If you don’t mask, you should keep SD and don’t talk.~COVID19感染予防の基本はマスク・手洗い・消毒~

[2020年7月19日日曜日]

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。毎回、本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が東京中心に止まらないため、その感染リスク低減策をどのように市民に啓発すべきかについて、議論したいと思います。なお、世界中でCOVID-19により亡くなられた方々に、謹んでお悔やみ申し上げます。

まずは、ロンドンの地下鉄でバンクシーが描いた新型コロナに関する風刺画を、自らInstagramにアップしているので、そちらをご視聴いただきたい:

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ロンドンでは都市のロックダウンに続いて、地下鉄でのマスク着用が義務となり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを抑えこむための公共政策が、市民に強制されていることを風刺した動画なのだろう。しかし、Instagram上のbanksyからのメッセージは “If you don’t mask, you don’t get.” という一文だけなので、「マスクなしでは地下鉄に乗れないよ・・」という、いまのロンドンの状況を世界に伝えたかったのではないか。

しかも、この落書きはその後、ロンドン地下鉄の清掃員によって消されてしまったとのことで、ネズミたちが感染症を伝搬している人間を皮肉ったものと捉えると、市の消毒作業によりディープクリーンされることは、おそらく織り込み済みだったのだろう。さすがバンクシーだ。

そのロンドンを首都とする英国で、新型コロナ感染症の新規感染者数はどうなっているのだろう。ジョンズホプキンス大学の新型コロナウイルス感染症情報ダッシュボード(COVID-19 Dashboard by CSSE at Johns Hopkins University)を使用して、英国の日々の新規感染者数の推移をグラフにしてみると以下のとおりだ:

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3月後半から5月上旬にかけては、1日4千人から5千人の新規感染者が発生したようだが、5月からは上述のような公共政策がやっと奏功し始めて、いまでは1日の新規感染者数が数百人まで落ちてきたようだ。ということは、一時のような感染爆発がやっと抑えられ、日本の日々の新規感染者数に近づいているということだ。次に、この新規感染者数推移を、フランス・イタリアと比べてみたい。

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日々の新規感染者数のピークが、イタリアでは3月下旬、フランスでは4月中旬、英国では5月上旬と、少しずつ遅れているのがわかると思うが、このタイミングと各国のマスク着用率が上昇し始めた時期がリンクしているように見える(COVID-19に対する感染予防行動のアンケート調査を継続的にトラックしているサイト「YouGov」より

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この調査データが各国のすべての国民の外出時マスク着用率をどの程度反映しているかはわからないため、本データのみで判断することはできないが、日本も3月中旬まで60%前後だったマスク着用率が4月上旬にかけて80%を超えてきたことと、感染拡大の第一波が抑制されてきたのがリンクしているように見える。イタリア・フランスのマスク着用率の高さと新規感染者数の抑制傾向をみても、大半の市民が外出時マスク着用を励行することは、新型コロナ感染拡大を抑える方向に働く要因になっている可能性は十分にあると考える。

国立医薬品食品衛生研究所客員研究員の野田衛先生が、新型コロナウイルス感染症予防法として、外出時のマスク着用による飛沫感染防止が重要とのご見解とともに、正しいマスクの着用法についても詳しく解説していただいたので、以下のYouTube動画をご視聴いただきたい:

◎新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防について<正しいマスクの使用法>
野田衛先生 -SFSSリスコミ特集動画-(2020/05/04)

https://youtu.be/cOxRwu51uso

本動画の中でも議論していることだが、自分だけがマスクを着用してもCOVID-19の感染リスク低減効果は限定的であり、相手だけがマスクをしていても同様だ。お互いがマスクを着用して、初めて感染リスクが無視できる状態になることを市民が自覚し、外出時にマスクを励行していれば、その地域での感染拡大は確実に抑制されるのだ。もちろん手洗いや環境消毒を頻繁に行うことで、汚染された手指で目・鼻・口の粘膜に触れないという衛生手法により接触感染を予防する必要があるが、この点は大半の日本人がすでに励行しているだろう。

そのようなことは基本的な衛生マナーだから、わざわざ市民に対してリスコミで周知する必要があるのか、というご意見もあるだろう。しかし、残念ながらこれまでの国や自治体による緊急事態宣言において、「外出自粛/Stay Home週間」、「県境をまたぐ移動制限」、「サービス業への休業要請」、「3密を避けろ」などの物理的経済制限により、感染リスクはたしかに下がったものの、外食・娯楽・観光などのサービス業界はその代償として大きな経済損失リスクを被るだけでなく、リスコミ上の大問題も引き起こしていたものと考えられる。

