「遺伝子組み換え食品の恐怖(鈴木宣弘氏)」⇒「フェイクニュース(レベル4)」~SFSSが文藝春秋創刊100周年特集(2023年1月)をファクトチェック!~

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 遺伝子組換え作物が世に登場して約30年、いまでは日本が輸入する大豆・とうもろこしなどの大半が組換えDNA技術により品種改良された農作物のはずだが、我々が目にするのは「大豆(遺伝子組換えでない)」といった食品表示ばかりなのは何故だろうか。「無添加」「保存料不使用」「無農薬」などと並んで、その食品に含まれない成分をわざわざ任意表示することで、いかにも「安全な食品ですよ」と誇張するマーケティング・バイアスは、一般消費者のリスク誤認を助長してきた大きな社会問題だ。

 我が国に流通する遺伝子組換え作物は、国の独立したリスク評価機関である内閣府食品安全委員会の専門家委員たちが厳正・中立に審査して承認された品種(9作物・300以上の品種)のみである。また一昨年より、「ゲノム編集技術」による新たな品種のトマトが国内市場に初登場して話題となったが、これは国による義務的な安全性審査は課されていないものの、事業者が厚生労働省に安全性データを届け出たうえで上市したものだ。

 今回、「遺伝子組換え作物」や「ゲノム編集食品」の安全性に関して、疑問を呈する記事が発表されたので、食の安全・安心に関わる重要案件として、疑義言説を特定したうえでファクトチェックを実施することとした。なお、今回ファクトチェックを実施した対象記事はネット上にも一部掲載されているので、以下をご参照いただきたい:

◎遺伝子組み換え食品の恐怖 ~問題は食糧とエネルギーだ~(著者:鈴木宣弘)
 文藝春秋 創刊100周年二月特大号『目覚めよ!日本101の提言』
 https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h5260

 まずは記事のタイトルからして、市民の恐怖感を煽る意図が露になっているわけだが、本記事において語られている科学的事実の部分を疑義言説としてピックアップし、ファクトチェックを実施したので以下をご一読いただきたい。
 なお、SFSSのファクトチェック運営方針/判定レーティングは、以下をご参照のこと。
 ➡ http://www.nposfss.com/cat3/fact/02_operation_policy.html


<疑義言説1>
遺伝子組み換え(GM)作物は、(中略) 除草剤をかけても枯れない耐性雑草が出現するため、除草剤の量を増やし、新たな除草剤とそれに耐性を持つGM作物の開発もするが、再び耐性雑草が出現するというイタチごっこに陥っている。このため想定された生産の効率化も図れず、環境や人体への影響への懸念も高まる事態となっている。
<ファクトチェック判定> レベル4(フェイクニュース)

<エビデンスチェック1>
 「遺伝子組み換え作物と除草剤に関して、耐性雑草が出現するため、新たな除草剤を開発せざるをえないイタチごっこに陥っており、想定された生産の効率化も図れず、環境や人体への影響への懸念も高まる事態」との疑義言説だが、これは事実だろうか。

 遺伝子組換え作物の世界の統計データについて、公開論文情報に基づいた統計データ&情報をもとに事実検証した。まず、遺伝子組み換え作物(GM Crops)のこれまで25年間の生産効率や環境・健康影響については、英国PG Economics社のG.Brookes氏が複数の査読論文に詳しく報告している(これらの論文はバイエル社が支援した報告であり、生産者や行政機関から収集された統計データ等、事実情報のみを以下に抜粋した):

1.除草剤使用量の変化と環境影響について

Graham Brookes (2022) Genetically Modified (GM) Crop Use 1996-2020: Environmental Impacts Associated with Pesticide Use Change, GM Crops & Food, 13:1, 262-289, https://doi.org/10.1080/21645698.2022.2118497

