SFSS副理事長
阿紀雅敏
SFSSは年2回の食の安全と安心フォーラムと年4回の食のリスクコミュニケーションフォーラムを開催しております。前者は隔年で食中毒・微生物管理と食物アレルギーに関するテーマを取り上げています。これら年6回のフォーラムでご講演いただいた先生方を中心として季刊誌に寄稿していただいております。2011年(春号)創刊以来50号を迎えるに当たって、これまでの記事の項目を別表のとおりまとめてみました。
これまでを振り返って
・過去にノロウイルス(ウイルス)、カンピロバクター(細菌)、アニサキス(寄生虫)で事故が発生しています。特にカンピロバクター感染リスクを下げる為には、生肉(特に鶏肉)を食べないことです。肉の鮮度とは関係がありません。アニサキスは、サバ、アジ、カツオなど多くの魚の内臓に居ますが冷凍すれば死にます。また以前「刻み海苔」でノロウイルス事故が発生し大変驚きましたが、対策は食品事業者の手洗いの徹底です。リステリアについてはあまり認識されていません。食品事業者の衛生管理のみならず、一般消費者の食品衛生リテラシー向上も重要です。このあたりは今後も継続テーマとなるようです。
・BSE(狂牛病)については、食品安全委員会のリスク評価を受けて農水省の対策が行われたにも関わらず、我が国だけが長らく全頭検査が行われました。リスクコミュニケーションが大きな課題でした。
・食物アレルギーフォーラムは第7回となりました。医師、アカデミア、食品事業者、行政、流通、患者団体の皆さんが夫々の視点で講演していただき、パネルディスカッションは大いに盛り上がります。アレルゲンも木の実類が加わりましたが、大人になってからアレルギーが発症する例が増加し、花粉症との関係、運動との関係など新しいテーマが見られます。
・食品事業者の現場の衛生管理や、HACCPに代表される品質マネジメントは、食品衛生法改正(HACCP義務化)の時期でもあり、食品事業者には大いに参考になったことかと考えます。
・食品衛生法改正に加えて原料原産地表示に関する法律がかわり、品質保証関係の皆様は超多忙の時期がありました。賞味期限と消費期限の違いについて未だ認識されていない消費者も多く、食品ロスの問題にも関係しています。食品企業各社のホームページのお客様窓口には良い事例もあります。品質保証、顧客対応は非競争分野ですので、大いに情報共有や議論を行いたいものです。
・ゲノム編集についてはいち早く取り上げました。これもリスクコミュニケーションが重要な課題です。
・どのテーマであってもリスクコミュニケーションについて議論になりますが、リスクコミュニケーション及び社会的背景などのテーマも扱い、食の安全のみならず安心も科学することが私たちの特長です。更に近年重視していますのは報道やSNSで発信される誤情報に対するファクトチェックです。
今後の課題
従来から企業においてCSR活動が行われてきましたが、2015年に国連サミットでSDGsが採択されて以降、SDGsは企業活動の本丸になり、既に各社で取り組まれており、食の安全・安心分野でも関連して活動されていることと考えます。
地球温暖化への対応は農水畜産物を原料とする食品事業者にとっては原料調達という点で頭が痛いですが、CO2削減を含む取り組みが社会的責任をも含む企業価値につながる中長期的課題となっています。
近年Novel Food(1997年5月15日以降EU内で人間によって相当量が消費されなかった代替タンパク)が注目されていますが、Novel Foodに限らず規制や認証の分野でヨーロッパの動きに目が離せません。更に食糧安全保障に関して国連の機関の動きも学んでおきたいものです。
近年のAIの急速な進歩は今後製造管理や製品開発にも及ぶことが予想されます。官能評価が品質上重要ですが、AIをどう生かすかという技術的課題のみならず、コミュニケーションリスクになることがあるかもしれません。
今後このような新しい分野も視野に入れて活動を行いますが、SFSSの特徴は幅広い分野の皆様が科学的視点に基づき情報共有と議論を行うことです。リスクコミュニケーションは消費者窓口の皆様に大変参考になります。是非多くの皆様のご参加をお願いしたく存じます。