豊洲市場に学ぶ本当の「安全」と「安心」~誇張された「安心情報」に惑わされるな!~

[2018年10月15日月曜日]

“リスクの伝道師”山崎です。本ブログでは、毎月食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方を議論しておりますが、今月はこれまでここで議論してきた築地/豊洲市場の食品衛生上のリスクならびに「安全」・「安心」の切り分け方について、再度解説したいと思います。まずは、10月11日に開場した豊洲市場がマスコミを賑わせているようですので、そのうちのニュース番組をひとつ、以下でご覧ください:

◎豊洲市場が開場 課題は赤字補う築地再開発と使い勝手(TOKYO MX, 2018/10/11)
https://www.youtube.com/watch?v=GGrRTxP-AsQ

2016年11月に小池都知事より築地から豊洲への市場移転延期が発表されて以来、われわれも東京中央卸売市場の食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション(リスコミ)を続けてきたこともあり、無事豊洲新市場への移転が完了したことは感慨深いところだ。上記のニュース番組でもあるように、初日の渋滞や使い勝手・財政面などでいくつかの課題が認められたようだが、引っ越したばかりで市場関係者がまだ慣れておられないことを考えると、ほぼ順調な船出であったと言えるのではないか。一般むけの見学会に4万人もの市民がつめかけたとのことで、その期待の大きさが新たな豊洲ブランドの後押しになりそうだ。

豊洲市場敷地の下に盛り土がなかったことや地下水の汚染の問題に関して、都は38億円の追加工事を実施し、都民や市場関係者の「安心・安全」を担保したとの広報がされているようだが、2年前の最初の市場移転予定時期と比べて豊洲市場の食品衛生上のリスクはほとんど変わっていない、すなわち豊洲市場の食の安全は2年前の時点でも十分維持できていた(少なくとも築地と比較して食品衛生上のリスクは明らかに低かった)ものと考える。それがゆえに豊洲市場への早期移転を訴えて、われわれNPOもイベントやブログなどを通じて、科学的なリスク情報の発信をするとともに、小池都知事に「安全宣言」をお願いしてきたところだ:

◎緊急パネル討論会『豊洲市場移転に関わる食のリスクコミュニケーション』2016.12.20.
http://www.nposfss.com/cat1/toyosu1220.html

◎都庁記者クラブで【豊洲市場移転問題の「食の安全と安心」に関する専門家の統一見解】
を会見した模様が各社で報道されました。2017.3.30.

専門家「安全性高いのは築地より豊洲市場」 日テレNEWS24
http://www.news24.jp/articles/2017/03/30/07357725.html

◎市場の食の安全:リスク比較すべきは地下じゃない
SFSS理事長雑感 2017.5.15.

https://nposfss.com/c-blog/risk_comparison/

fig_201810.jpg

これらのリスコミ活動を通じて筆者が伝え続けてきたことは、「日本の台所」として多種多様・大量の食品を取引する中央卸売市場において、優先すべき課題は食品衛生上のリスクを十分低く抑えること=「食の安全」であり、都民や市場関係者にとっての「食の安心」=価値観は二番目の課題として公共政策を決定すべきということだ。築地ブランドの鮮魚や青果物は、長年市場で働いてこられた目利きの職人芸も加味して、日本の食文化を象徴する安心感=価値観があったわけだが、上記の表のとおり食品衛生上のリスク比較をすると、豊洲市場に移転すべき時季にきたことは明らかだった。そしてこのような食のリスクに関して一般市民と喧々諤々の議論(リスコミ・バトルロイヤル)をすると、自然と正しいリスク認識に傾いていく、すなわち市民のリスクリテラシー向上につながることを証明した事例と言えよう:

◎「BLOGOS議論」で豊洲市場移転問題に関するコメントが500件を超える「ザ・リスコミ」

(サイトがクローズ済)

この議論の前提条件としてあげたのが(食に)「ゼロリスクはありません」ということだが、なぜこれを最初にあげたかというと、「安全」とは「リスクが許容範囲に抑えられていること」をいうからであって、決してリスクゼロという意味ではないということをまずは知っておいていただきたいからだ。豊洲市場の地下水のベンゼン汚染濃度がもし「不検出」になったとしても、だから市場の食品衛生上のリスクがゼロになり「安全」ということではない。豊洲市場のリスクはすでに十分安全なレベルに抑えられており、追加の地下水汚染対策は過剰なリスク管理に余分なお金をつかって「安心」を誇張しているに過ぎないということだ。そもそも「安心・安全」という用語を使う方は、おそらく「安全第一」や「リスク」の意味をよく理解していないのではないかと疑ったほうがいい。

もちろん「食の安心」がいらないと言っているわけではないし、食のリスク情報を消費者市民に対して包み隠さず開示していくことで「食の安全」が維持され、それを地道に継続する食品事業者が信頼されることで、「食の安心」につながるのはよいことだ。加工食品にアレルゲン表示や栄養成分表示が正確に示してあることも重要なリスコミであり、アレルギーや高血圧・糖尿病の患者さんたちの「安全」が「安心」につながっているのは好事例と言えよう。だがほとんどの「食の安心」は、本来われわれ消費者が気づかないところで自然に発生しているものであり、リスク管理責任者が「安心」を誇張して、あえて消費者に意識を促すものではないはずだ。

食の安全・安心でもっとも社会的に問題となっているのは、食品添加物・残留農薬・遺伝子組換え作物・放射能汚染の本丸4つであり、本来リスクが十分低く抑えられており、きわめて安全性が高いにもかかわらず、消費者のリスク認知バイアスのために忌み嫌われているハザードであろう。「無添加」「保存料・着色料不使用」「無農薬」「放射性物質検査不検出」「遺伝子組み換えでない」「BSE全頭検査済み」などのキャッチコピーは、すべて食の安全に係るリスク誤認を利用した「安心表示」であり、消費者がそれをもって安全性が高いと誤解して購買することを狙った告知戦略だとすると、それは優良誤認すれすれの「マーケティング・バイアス」だ。消費者の価値観による合理的選択を狙った「安心表示」とするにはかなり無理があると言わざるをえないだろう。

食品添加物の中でも一部健康リスクの高いものがある(それが「保存料」「着色料」「調味料」など?)と勘違いされている方が、栄養士さんや食品事業関係者にまでいるのではないかと危惧するところだが、おそらく天然の一般食品に普通に含まれる多くの発がん物質とリスク比較することなく、危ないと思われているのではないだろうか。食のリスクについてしっかり勉強されることをお薦めしたい:

・リスクアナリシスで考える食品添加物の安全性(2018年1月22日)
畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)

http://www.nposfss.com/cat7/risk_analysis.html

・消費者の誤解は量の概念の不足から(2018年7月27日)
長村 洋一(鈴鹿医療科学大学 教授)

http://www.nposfss.com/cat7/consumer.html

以上、今回のブログでは豊洲市場開場にともなう「安全」・「安心」・食のリスクの問題について、あらためて解説しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションの学術啓発イベントを実施しておりますので、ふるってご参加ください:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2018(4回シリーズ)
『消費者市民のリスクリテラシー向上につながるリスコミとは』
第4回テーマ:『遺伝子組み換え作物のリスコミのあり方』(10/28)開催案内

http://www.nposfss.com/riscom2018/index.html

◎食の安全と安心フォーラム15
『食の微生物汚染:リスク低減のポイントを議論する』(2018.7/25)開催速報

http://www.nposfss.com/cat9/forum15_sokuho.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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