まず、利用が開始された1996もしくは1997年から2020年の積算で、世界的に除草剤有効成分の総使用量は従来農法よりも減少している:
   除草剤耐性ダイズ:0.1%減少 (論文Table 1)
   除草剤耐性トウモロコシ: 6.2%減少 (Table 2)
   除草剤耐性ワタ: 8.4% 減少 (Table 3)
   除草剤耐性ナタネ: 18.1%減少 (Figure 4)

加えて、環境への影響も総じて減少している:
(環境影響指数(EIQ)と呼ばれる環境、動物、ヒトの健康に対する指標の積算変化)
   除草剤耐性ダイズ:12.5%改善 (Figure 2)
   除草剤耐性トウモロコシ: 7.8%改善 (Figure 3上)
   除草剤耐性ワタ: 6.9% 改善 (Figure 3 下)
   除草剤耐性ナタネ: 25.9%改善 (Figure 4)

なお、新たにGM技術を導入した国などでは除草剤使用量の増加も見られるが、環境影響指数はいずれの国でも改善されており、従来農法よりも環境への影響は低減している。

上記論文は毒性の観点からの環境影響に関するものだが、脱炭素効果も次の論文で詳述されている。

Graham Brookes (2022) Genetically Modified (GM) Crop Use 1996-2020: Impacts on Carbon Emissions, GM Crops & Food, 13:1, 242-261, https://doi.org/10.1080/21645698.2022.2118495

除草剤耐性作物の利用は、減耕起・不耕起農法への転換を可能にし、その結果トラクターの燃料使用量が節減される。1996年から2020年までの積算で、除草剤耐性ダイズ・トウモロコシ・ナタネの利用により燃料使用量が135億kg削減されたと推算されている(上記論文のTable1よりHT部分の合計)。その結果、二酸化炭素排出量は約360億kg削減、これは約2380万台の自動車の年間二酸化炭素排出量に相当するとのこと。

2. 抵抗性雑草について

本件については、以下のサイトが参考となる:
Heap, I. The International Herbicide-Resistant Weed Database. Online. Thursday, February 2, 2023 . http://www.weedscience.org/Pages/ShowDocuments.aspx?DocumentID=8448

抵抗性雑草の出現は、そもそもGM特有の問題ではなく従来農法にも共通して存在する問題である。現在56種のグリホサート抵抗性雑草が報告されているが、米国では17種のみ、うち2種はGMに起因するものではない。GM栽培面積が米国に比べごく僅かなオーストラリアでは21種が報告されている。

一方で、従来農法で使用されるアセト乳酸合成酵素 (ALS) 阻害型除草剤では170種の抵抗性雑草が報告されている。また、栽培面積の約3割がGMのトウモロコシでは63種の、4分の3がGMのダイズでは50種の抵抗性雑草が報告されているのに対し、GMが導入されていないコムギでは81種、イネでは52種の抵抗性雑草が報告されている。すなわち、GMを導入するから抵抗性雑草の種類が増えるというわけではないということだ。

<参考情報> 国際食糧農業機関(FAO) https://www.fao.org/faostat/en/#data/QCL
2021年の統計情報によれば、世界の栽培面積はコムギが約2.2億、トウモロコシが2.1億、イネが1.7億、ダイズが1.3億ヘクタール。

また複数の除草剤耐性作用機序を有するGM作物が登場したのは2016年以降である。グリホサートやグルホシネートは耐性雑草が出現しにくいものであるが、現在までに数えるほどの耐性形質 (グルホシネート、ジカンバ、2,4-Dなど) しか登場していない。そもそも複数の除草剤耐性を用いるのは、グリホサートやグルホシネート耐性雑草を他の除草剤で抑制するものであり、効果的な抵抗性雑草管理を目的とした事前策のひとつだ。決して「いたちごっこ」ではなく、除草剤を使用する農家にとって普通のルーチンワークと言ってよいだろう。

