(書評)『熱狂と欲望のヘルシーフード 「体にいいもの」にハマる日本人』畑中 三応子 著、ウェッジ刊


 本書は、「体にいいもの」にハマる日本人、という副題にもある通り、「いつまでも元気で健康でいたい、ずっと若々しい体のままでいたい」という「健康欲」が強い日本人のニーズに呼応した健康ブームの流行り廃りを総括している。たしかにそんな食品が流行ったよね、そういえば自分も一時期、リンゴダイエットにハマったなぁ・・などと、本書を読みながら、自分自身の人生と時代を反映した食の変遷を振り返るのもよいかもしれない。

 著者の畑中三応子氏は、「食は社会を映す鏡」をテーマに食と社会の関わりを長年追いかけてきた食文化研究家であり、「ファッション・フード」なる造語とともに、各時代を反映した食生活の歴史を表現してきたジャーナリスト/編集者だ。

 白米か玄米か、肉食か菜食か、牛乳は有益か有害か、自然か人工かなど、「これを食べれば健康になる」、「これを食べてはいけない」という短絡的「食べ物善悪二元論」は、わかりやすい健康論争でメディアも採り上げやすいため、昭和・平成・令和と振り子のように何度も繰り返されてきたという。食品事業者の顧問である自称「専門家」がメディアを介して学術啓発すると、「健康欲」を満たしたい消費者が大量発生し、一時的健康食ブーム・ダイエットブームが起こっては消えていく。著者はその熱狂と欲望の歴史を軽妙に語っており、大変興味深い。

 「健康」を語るからには、必ずその裏に科学論文情報があり、医師や学者が喧々諤々の議論をしていると、誰が信頼できる専門家で誰が“偽の専門家”なのか、何が科学的事実で何がフェイクなのか、一般市民にはなかなか理解しがたいだろう。それでも、ペットフードが健康志向に進化したから犬猫の寿命が劇的に伸びたと考えると、我々がヘルシーフードに依存し、国内の健康食品市場が3兆円に近付いているのも頷ける。

 著者は、健康食ブームの科学的根拠を議論しているわけではなく、あくまで食文化としてのヘルシーフードの長い歴史を語っているのだが、少なくとも一時的に流行ったけれども消えていった健康食ブームが、なぜ根付かなかったのかは真摯に受け止めたいところだ。また「健康」を謳いながら逆に健康被害につながったり、寿命を縮めるような健康食品による悲劇の歴史を繰り返さないことも肝に銘じる必要があると感じた。

 本書は、明治の時代から続いている「健康になりたい日本人」がハマってきたヘルシーフードの歴史を総括的に学びたい方に、読んでいただきたいと思う。

評・山﨑 毅(SFSS理事長)

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『熱狂と欲望のヘルシーフード 「体にいいもの」にハマる日本人』
  畑中 三応子 著、㈱ウェッジ刊:1,800円+税 ISBN 978-4-86310-267-5

【著者プロフィール】
畑中 三応子(はたなか・みおこ) 食文化研究家、オフィスSNOW代表
編集者として約300冊の料理書を手がけ、流行食を中心に近現代日本の食文化を研究・執筆。2019年、「第3回食生活ジャーナリスト大賞」受賞。「ファッションフード、あります。-はやりの食べ物クロニクル」(筑摩書房)、「カリスマフード-肉・乳・米と日本人」(春秋社)など著書多数。


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