(書評)『ナチュラル ミステイク 食品安全の誤解を解く』 James T. MacGregor<著> 林真、森田健<監訳> ILSI Japan食品リスク研究部会<訳>

“A Natural Mistake - Why natural, organic, and botanical products are not as safe as you think”

 著者ジェイムスT. マクリガー氏は、医薬品、食品の開発、安全性評価、規制にかかわった経験を持ち、米国毒性委員会の専門委員をはじめ、米国食品医薬品局(FDA)の薬剤評価研究センター長、米国農務省(USDA)西部地域研究センター食品安全研究部長等を務めた専門家です。翻訳をされた林真氏は、2003年内閣府食品安全委員会発足時より、残留農薬、食品添加物、動物用医薬品の専門委員会メンバーとして、安全性評価に携わってこられました。

 食品のリスクコミュニケーションに関わっていますと、天然物は合成された物より安全であるとの思い込み、まさにこの著書のテーマである「自然が安全であるとの誤解」に直面します。その誤解を解くことからリスクコミュニケーションの第一歩が始まります。本書では、大きな誤解の根拠と理由、それがもたらす問題について詳しく書かれています。著者はアメリカの問題として述べていますが、我々にとっても身近な、まるで日本の問題として述べられているような錯覚さえ覚えます。

 まず、著者は、「自然食品は有害成分を含まない」、「天然物由来製品は合成化学物質製品よりも本質的に安全である」と仮定することは間違いであると指摘します。「我々の主な栄養源は自然のものであったことから、自然のものは本質的に健康で栄養価が高いものと考えるのは無理もない。しかし、植物は異なる生物活性を持つ種々の化学物質(二次代謝産物)を含んでおり、植物に利益をもたらすように進化したものであり、それらは人に対して優しいとは限らない。自然の植物には健康を脅かす化学物質は含まれないと信じる人々に反して、植物は自然が生み出す多種多様な化学物質の源である」と説明しています。

 そして著者は、その誤解が、法の規制にも影響を及ぼしていることに警鐘を鳴らしています。「一般的な食品は食経験があるので安全であるといった考え方が法律の前提にあり、これらの食品や製品の安全性に関する規制は、健康リスクがあると一般的に思われている製品、つまり化学的に合成された食品添加物、農薬、医薬品よりもはるかに緩い。食品添加物、医薬品、農薬の販売を規制する法律には、安全性の評価とともに、化学物質の同一性や純度を維持するための厳しい規制があるが、食品、天然植物由来栄養補助食品に関する規制ははるかに緩い。この「ナチュラル」=安全、自然や天然のものに対する無条件の安全信仰が、製品の区分間での安全性保証、法律、規制、評価に費やされる予算において大きな不均衡をもたらす根本的な原因になっている」と指摘しています。

 著者は、消費者、立法機関、あるいは規制当局の方々に向けて、慧眼に満ちた重要な提案をされています。また、リスクコミュニケーションに関わるに皆様にとっても、たいへん参考になる著書と考えられます。是非ご一読をお薦めします。

評・大瀧 直子(SFSS理事)

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『ナチュラル ミステイク-食品安全の誤解を解く- 自然食品,オーガニック食品,植物由来製品はあなたが考えるほど安全ではない理由』
著者:ジェイムス T マクリガー、監訳者:林真、森田健、
訳者:ILSI Japan 食品リスク研究部会、アマゾン POD 出版:2,750円(ペーパーバック)

ISBN 978-4904397084
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4904397088

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