3. 生産の効率化

除草剤耐性作物の利用は、費用削減および収量向上により、途上国を含む各国の生産者の収益向上に貢献している。
Graham Brookes (2022) Farm income and production impacts from the use of genetically modified (GM) crop technology 1996-2020, GM Crops & Food, 13:1, 171-195, DOI: 10.1080/21645698.2022.2105626

◎1996もしくは1997から2020にかけての農家収益への影響 (単位$/ヘクタール)
  除草剤耐性ダイズ (Table 1)
   米国:費用削減 33.5、収量向上 80.8
   ボリビア:費用削減 6.0、収量向上 61.2
  除草剤耐性トウモロコシ(Figure 2)
   米国:合計30.5
   アルゼンチン:合計101.9
  除草剤耐性ナタネ (Figure 3)
   米国:合計46.8
   カナダ:合計58.01

<疑義言説1に関する事実検証の結論> レベル4(フェイクニュース)
「遺伝子組み換え作物と除草剤に関して、耐性雑草が出現するため、新たな除草剤を開発せざるをえないイタチごっこに陥っている」との言説に対して、事実検証を実施したところ、除草剤に対する耐性雑草の出現は、遺伝子組換え作物の使用/不使用に関係なく従来の農作物でも起こっている現象であり、農家の方々が市販の除草剤を適正に使い分けることで対処できるとのこと。遺伝子組み換え作物や除草剤の開発が「イタチごっこ」になっているとの事実はないことが判明した。また、「想定された生産の効率化も図れず、環境や人体への影響懸念も高まる事態」という言説についても、実際は遺伝子組換え作物を使用することによる農家の費用削減・収量向上など、明確な生産の効率化が報告されていること、また除草剤の使用量減少がもたらす脱炭素効果や安全性の高い有効成分への切り替えに伴う健康影響軽減が報告されており、「想定された生産の効率化も図れず、環境や人体への影響懸念も高まる事態」とは真逆の事実が判明した。よって、疑義言説1に関するファクトチェックの結論は、著者の思い込みによる意図的な虚偽言説であり、レベル4(フェイクニュース)との評価判定となった。


<疑義言説2>
「ゲノム編集は生物のDNAを切り取って特定の遺伝子の機能を失わせる技術だが、これは「遺伝子組み換えではない」として「審査も表示もするな」という米国の要請を日本は受け入れ、完全に野放しにした」
<ファクトチェック判定> レベル1(根拠不明)

<エビデンスチェック2>
ゲノム編集食品について、「「遺伝子組み換えではない」として「審査も表示もするな」という米国の要請」があったというが、日米間でそのようなやりとりが本当にあったのだろうか。またそのゲノム編集食品の審査と表示について「日本(政府)は完全に野放しにした」との言説だが、これは事実だろうか。

 日本の食品安全行政に対して、ゲノム編集食品について「審査も表示もするな」という米国からの要請があったかどうか取材を試みたが、そのような事実は判明しなかった。ただ、米国政府高官よりそのようなアナウンスや通告があったことを否定できるものではなく、事実検証には限界がある(「いわゆる「悪魔の証明」は不可能)。

 また日本政府がゲノム編集食品の安全や表示に関して「完全に野放しにした」という言説については、ゲノム編集食品の安全性審査や食品表示の必要性等について、厚生労働省が専門家を集めて何度となく検討会を開催して結論を導いたので、「完全に野放し」は誇張が過ぎる印象だ。

 ゲノム編集食品の法規制については、たしかに遺伝子組換作物のように安全性審査を内閣府食品安全委員会に諮問したり、食品表示を義務化するよう消費者庁に要請した経緯はない。しかし、それには明確な科学的理由があるという。東洋大学教授の田部井豊氏は我々の取材に対して以下のコメントを残した:。

