日本ハム株式会社
中央研究所 主任研究員
森下 直樹
食物アレルギーの動向とアレルギー表示制度
食物アレルギーは近年増加傾向にあり、日本では乳児の10人に1人がいずれかの食物アレルギーを持っていると言われている。また数年前には学校給食での痛ましい事故もあり、食物アレルギーは大きな社会問題の一つとして注目されている。食物アレルギー患者にとって発症を避けるためには原因食物を摂取しないことが一番の予防法であり、そのためには加工食品への正確な原材料表示が必要である。日本では加工食品等へのアレルギー表示制度が2002年から始まり、加工食品中に10μg/g以上の特定原材料が含まれている場合には表示が義務付けられている。当社は食品中の食物アレルゲンを検出可能な検査キット「FASTKITシリーズ」を開発・販売しており、食品メーカーや流通企業、外食企業、行政機関(保健所、衛生研究所)、検査センター等において幅広く使用されている。
食品企業におけるアレルゲン管理のポイント
食品企業では食物アレルゲンは健康被害を引き起こす重大なリスクの一つとして管理されている。しかし多種多様な製品を製造する現場において食物アレルゲンを管理するのは難しく、原材料由来の汚染、製造工程での意図せぬ混入(コンタミネーション)、製造ミスや包装資材の取違いなど、管理しなければならない点は多々ある。そこで食品企業では4つのポイントに気を付けて食物アレルゲン管理を行っている。
一つ目は従業員教育である。食物アレルギーに関する正しい知識を持たなければ、どんなにいい管理システムを導入しても機能しない。食物アレルギーの怖さやリスクの大きさを学ぶことで従業員が高い意識をもって対応できるようになる。2つ目は情報管理であり、自社の製造記録や商品規格はもちろんのこと、原材料メーカーや製造委託先からも必要な情報を入手することで正確かつ最新の情報を把握することが大切である。3つ目は製造工程におけるコンタミネーションの制御である。製造順や動線の変更、使用器具の専用化、製造ラインの洗浄の徹底により、意図せぬ食物アレルゲンの混入を防止する。4つ目はモニタリング検査であり、製造ラインの洗浄度の確認、原材料の受入れ検査、最終製品の出荷前検査を定期的に行うことで、自社の食物アレルゲン管理がうまく機能できているかどうかを評価することができる。
アレルゲン管理の今後
食物アレルギー患者にとっては製品の原材料表示が命綱であるため、食品企業は正確な情報を提供する義務がある。食物アレルゲン管理は労力とコストがかかるため食品企業によって対応の差はあるが、より多くの食品企業において食物アレルゲン管理が広がり、食物アレルギー患者に「食べる喜び」をお届けできQOL向上につながるようになれば幸いである。