Whisper Words of Wisdom ~食の安全を呟くのに必須のリスクリテラシー

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について毎回議論をしておりますが、今回は、食の安全・安心に関わるリスクコミュニケーションに必須の、叡知としてのリスクリテラシーについて、考察したいと思います。

まずは、食のリスクに関する以下の見解・13項目のうち、科学的に誤りだと思うものを選択してください:

①「リスク」とは、いまどのくらい危険かを測るモノサシである。
②「安全」とは「リスク」がないことである。
③ 加工食品中の添加物のうち、一部、食べてはいけないものがある。
④ 食品中の天然成分のほうが人工の化学物質より安全で健康によい。
⑤ 農薬や防カビ剤を使った野菜や果物より有機栽培の方が健康によい。
⑥ 遺伝子組換え/ゲノム編集食品を食べると、将来どんな病気になるかわからない。
⑦ 放射性トリチウムは、どんなに少量でも発がんリスクが無視できない。
⑧ ノロウイルスによる食中毒はビニール手袋で調理すれば予防できる。
⑨ 鳥刺しが危険ときいたけど、高級割烹料理店の新鮮な鶏なら大丈夫。
⑩ 日本の卵はサルモネラフリーだから、お弁当に半熟卵をいれても安全だ。
⑪ 子供が乳アレルギーでアナフィラキシー症状になったが、
 一般人はその子供にエピペンを注射してはいけない。
⑫ この健康食品はここ10年間、健康被害報告がないので安全だ。
⑬ 国の食品安全委員会が添加物や農薬のリスク評価をしているというが、
 メーカーから提出されたデータでは信用できない。

山崎のブログをよく読んでいただいている方であれば、正解がお分かりと思うが、もし科学的に誤りだと思う選択肢が10個以下だった方は、ネット上で「食の安全」や「食のリスク」について呟かないほうが無難だろう。

先日、6月23日にSFSS主催で開催した食のリスコミフォーラム2024第2回において、『食のリスクに対する認知バイアスにどう取り組む』というテーマで3人の演者に貴重なご講演をいただいたのだが、その中で京都大学大学院教育学研究科教授の楠見孝先生が、食のリスク認知のゆがみを補正するためには、「叡知(Wisdom)としてのリスクリテラシー」が必要という見解を述べられた。

詳しくは本フォーラムの開催速報にて、楠見先生の講演レジュメ(pdf)をダウンロードできるので、そちらをじっくりと読み込んでいただきたいが、要は食の安全・安心に関わるリスクについて、科学的に正しく認知できていない場合には、単に知識を増やすだけでは難しく、批判的思考などの能力やスキルも含む行動が必要であり、以下の5つの要件をあげられた:

「叡知(Wisdom)としてのリスクリテラシー」
  叡智(wisdom)は,人生経験を通して獲得される深く広い知識と理解に支えられた知性
(a) 事実知識
 リスクに関する基本的用語,概念の知識
(b) 方法論の知識
 リスクに関する科学的な方法・過程,データの読み取り方の知識
(c) 生活や社会の文脈に関する知識
 (a)のリスクに関する知識を生活や社会の文脈の中に適用し,
 また,科学技術がどのように適用されているかを理解するための知識
(d) 個人・社会・文化およびその背後にある価値観の差異の理解に基づく相対主義的な考え方
(e) 個人や科学的知識の限界を踏まえた不確定性の理解と,日常生活,社会における意思決定

そこで、この叡知としてのリスクリテラシー獲得のためには、リスクコミュニケーションと教育が重要と楠見先生は述べられた。そう考えると、われわれSFSSが、これまで10年以上にわたって継続的に実施してきたリスコミ・イベントも無駄ではなかった気がする。たしかに食品安全の知識を得るだけでは、なかなかリスクの大小がイメージできないが、いろいろな立場の人間が集まって議論することで、理解が深まり、リスクリテラシーの向上につながるところだ。

「叡知(Wisdom)」といえば、われわれの世代では(年齢がばれてしまうが)The Beatlesの “Let It Be”を思い起こすところだが、まさに若い世代の方々にも、ネット上で食の安全について呟くときには、”Whisper Words of Wisdom”を心得ていただき、食のリスクリテラシー習得をお薦めしたい。

本稿の冒頭にあげた、食のリスクに関する13項目の見解はすべて誤りなので、もしひとつでも賛同してしまった選択肢があったとしたら、あなたは「食の安全の落とし穴」に落ちていることになる。その場合は、今月発刊したばかりの拙著:『食の安全の落とし穴~最強の専門家13人が解き明かす真実~』 著者:小島正美、山﨑毅 (女子栄養大学出版部刊)を読んでいただくとともに、SFSSのリスコミ・フォーラムにもご参加いただきたいところだ。

正しいリスク情報を発信するリスクコミュニケーターを育成する目的で、具体的な特別講義・セミナー・フォーラム等において、本書籍を無償配布するため、ご協賛・ご寄付を検討いただきますよう、よろしくお願いいたします。


以上、今回のブログでは、リスク認知バイアスの補正に必要な、叡知(Wisdom)としてのリスクリテラシーについて議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食の安全と安心フォーラム第27回(7/21、ハイブリッド開催)開催案内
 テーマ:食文化の継承と食中毒対策
 *会場参加の学生、栄養士、メディア記者に限り、参加費無料+上記書籍を無償配布
 https://nposfss.com/schedule/forum27/

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2024(8/25、ハイブリッド開催)
 第3回テーマ:「食品安全におけるHACCP認証の役割」
 開催案内
 https://nposfss.com/schedule/risk_com_2024/

                        【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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