 すなわち、外来遺伝子が除かれたゲノム編集の変異は自然突然変異または人為突然変異と区別がつかないため、従来の変異を規制してない以上、ゲノム編集による変異体を規制できないという判断と、このような変異も育種過程を経ることにより不都合なものは除かれることから、規制するほどのリスクが想定されず、よって義務的な安全性評価を課していないとのこと(薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会 新開発食品調査部会報告書「ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて」(平成31年3月 27 日)より)。ただし、開発事業者はゲノム編集食品を上市前に、厚生労働省/農林水産省に相談・届出を行うことが努力義務とされていることは、厚労省ホームページにて参照可能だ:

◎ゲノム編集技術応用食品等(厚生労働省ホームページ)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/genomed/index_00012.html

 しかもすでに上市されているゲノム編集食品(トマト・マダイ・トラフグ)に関しても、ゲノム編集食品であることが任意表示されており、表示義務を課さなかっただけで「野放し」というのも極端な見解ではないだろうか。

<疑義言説2に関する事実検証の結論> レベル1(根拠不明)
ゲノム編集食品について、「「遺伝子組み換えではない」として「審査も表示もするな」という米国の要請を日本は受け入れ」との言説に対して事実検証を実施したところ、そのような事実は判明しなかった。また、「完全に野放し」についても、厚生労働省や農林水産省が新たなゲノム編集食品の上市に際して、組換えDNA技術によるものでないことの確認や安全性データについても、開発者/販売者に届出を指示した事実があり、審査はないものの「野放し」という表現は誇張されていることがわかった。
 よって、疑義言説2に関するファクトチェックの結論は、著者の言説が事実に基づくものかどうかの根拠がみつからないため、レベル1(根拠不明)との評価判定になった。ただし、SFSSファクトチェック運営方針にも記載した通り、調査の結果、事実かどうかの科学的根拠が見いだせなかった場合に「根拠不明」との評価判定になるのだが、「科学的根拠を示すべき責任は言説の発信者にあるものとする」ということをここに再度明記しておきたい。


<疑義言説3>
(ゲノム編集食品は)「安全性への懸念が払拭されておらず、ゲノムを切り取った細胞の一部が癌化したり、新しいタンパク質ができてアレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因物質)になる可能性があるとの研究結果も報告されており、慎重な対応をする国が多い。一方で日本のゲノムトマトの販売企業は、スムーズに普及させるために子供達を「実験台」にする食戦略を「ビジネスモデル」として、国際シンポジウムで発表までした。」
<ファクトチェック判定> レベル4(フェイクニュース)

<エビデンスチェック3>
(ゲノム編集食品は)「安全性への懸念が払拭されておらず、ゲノムを切り取った細胞の一部が癌化したり、新しいタンパク質ができてアレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因物質)になる可能性があるとの研究結果も報告されており、慎重な対応をする国が多い」という言説について、そのような事実があるのだろうか。

 まずは「安全性への懸念が払拭されておらず」という言説に関して、誰がそのようなことを言っているのだろうか?従来育種でも遺伝子に突然変異は起こっているわけで、外部から導入した遺伝子が残らないタイプ(SDN1)のゲノム編集作物と従来育種による品種改良作物で、その最終産物の遺伝子変化の度合いに差がないことは明らかだ。だからこそ、食品安全やバイオテクノロジーの専門家が集まったゲノム編集食品に関する厚労省検討会にて、食品安全委員会による安全性試験/リスク評価の必要性が否定されたわけだ。もし安全性への懸念が払拭されていないのなら、政府の専門家検討会がそのような決定をくだすだろうか。

 また「ゲノムを切り取った細胞の一部が癌化したり、新しいタンパク質ができてアレルゲンになる可能性があるとの研究結果も報告されており」とのことだが、どの文献なのか書誌事項情報が記載されていなければ検証のしようがないところだ。また、細胞が癌化して困るのは人体の細胞と思われるが、これは中国で倫理問題が指摘されたような、ヒト培養細胞へのゲノム編集に関する研究報告のことか?

