[4月臨時号:2020年4月30日木曜日]
“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。毎回、本ブログでは食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今回も世界中でパンデミックが続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、国内で継続中の緊急事態宣言/経済封鎖をGW明けに解除すべきかどうか議論したいと思います。なお、世界中でCOVID-19により亡くなられたすべての方々に心よりご冥福をお祈りするとともに、感染/治療中の方々にお見舞いを、また日々新型コロナ問題に東奔西走されている医療従事者/行政関係者の皆様に敬意を表します。
今回のブログでは、緊急事態宣言(経済封鎖/移動制限)を即刻解除すべき理由を、できるだけ簡潔に述べたい:
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- これ以上の経済封鎖/移動制限により日本社会が被る経済損失リスク(国民が生活=生きる力を奪われるダメージ)はCovid-19の感染リスクを大きく上回る(リスクのトレードオフ)。このままでは、感染リスク低減効果も中途半端なわりに、経済損失により多くの国民が生きる希望を失い、自殺者激増は免れないだろう。
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- PCR検査が十分実施されておらず、潜在的な感染者数が見えないものの、国内における死亡者数推移を見た限りで、感染爆発は起こっていない。また危機管理がしっかりできている大手企業/行政機関/医療機関においては、Covid-19の集団感染/院内感染がほとんど発生しておらず、従業員ひとりひとりの感染予防活動が奏功している(製造業などは在宅勤務/移動制限ゆえの予防効果ではない)。
- 経済封鎖=サービス業の休業要請/市民の移動制限(8割接触減)を3週間続けたが、期待した以上に感染者数/死亡者数は減っていない。欧米においてもロックダウンなど強制的な移動制限をかけたとしても、思った以上に奏功していない。また、国内での移動制限にも法的拘束力はなく、新宿・渋谷・品川でヒトが減っても、戸越銀座や吉祥寺商店街にヒトが溢れるため、実質機能していない。
たとえば、欧米ではブリティッシュ・エアウェイが従業員1万人以上を解雇すると発表したようだが、今年の初めに誰がこのような急激な経済損失を予想しただろう。経済封鎖/ロックダウンが、たった4カ月で社会に与えた悪影響がこのような悲劇をもたらしているのだ。昨年末までまったく生活不安もなかった善良な社員たちとその家族にとって「青天の霹靂」としか言いようがないが、本当にこのような経済封鎖を社会に科す必要があったのだろうか?
筆者の評価では、この経済封鎖/移動制限によるCovid-19感染リスク低減策は、医療崩壊を防ぐため、一定期間は致し方ないとはいえ、長期に渡る政策としては「愚策」と断ずるしかない。社会全体のための公衆衛生リスク低減策/感染症対策として、社会を強制的に動かして経済封鎖/移動制限/ロックダウンなどを市民に実質義務付ける方法もあれば、市民ひとりひとり(個人)による感染予防活動に依存する方法もある。
前者は市民が素直に従ってくれれば物理的隔離なので奏功するはずだが、長期間は市民の緊張感がもたないうえに、コスト=経済損失が非常に大きい。後者の個人でできる感染予防活動(マスク着用、手洗い、消毒、ソーシャルディスタンスなど)はコストがほぼゼロであるだけでなく、自分の生命を守るためのコツと捉えれば、自然と市民の生活習慣に溶け込むように思う。
市民のリスクリテラシーを向上させることで、市民の感染リスク低減活動を促すということを考えても、「飛沫感染」や「接触感染」の原理をくわしく説明したうえで、リスク低減策を促すほうが理論上もはまりそうだ。「とにかく家にいなさい」というリスコミは、ある意味市民をバカにした説得になっており、市民の素直さを引き出すのは難しくないか。だからこそ、SFSSでは早くから国立医薬品食品衛生研究所客員研究員の野田衛先生にご助言をいただきながら、以下のようなリスコミ活動を続けてきた:
◎「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法について」
~SFSS Q&A番外編 2020年2月19日
http://www.nposfss.com/cat3/faq/covid-19.html
野田衛先生が提唱された「集団予防」のポイントは以下の3つだ:
①飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;マスクも有効)
②手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)
③消毒薬をうまく使う(アルコール以外も有効利用)
筆者は、すべての市民が外出時にマスク着用することのCovid-19感染リスク低減効果は、想像以上に大きいと考えており、パンデミックが始まった当初より、この点を誤ったWHOや米国CDCのリスコミは大失敗だったと指摘している(実際、マスクをしない無症状感染者が市中にたくさんいる状況をつくってしまった彼らの罪は本当に大きい):
◎「新型コロナ:マスクに予防効果なし」理論の弊害
[SFSS理事長雑感 臨時号:2020年3月16日]
【日本語(Japanese)/英語(English)】
◎How to Significantly Slow Coronavirus? #Masks4All
•2020/03/27 (Creative Commons license, feel free to share)
https://youtu.be/HhNo_IOPOtU
上述の野田衛先生のインタビュー取材によるQ&Aでも解説されているところだが、今回の未知のウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大をスローダウンさせるためには、ひとつやふたつの感染リスク低減策ではうまくいかない、いろいろなリスク低減策を積み重ねて、感染リスクを少しでも下げる努力をひとりひとりの市民がする必要があるということだ。ノーベル賞学者の山中伸弥先生や本庶佑先生も言われているが、このウイルスとの戦いは長期戦になるのだから、有効なワクチンや治療薬ができるまでは、全国民が対応可能な感染リスク低減活動に頼るしかない。
本当に必要な「安全」に係るリスク低減策を地道に積み上げて、事故に遭うリスクを下げている方は事故に当たらないが、まさか自分はそんな事故に当たるはずがない(=「正常性バイアス」)として、個々のリスク低減策をバカにして怠っている方は、不運が3つくらい重なって不思議と事故に遭う。世の中とはそういうものだ。だから、マスク着用も手洗いも消毒も、個々では感染リスクをゼロにすることはできない限定的なリスク低減効果だが、全従業員が社内外で地道にこれらを励行している会社では、クラスター感染は起こらないはずだ。
マスク着用によるCOVID-19感染予防のエビデンスについては、野田衛先生に再度インタビューしたので、ご一読いただきたい:
◎新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法、続報
https://nposfss.com/qa/qacovid-19/
以上、今回のブログでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスク低減策における経済封鎖/移動制限の問題点とともに、緊急事態宣言を早く解除すべき理由について、くわしく解説しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(参加費は1回3,000円です)ので、よろしくお願いいたします:
◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020(4回シリーズ)開催案内
【テーマ】 『消費者市民のリスクリテラシー向上を目指したリスコミとは』
http://www.nposfss.com/riscom2020/
【文責:山崎 毅 info@nposfss.com】