諸外国における”食品安全法規制”について(2023年5月20日)

荻原定彦

三井物産株式会社 流通事業本部 戦略企画室 シニア品質保証戦略コーディネーター
荻原定彦

 食品輸入に関する各国HPが充実する中、食品輸出の各論は農林水産省のHP(※1)や委託事業(例えば※2)にお任せするとして、輸出入リスクを回避するための総論をお浚いし、その注意点について述べます。

●国境を跨ぐ食品
 進化や歴史の中で食は一族を護るものでした。農耕民族と狩猟民族では伝統的な食生活も違います。古くは自給自足や地産地消でしたが、交易が広がる中、食品は国境を越えるようになります。食べ物は生命に直結するため、自国民を護るためのルールが必要となりました。健康増進や宗教、表示、トレーサビリティ(HACCP等)などの視点もあり、科学や法令が後手に回ることも多いのが現実です。

●グローバルと各国の法規制
 厚生労働省HP(※3)に、「食品添加物の海外の基準は日本よりも緩いのですか?」という問いに「日本と諸外国ではこれまでの長い食生活や制度の違いなどにより、添加物の定義、対象食品の範囲、使用可能な量などが異なっていることから、単純に比較することはできません。」と記載されています。
 グローバルでは、CODEX(Codex Alimentarius)があり、CODEX委員会は、①消費者の健康の保護、②食品の公正な貿易の確保を目的とし、国際食品規格を策定しています。国内法令=CODEXとするフィリピンのような国もありますが、多くの国では法律に反映するプロセスがないとCODEX規格は国内法令として有効になりません。WTO通告など様々なルールがあり、合理的理由(主は食品摂取量の違いによるもの)がない限り、CODEX規格に従わない場合は、WTO訴訟の対象(貿易障壁)となります。
 しかし、未だ自国産業の保護に食品関連法令(規格基準)を利用している国もあります。
 CODEX規格は発効までに数年を要します。日本では、厚生労働省・農林水産省・消費者庁が運営するコーデックス連絡協議会(※4など)でその動向を知ることができ、自主的に先手が打てます。

●まずは食品分類
 CODEXの食品分類は欧州の食生活がベースです。輸出入の分類には、関税のためのHSコードがあり、食品も対象です。例えば、果実や水産品のスナック類等は、加工度や商品形態によりHSコード分類が変わることがあります。輸入先当局の判断ですので、HSコードに引き摺られ、食品の規格基準のための食品分類が変わり、食品添加物の使用基準に合致しなくなるケースや新たに原産地証明などを求められるケースもあります。

●法令対象と用語定義の再確認
 先に述べたように、食文化や食習慣が異なるので、法令の対象や用いられる単語の定義が極めて重要になります。一般的な食品添加物(保存料、酸化防止剤等)に対し、加工助剤(殺菌料、酵素、抽出溶媒等)、栄養素(ビタミン、ミネラル、アミノ酸等)、香料は別の法令の対象や法令対象外の場合(製造者責任として)もあります。ポジティブリスト未収載でも、法体系や名称の定義で解決する場合もありますので、諦めず精査が必要です。
 また、食品添加物の使用用途にも注意が必要です。日本では、規格基準がある場合を除き「主な用途」として取り扱われますが、用途名称も含め、厳密に運用されているケースもあります。輸出先国の定義に基づいた用途名を示すことがポイントです。注意が必要な食品添加物として、既存添加物に加え、乳化剤(脂肪酸エステル、ポリソルベート等)やビタミン(誘導体)などが挙げられます。

●並行輸出入の存在:食品添加物の使用可否と食品表示の免除
 原則は製造者責任ですが、輸入食品の場合、日本の食品衛生法・食品表示法相当のみならず、種々の関連法令について輸入者が責任を負います。
 課題の一つとして、食品表示法により表示免除となる加工助剤などは、工程での使用可否とは別物ですが、混同されることがあります。そもそも、並行輸出入は、パッケージ記載情報のみ、即ち表示免除された食品添加物が分からな状況で輸入許可が下りるのが実態です。
 また、水素添加工程そのものを認めていない国では、最終製品のトランス脂肪酸の分析に加え、工程のトレーサビリティ情報が必要となります。
 並行輸出入を認めざるを得ない現実の中、正直者が不利益を被るのはいかがなものかと思います。多種多様な消費者にとって製品情報は個々に重要であり、新たな物流と情報流のプラットフォーム化などが望まれ、消費者の選択に資する仕組み作りが今後必要になると思います。

●輸出者の在りたい姿に向けて
 まず、日本の当たり前は、海外では通用しないと捉えるのがベターです。日本が誇る食文化や長寿が故に、食品安全法令ではガラパゴス状態になっている面があります。諸外国の食品安全法規制の確認は以前よりも容易になりましたが、グレーゾーンの判断や法体系/語句の理解には背景/周辺情報も必要です。アレルゲン表示も国によって異なりますので、分からないことは原点に戻り、輸出先国の消費者の食の安全・安心を第一に考える姿勢が肝要です。課題に応じ、コンサルタント(Lawyers/Scientists/Importers)の使い分けをお勧めします。
 最後に、欧米の方は「土俵を取ったものが勝つ(法令は作るもの、変えるもの)」と口にされます。受益者や日本政府が旗を振り、積極的に外国政府とコミュニケーションすることに打開の糸口があると思います。勿論、サイエンス&ファクトベースにて。

※1:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/shokuhin-kikaku/index.html
※2:https://yushutukisei.com/
※3:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/qa_shohisya.html
※4:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/review_meeting_007/
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