 2020年のNatureに掲載されたニュース記事では、ヒト胚細胞のゲノム編集により染色体破壊が起こる可能性を指摘した論文だったが、なぜかゲノム編集食品を食べたらヒトの染色体に異常が起こるものと勘違いして騒いでいた方々がおられたのにはガッカリした:

Heidi Ledford (2020) CRISPR gene editing in human embryos wreaks chromosomal mayhem. Nature.583(7814):17-18.  DOI: 10.1038/d41586-020-01906-4

 さらに、たとえ新たなゲノム編集作物において細胞が癌化したり、アレルゲンができてしまったとしても、その品種を選抜しなければよいだけの話なので、これもまた騒ぐ必要はないはずだ。また厚生労働省では、ゲノム編集食品の安全性について、まずは外来遺伝子がないことと、オンターゲット及びオフターゲットともに、新しいアレルゲンやタンパク毒を作るようなORFができえないことを確認しているとのこと。どうしてもゲノム編集食品を体に悪いものだと主張されたいようだが、その前に生物医学と育種の基本を勉強されることをお薦めしたい。

 また、「慎重な対応をする国が多い」という言説に対しては、前出の東洋大学田部井教授によると「世界的にアルゼンチンや日本、豪州のように外来遺伝子がなければ非DNA組換え作物として扱う方針の国々が増えていることが、以下の文献を参照するとわかる」とのこと:
Marcel Buchholzer, Wolf B. Frommer (2022) An increasing number of countries regulate genome editing in crops.New Phytologist, First published: 23 June 2022
https://doi.org/10.1111/nph.18333

 次に、「日本のゲノムトマトの販売企業は、スムーズに普及させるために子供達を「実験台」にする食戦略を「ビジネスモデル」として、国際シンポジウムで発表までした」という疑義言説に関しては事実だろうか?ゲノム編集トマト:「シシリアンルージュハイギャバ」を開発したサナテックシード社に取材したところ、2020年の国際シンポジウムにてゲノム編集トマトの苗を小・中学校をはじめとする教育機関に理科の教材として配布する計画があることを発表したのは事実とのこと。

 ただし、「スムーズに普及させるために子供達を「実験台」にする食戦略」ではなく、ゲノム編集作物に関する教育や学術啓発を推進することを意図したものとの回答であった。同社が配布するゲノム編集トマトの苗はあくまで理科教材であって、教育現場からの要望があった際に送付するだけで、教材の使い方については指定をしていない。教育現場からの要望に答えているだけなのに、「子供たちが実験台」というのは言いがかりとしか思えない。

 なお、「ゲノム編集食品」について国が決めたルールでは、当該品種の開発者・販売責任者が、栽培した場合の環境リスクや食した場合の健康リスクについて評価検討し、国(農林水産省/厚生労働省)に届出することを努力義務としている。このゲノム編集高GABAトマト:「シシリアンルージュハイギャバ」の種子を生産・販売しているサナテックシード社のホームページのニュース欄に、以下の記事掲載を確認した:

◎サナテックシード社ホームページ(2020.12.11.)https://sanatech-seed.com/ja/qa20201211/
2020年12月11日、私たちは筑波大学と共同開発をしておりましたゲノム編集技術を利用して作出したGABA高蓄積トマトについて、厚生労働省へ届出、また農林水産省へ情報提供書を提出いたしました。
 ➡ 厚労省HPより:https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000828873.pdf

 この届出資料によると、「③ゲノム編集技術によるDNAの変化がヒトの健康に悪影響を及ぼす新たなアレルゲンの産生及び既知の毒性物質の増加を生じないことの確認➡確認済み」として、詳しくその安全性が確認された内容について、学術的説明が報告されていることがわかる(詳しい学術報告の内容は実際のpdf資料をご参照されたい)。すなわち、当該ゲノム編集トマトの種子の生産・販売責任者から届出された資料によると、明確に安全性は確認されており、アレルゲンや毒性物質の発現を促進することはないとの科学的証拠が示されている。しかも、国の食品安全行政である厚生労働省がこれを受理した、という事実が判明した。