すなわち、「外出自粛」、「3密を避けろ」、「8割接触減」、「移動するな」などのリスコミでは、「ソーシャル・ディスタンス」のみが感染リスクを抑える唯一無二の手段かのような誤解を市民に植え付けてしまい、いざ経済制限が解除されたときに、何が回避すべき感染リスクなのかという市民のリスクリテラシーが悪化しているのではないか。COVID-19感染予防の基本は、あくまでマスク・手洗い・消毒であり、それを周知するようなリスコミがもっと行われるべきなのだが、物理的に距離をとることにばかり気を取られていないだろうか。

バンクシーは「マスクをしないなら地下鉄に乗れないよ」とロンドンの現状を風刺したが、筆者は「マスクをしないなら、ソーシャル・ディスタンスを強く意識すると同時に、会話を慎むこと」と言いたい。もちろんだが、それ以前に「外出時には必ずマスク着用を」が、もっとも重要な市民向けのリスコミとして強調されるべきだ。

残念ながら、緊急事態宣言が解除されて経済活動が戻ってきたのに、身近にクラスター感染が発生していないと、「もう満員電車に乗っても、プロ野球やJリーグを観戦しても大丈夫じゃないか」などと、そこにある感染リスクに気づいていない市民が「あごマスク」などで会話している姿を見かけるようになったのは残念だ。接待を伴う飲食、サラリーマンや学生が集う居酒屋、飲食をともなう中小から大規模イベント、ランチタイムの会食などにおいては、マスクを外すスキができるのだから、もっと強くソーシャル・ディスタンスや会話を慎むことを意識すべきだが、そこが甘いと、いまの都市部では容易にクラスター感染が起こりうる状況だ。

申し訳ないが、そのような感染リスク低減策が徹底できないサービス業者は、法律を改正して営業停止にしてもらうしかない。そうでないと、きっちり感染予防対策がとれている同業者/業界にとっても大きな迷惑であり、何より市民や従業員たちを危険な感染症リスクに平気で晒している業者は、商売をする資格なしと断ずるほかはない。「感染者を差別するな」などと主張する前に、「感染リスク低減ができていないから感染したのでは?」と猛省を促すとともに、市民の公衆衛生リスクを下げるためにも、感染者の区別/隔離が優先されるべきだ。

緊急事態宣言が終わり、経済活動を早く元に戻しながらも、明らかに世界のCOVID-19感染リスクはいまだ残っているわけで、これからは市民個人とサービス業者たちが主体となって感染予防活動により、リスク低減をしていかなければならない。もちろんそこには政府/自治体による支援も必要であり、とくに新型コロナ陽性者をスムーズに隔離するための検査体制(PCR+抗原検査)や感染拡大に備えた医療体制の確保が重要だ。

すでに直近2週間、生活圏内で感染者の報告がない地域もあると思うが、その場合は「外出時マスク着用」+「頻繁な手洗い・環境消毒」さえ実行すれば、ソーシャルディスタンス(SD)を気にしなくても健康リスクは無視できると筆者は評価している。ただ直近2週間、生活圏内で感染者の報告がまだ続いている首都圏などでは、「外出時マスク着用」+「頻繁な手洗い・環境消毒」に加えて、会食などでマスクを外すときはSD維持+会話を慎むことが必要だ。

必要以上の経済制限をしないウイズ・コロナの生活様式における有効な感染リスク低減策を啓発するためには、このようなリスク評価法でリスクの大小をイメージしながら議論すること、すなわちリスクコミュニケーションが重要ということだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、日々世界中の研究者から論文発表され、新たな知見が伝わってくることで、専門家たちの見解も少しずつ変わってきたが、われわれの見解はぶれていない。SFSSでは2月中旬から国立医薬品食品衛生研究所客員研究員の野田衛先生にご助言をいただきながら、以下のようなリスコミ活動を続けてきた:

◎「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防法について」
SFSS食の安全・安心Q&A 2020年02月19日

https://nposfss.com/qa/covid-19/

野田衛先生が提唱された「集団予防」のポイントは以下の3つだ:
① 飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;マスクも有効)
② 手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)
③ 消毒薬をうまく使う(アルコール以外も有効利用)

以上、今回のブログではバンクシーのロンドン地下鉄での風刺画をもとに、「マスクをしないなら・・」という新型コロナウイルス感染症(COVID-19)リスク低減策に係るリスコミの在り方について議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(参加費は1回3,000円です)ので、よろしくお願いいたします。

◎SFSS食の安全と安心フォーラム第19回(7/26:オンライン)開催案内
『飲食業にとっての新型コロナ時代のリスク低減策
~食品衛生ならびに法規制上のリスクにどう対処する~』

http://www.nposfss.com/forum19/index.html

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020(4回シリーズ)開催案内
http://www.nposfss.com/riscom2020/

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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