
SFSS副理事長
国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
野田 衛
1ノロウイルス対策と食品安全文化
ウイルス性食中毒の大半を占めるノロウイルス食中毒の多くは、食品取扱者から食品への二次汚染が原因とされている。したがって、その予防には食品取扱者による衛生管理の徹底が重要であり、とりわけ、食品取扱者が自らの意思で衛生的な行動をとれるかどうかが重要なポイントとなる。
2021年6月には、我が国において「HACCPに基づく」または「その考え方を取り入れた」衛生管理が完全施行された。これに加え、コーデックス委員会は2020年の総会(CAC43)において「食品衛生の一般原則(General Principles of Food Hygiene)」を改訂し、「食品安全文化(food safety culture)」の概念を導入した。食品安全文化とは、組織全体で食品の安全を最優先事項として捉え、そのための価値観や信念、規範を共有することを重視するものであり、自らが能動的に衛生管理を実践することの重要性を明文化したものといえる。
特に、食品安全文化を構成する要素の一つである「従業員の意識(食品衛生の重要性を理解し、日々の業務で安全な行動を実践する)」や、食品安全文化の醸成に不可欠な「食品安全トレーニング(従業員に適切な知識とスキルを習得させる)」は、ノロウイルス対策に直結する極めて重要な要素である。
2大量調理施設衛生管理マニュアルにおけるノロウイルス対策
ノロウイルス対策は、厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」を基本として実施されている。しかし、同マニュアルの最終改定(2017年6月16日)から8年が経過し、その課題も顕在化してきた。ノロウイルス食中毒の現状を踏まえ、より現状に即した対策について考察する。
(1)原材料汚染対策
2017年1~2月に発生した刻み海苔によるノロウイルス食中毒事例(ノロウイルスに感染した作業者の手指等から海苔を刻む工程で汚染し、その後包装・流通。1~2か月後に各地で食中毒発生)を受け、加熱せずに摂取される食品については、「乾物や摂取量が少ない食品も含め、製造加工業者の衛生管理体制について、保健所の監視票や食品等事業者の自主管理記録票等により確認するとともに、製造加工業者が従事者の健康状態の確認等ノロウイルス対策を適切に行っているかを確認すること」と対応が記載されている。しかし、「確認」に留まっており、「記録」の必要性は明示されていない。HACCPの考え方からも、確認の記録を残すことは重要である。
また、二枚貝などノロウイルス汚染のおそれのある食品については、中心部を85~90℃で90秒以上加熱することが求められている。しかし、学校給食等の現場では、汚染リスクの低い食材にも同様の加熱が行われ、味や栄養価の低下などオーバークッキングの問題も指摘されている。汚染リスクや汚染量に応じた適切な加熱調理が望まれる。
(2)手洗いと手袋着用
食品取扱者から食品への二次汚染を防止するため、手洗いや使い捨て手袋の着用は極めて重要である。行政等では正しい手洗い方法を示しているが、実際には個人差が大きく、十分な手洗いが行われていないことが少なくない。そのため、各自の手洗いの検証や訓練が重要である。
また、弁当等を原因食品とする大規模ノロウイルス食中毒事例では、手袋を着用した従業員から食品が汚染したと推定される事例も少なくない。手袋着用前の十分な手洗い、正しい着用、着用後の手袋表面の消毒を徹底することが重要である。特に、非加熱食品や調理済食品の盛り付け時には細心の注意を払う必要がある。

(3)検便検査
不顕性感染者の発見等を目的としたノロウイルス検便検査は、10~3月に推奨されている。しかし、近年の流行状況を見ると、年末の流行は減少し、1~2月をピークに春から初夏まで継続する傾向がある(図)。民間検査機関((株)町田予防衛生研究所)の検査によると、陽性率は1~2月と、検査推奨期間を過ぎた4~6月にも高い傾向を示している。このため、検便検査は流行状況を踏まえて実施することが望ましい。また、陰性確認後に再陽性となる事例もみられる。マニュアルにもあるように、「検査結果が陰性であっても、検査感度によりノロウイルスを保有している可能性を踏まえた衛生管理が必要である」ことを理解し、一定期間は衛生管理をより徹底することが重要である。
(4) 健康管理
日々の健康チェックは一般に「下痢、嘔吐、発熱」等について行われている。しかし、実際のノロウイルス感染では、お腹の違和感など非典型的な症状の場合も少なくない。健康チェックを形骸化させず、従業員が自分の健康状態を正しく認識・申告できる体制を構築することが、ノロウイルス対策の基本であり、食品安全文化を醸成する第一歩である。