 食品添加物や農薬のように、安全性を確認するためには動物を使った長期毒性試験をするべきで、それを実施していないなら「安全性を確認済み」とは言えないのではないか、と疑問に思う方もおられるかもしれない。しかし、本ゲノム編集食品中に毒性を評価すべきハザード(特定の化学物質)が従来品種と比較して明確に出現していなければ、動物の生命を犠牲にした長期毒性試験自体が倫理的に認められないのは当然だ(倫理委員会を通らない?)。

<疑義言説3に関する事実検証の結論> レベル4(フェイクニュース)
 (ゲノム編集食品は)「安全性への懸念が払拭されておらず、ゲノムを切り取った細胞の一部が癌化したり、新しいタンパク質ができてアレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因物質)になる可能性があるとの研究結果も報告されており」という言説に対して事実検証を実施したところ、そのような論文が存在するかどうかは不明だが、おそらく現在日本市場に登場し始めたSDN1タイプのゲノム編集食品に関連するものではなく、事実に反する科学情報をもって不安を煽る意図のある偽情報であることが判明した。

 また、「日本のゲノムトマトの販売企業は、スムーズに普及させるために子供達を「実験台」にする食戦略を「ビジネスモデル」として、国際シンポジウムで発表までした」という言説についても、ゲノム編集GABA高蓄積トマト:「シシリアンルージュハイギャバ」を開発したサナテックシード社は、当該作物の苗をあくまで理科の教材として学校に提供するものであって、「子供たちを実験台にする」という情報も誤情報であることが明確になった。よって、疑義言説3に関するファクトチェックの結論は、事実に反すると同時に著者が当該製品の信用を毀損するための意図的な虚偽であり、レベル4(フェイクニュース)との評価判定になった。


<記事全体に対するファクトチェックの総合判定> レベル4(フェイクニュース)

 今回ファクトチェックの対象とした特集記事より、疑義言説を3つピックアップして事実検証した結果、疑義言説1と疑義言説3はレベル4(フェイクニュース)、疑義言説2はレベル1(根拠不明)となった。いずれの言説も、著者が主張する見解に明確な科学的根拠を欠くものであり、記事全体の総合判定もレベル4(フェイクニュース)となる。まさに本記事のタイトル「遺伝子組み換え食品の恐怖」の通り、遺伝子組換え作物やゲノム編集食品に関して、発癌リスクをにおわせて読者の恐怖を煽る偽情報=”Disinformation”と断じるほかはない結果となった。

 リチャード・ロバーツ博士が2019年に、”150 Nobel Laureates support GMOs” (ノーベル賞学者150人が遺伝子組換え作物を支持している)というタイトルで来日講演された際に、もう30年近く市場で流通している安全な遺伝子組換え食品を危険だとうったえて恐ろしいビデオを流す方々は、「遺伝子組換えでない」自然食品を売りたい利害関係者だけだと気づかされたのだが、その時のブログをご一読いただきたい:

◎遺伝子組換え/ゲノム編集食品のリスクはどの程度?!
 ~ノーベル賞学者リチャード・ロバーツ氏の一問一答~
 SFSS理事長雑感[2019年11月30日]

  http://www.nposfss.com/blog/richard_roberts.html

 また、なぜいま上市されている『ゲノム編集食品』において安全性審査が必要ないかについては、SFSSのブログでも議論しているのでご一読いただきたい:

ゲノム編集食品は”高速品種改良”?!~なぜ安全性審査の対象外なのか~
 理事長雑感 [2019年4月29日月曜日]

  http://www.nposfss.com/blog/genome_edited_food.html

(初稿:2023年2月8日01:00)

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【文責:山崎 毅info@nposfss.com

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