全システム規格が開発されており、それらの規格の認証を取得することが貿易を含む商取引の前提条件とされることも増えてきている。HACCPシステムの普及において認証がどのような役割を担い、どのように活用されているのかについて概説する。
<宇野先生講演レジュメ>
➁宮田 芳男 (ISOコンサルタント/SFSS理事) 『食品安全マネジメントシステムの有効性向上を目指して』
1. ISO2015年版(ISO22000は2018)・食品衛生法改正(HACCPの制度化)・FSSC22000 version 6.0追加要求事項等に関連したHACCPの取組状況と課題。
2. 実務での食品安全マネジメントシステム HACCP
事務局:マネジメントシステム構築・運用、社員教育、外部審査対策
審査員:マネジメントシステムの有効性を目指す審査
コンサルタント:事業プロセスとの統合(本来業務との一体化)、わかりやすいマネジメントシステム=マニュアル
3. 食品安全マネジメントシステム 今後の動向
<宮田先生講演レジュメ>
➂荒木 惠美子 (日本食品衛生協会 学術顧問) 『HACCPの概念は常識的:運用の鍵は多様な検証活動』
1960年代米国で、宇宙食の安全確保のために考案されたHACCPは、2021年6月、遂にわが国の食品事業者に対しても義務化(制度化)された。HACCPの概念は、製品100%(全数)の安全性を保証しようとするものであり、常識的な概念である。加熱殺菌工程や冷却工程は典型的な重要管理点(CCP)となることが多い。しかし、HACCPの運用、すなわちPDCAサイクルを回すには、多様な検証活動を理解することが不可欠である。本講演ではその多様性を概説する。
<荒木先生講演レジュメ>
<第4回> 2024年10月27日(日)『食料安全保障(Food Security)のリスクにどう備える』
【プログラム】
13:00~13:50 『わが国の食料安全保障の現状と課題』
中嶋 康博 (東京大学大学院農学生命科学研究科長・教授)
13:50~14:40 『地球規模で考える食料・栄養問題』
白鳥 佐紀子 (国際農林水産業研究センター 主任研究員)
14:40~15:30 『グローバルな食糧と栄養のSecurity議論の現在とビジネスセクターの参画』
小出 薫 (SFSS理事)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『食料安全保障(Food Security)のリスクにどう備える』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)

中嶋康博先生

白鳥佐紀子先生

小出薫先生


*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀中嶋 康博 (東京大学大学院農学生命科学研究科長・教授)『わが国の食料安全保障の現状と課題』
本年5月に農政の憲法とも言われる食料・農業・農村基本法が制定以来四半世紀ぶりに改正されました。改正準備のため、食料・農業・農村政策審議会に検証部会を設置して議論をしましたが、最大の課題とされたのは、今後20年間の変化を見据えながら、食料安全保障を確保・強化するために食料・農業・農村施策をいかに改革するかでした。そこで食料・農業・農村政策の体系的な見直し、既存施策の現代的なアップデート、そして新たな施策の追加が検討されました。わが国の食料安全保障をめぐる実態を踏まえつつ、改正法の内容を紹介しながら今後の政策を展望します。
<中嶋先生講演レジュメ>
➁白鳥 佐紀子 (国際農林水産業研究センター 主任研究員)『地球規模で考える食料・栄養問題』
世界の人口は、2050年に97億人にまで増加すると推計されています。この増え続ける人口を養うための食料はどうやって確保していけばよいのでしょうか。なおカロリーだけではなく栄養バランスも考えた健康的な食事を、全ての人々に供給しなければなりません。しかも、地球はすでに人間の活動によって限界を超えていると言われており、環境にも配慮する必要もあります。近年、コロナ、紛争、気候変動、食料価格高騰などのショックもあり、安定的な供給も求められます。このような、現在私たちが直面している課題についてご紹介します。
<白鳥先生講演レジュメ>
➂小出 薫 (SFSS理事)『グローバルな食糧と栄養のSecurity議論の現在とビジネスセクターの参画』
園芸作物と水産物の高度利用の上に乳と肉製品を独特の形で加え、栄養と嗜好性を高めてきた日本型Diet。これをどの様な形でSecureして行きたいのか。それは世界のDiet事情が異なる地域の今後とも関係します。欧米先進諸国は自らの食をどの様な形で維持したいのか? 人口増大の途上国の未来は? そして国連FAOや関連機関が何を語っているか? 食の生産製造を実行する私的企業や団体もその議論と活動に組込む“inclusive”な姿勢を持つこれら機関との共働にも触れます。 何よりも自らの1次産業を励ます為にも、育てて来たDietの、その栄養、環境、社会経済的SDGsへの貢献と、必要な改善の方法を、事実と科学に基づいて語る必要が迫る我々の、今後の議論の参考に。
<小出先生講演レジュメ>
(文責・写真記録:miruhana)