食物アレルギーのリスク管理と低減化策に関するフォーラム・IVより (2019年10月27日)

関澤 純


SFSS理事、京都大学名誉教授

小川 正

 食物アレルギーのリスク管理とはそもそも健全な食品が患者にとってはリスクの対象となる世界での「食の安全」対策である。食の安全と安心を科学する会では、ここ数年にわたり食物アレルギー患者の安全な食生活の確保のためのリスク管理とリスク低減化をテーマにフォーラムを開催してきた。その過程で、食品や食事の提供者、研究や治療に当たる学術・医療関係者、規制・監視に当たる行政関係者を招いて問題点を明らかにし、有効な対策について科学的議論を進めてきた。今回は、近年新しい展開を見せる患者治療の分野で必要なリスク管理について、個々人を対象とする高度な食事指導に取り組む学術団体の専門家(管理栄養士)や、年々複雑・多様化する食環境・食行動において発生する新たなリスクに関する詳細な情報収集とその解析を担当するNPOネットワークの活動家を討論に加えたフォーラムが企画された。講演からは、患者の治療にあたる医師から示されたアレルギー発症リスク・「ひやりはっと」事例や、患者との直接相談に携わるNPO組織からの報告「誤食事例とその背景」の解析からも常に新しいリスク因子が発生していることが指摘された。討論の中から、食品・食事を提供する関係者間での情報の共有・伝達が不十分であることがその原因の一つとして浮かび上がった。製品上のアレルギー表示に関しても、細心の注意を払っているはずの患者側の勘違い、うっかり見落としが生じている状況は、パッケージ上の「表現・意思伝達」の方法にさらなる改善の余地があることも指摘された。管理栄養士による患者の重篤度に合わせた個別の食事指導も可能となり、耐性獲得を目指した経口免疫療法も進められている。経口負荷試験による個々の患者の原因食物のアレルギー非誘発量(閾値)の確定には、原因食品中のアレルゲン(たんぱく質)の特定とその存在量の正確な測定が必要となる。リスクの管理も容易になり、一歩進んだ治療の可能性にもつながるとして鋭意研究が進められている。また、原因アレルゲンたんぱく質を分解・除去した低アレルゲン食品の開発も行われており、これらの研究成果の活用は食事指導を通して患者のQOL向上にもつながることが期待される。アレルギー食品不使用製品の検査に見られる擬陽性反応には検出キットの特異性・選択性の改良が求められる。
 近年、新しいリスクの一つとして注目されているのが花粉症患者が発症する食物アレルギーである。花粉症を引き起こしている花粉中の感作アレルゲンたんぱく質と植物性食品素材に存在する相同性の高いたんぱく質間のIgE抗体による免疫交差反応によってアレルギー症状が出現する現象である。2014年頃から豆乳飲用者の間で話題になり国民生活センターが注意喚起して以来、口腔アレルギー症候群(OAS:oral allergy syndrome)あるいは花粉-食品アレルギー症候群(PFAS:pollen-food allergy syndrome)としアレルギー外来では治療の対象となってきた。日本アレルギー学会のHP上での注意喚起によれば、花粉症原因植物の種類とアレルゲンたんぱく質の特定が進み、植物性食品素材との相関関係が明らかになりつつある。解析の進んでいる一例としてカバノキ科のシラカバ・ハンノキの花粉アレルゲン(Bet v 1)はリンゴ(Mal d 1)や、ニンジン(Dau c 1)、 ダイズ(Gly m 4)などのたんぱく質と相関し、交差反応する。自然界では植物が病原菌に侵された際に生成する感染特異的たんぱく質と呼ばれているたんぱく質であり、植物界に広く分布し、豆乳アレルギーはこれによって惹起される。日本アレルギー学会はアレルギー専門医にこのPFASの治療法の開発に取り組まれることを願うとしている。フォーラムでは相関の解明された食品素材においては、摂食注意表示(例えば、○○花粉症の方は△△食品の摂取時に注意)を一考する必要も指摘された。

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