リスク誤認がある限り、市民の正しい行動変容は起こらない誤ったメッセージによる感染抑制効果は限定的

[2020年12月19日土曜日]

 ”リスクの伝道師”SFSSの山崎です。毎回、本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月は新型コロナ感染症(COVID-19)による世界の感染者数が7千万人、死者数が160万人を超え、国内でも感染拡大がとくに都市部で止まりませんので、感染を抑制するためのリスクコミュニケーションの在り方について議論したいと思います。なお、世界中でCOVID-19により亡くなられた方々に謹んでお悔やみ申し上げるとともに、治療中の方々に心よりお見舞い申し上げます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全国的な感染拡大が止まらないことを受けて、政府はついに「GO TOトラベル」を年末年始(12月28日~1月11日)に全国一律で停止すると発表した:

 ◎【速報】GoToトラベル 全国一斉停止へ 年末年始「12月28日から1月11日の期間」
  FNNプライムオンライン 2020年12月14日

  https://www.fnn.jp/articles/-/119550

 先月の本ブログでも述べたばかりだが、これまで全国で5,000万人以上の国民が「GO TOトラベル」を利用したにもかかわらず、300名弱しか感染者が報告されていないという。たしかに都市部において感染拡大の傾向が見えていることは事実だが、いわゆる冬場の人気の観光地、温泉などで、クラスターが発生したなどというニュースは聞かない。観光産業/交通産業の方々もその利用者も緊張感をもって、感染リスク低減策がかなり周到にされているからではないか。

 いやいや、「GO TOトラベル」で国民の移動・接触が多くなったから都市部の感染が地方に広がったに違いない、というご意見が一部の政治家やメディア報道で流れているが、それならば地方の観光地でもクラスターが続々報告されるはずだが、どうなのか。また、東京大学/UCLAのグループから、「GO TOトラベル」利用者の方が新型コロナ感染症の疑いのある症状が多いという論文発表がされたが、これもわれわれSFSSでのファクトチェックを実施したところ、レベル2(不正確・ミスリーディング)という判定結果となった:

 ◎Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに⇒「不正確」
 ~SFSSが東京大学/UCLAの疫学調査研究をファクトチェック!~

 http://www.nposfss.com/cat3/fact/

 いま感染が拡大しているのは、どちらかというと都市部における会食(飲食をともなう接待、職場でのランチタイムなど)や医療介護施設、大学・高校の集団活動などでのクラスターが感染源であり、観光産業/交通産業のせいにするのはお門違いというものだ。もし自分が感染してしまった場合は、特定の産業や国の政策を批判する前に、なぜ感染してしまったのか、その直接的な原因を振り返って、どのあたりの感染予防策が甘かったのかを自己分析すべきだ。たとえば、自分がインフルエンザにかかってしまったときに、国や観光業のせいにする方はいないはずだ。

 新型コロナ感染症(COVID-19)は、季節性インフルエンザと違って、いまだ治療薬/ワクチン/検査薬などの感染症対策が完備されていないため、リスクコミュニケーションのポイントは、市民自らがとるべき感染リスク低減策の優先順位を明確に伝えることで、市民のリスクリテラシーを向上させることにある。その際、無症状でもウイルスが伝播すること、エアロゾル感染や物体に付着した飛沫が比較的長く残存する等、本感染症の特徴を理解する事が重要だ。その上で外出自粛/移動制限/休業要請などの強い政策は経済損失リスクが大きいことなどを総合的に勘案し、何が重要なリスク低減のポイントなのかを考察しなければならない。

 すなわち、リスク誤認を招くリスコミの代表格として「ソーシャルディスタンス/外出自粛/移動制限」があり、これらの優先順位を下げるべきであると、筆者はずっと強調してきたところだ。いやいや、感染症対策として一番優先順位が高いのは「できるだけ接触を避けること/移動を制限すること」に決まっているじゃないか、と思われる方が多いかもしれないが、それはあくまで、あなたが感染者もしくは濃厚接触者であるとわかった場合に限られるということだ。いま、ほとんどの国民は非感染者である可能性が高い(おそらく、明らかな感染者は1000人に1人程度)ことを考えると、優先すべき感染リスク低減策はフィジカルディスタンス/人との接触を避けることではない。

 今年2月から繰り返し申し上げていることだが、優先順位が高いのは、①飛沫をあびないこと(飛沫感染防止;外出時は常時マスク着用)、②手洗いまでは顔をさわらないこと(接触感染防止)、③消毒薬をうまく使うこと(アルコール以外も有効利用)の3つであり、フィジカルディスタンス/人との接触を避けることの優先順位は、その次の4番目ということだ(野田衛先生が提唱された「集団予防」をご参照いただきたい)。

 なぜ「フィジカルディスタンス/人との接触を避けること/外出自粛/移動制限」の優先順位が低いかというと、「距離がとれてさえいれば感染リスクがゼロ」かのようなリスク誤認を生みやすいからだ。ヒトは集うものであり、長期間にわたって巣ごもり=孤独でいることは所詮無理なのだ。ステイホーム・経済封鎖を続けることで、経済損失リスクも精神衛生上病んでしまうリスクも著しく大きく、なおかつ本来もっとも重要な衛生対策(マスク・手洗い・消毒)が甘くなってしまうため、これを市民に強いるような公共政策はスマートとは言い難い。

 これまでの欧米の感染抑制対策の失敗をみていると、ソーシャルディスタンスばかりが優先されていたのであろうと如実にわかる。最近、メルケル独首相がクリスマスの外出自粛を力強く国民にうったえるシーンがよく称賛されているようだが、筆者はまったく共感しない。あれだけ多数の新型コロナによる死亡者を出して、ご本人も一度感染しており、おそらく感染リスク低減策の何を優先すべきか、理解できておられないのではないか。英国ジョンソン首相も、仏マクロン首相も同様であり、ロックダウンをしても、国民は週末親しい家族・友人で集うのだから、奏功するはずもない。

 本来、感染者がそれほどいなければ、ロックダウン/外出自粛/移動制限などをかける必要は全くなく、たとえば市中の店舗/レストラン/観光業/交通産業などにおいて、従業員も利用者(客)も、ともに「ウイルス飛沫をあびない・さわらない」という環境をつくればよいだけなのだ。ただ、そうした感染リスク低減対策が十分にできてない事業者や客がいた場合など悪い条件が重なるとクラスターが発生する。

 これまで感染したことがないので、まさか自分の友人が感染者じゃないよねという「正常性バイアス」が働くのだが、1000人に1人の確率で誰かが確実に事故に遭い(東京なら、1000人にひとりでも1万人は事故に当たる)、友人との会食の際にマスクを外して会話したことを後悔しても、後の祭りということだ。国内においては、おそらく5人以上でテーブルを囲んだ忘年会/新年会は、外野から「ガースー」とやじられるものと思われ、今後確実に減るだろう(菅首相の自虐ネタ戦略にすっかりメディアも踊らされた?!)。

 新型コロナ感染症リスクの大小を決める主な要因は、移動/旅行や経済活動(外食やイベントなども)ではなく、あくまで外出時マスク着用・頻繁な手洗い/消毒など、個人/事業者の感染症リスク低減策の良し悪しに依存するものと理解していただきたい。このような市民のリスクリテラシーや、それに多大な影響を与えるメディアのリスコミが改善してくることを期待しているのだが、最近、日本テレビの「news zero」で「#マスクはワクチン」というハッシュタグが使われているのは素晴らしい。今後、ワクチンが市場に登場すれば、マスクとワクチンの2本立てで、新型コロナの感染予防がより確実に機能するものと期待するところだ。

 以上、今回のブログでは新型コロナ感染リスク低減策について、フィジカルディスタンス/移動制限は優先順位を低くすべきとの解説をしました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます。

 ◎SFSS食の安全と安心フォーラム第19回(7/26:オンライン)開催速報
  『飲食業にとっての新型コロナ時代のリスク低減策
   ~食品衛生ならびに法規制上のリスクにどう対処する~』

   http://www.nposfss.com/cat9/forum19_sokuho.html

 ◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020(4回シリーズ)開催済み
   http://www.nposfss.com/riscom2020/

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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