食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020(4回シリーズ)活動報告

2020年6月から10月にかけて食のリスクコミュニケーションを テーマとしたフォーラムを4回シリーズで開催いたしました。
毎回50名~80名程のご参加があり、3人の専門家より、 それぞれのテーマに沿ったご講演をいただいた後、 パネルディスカッションではオンライン参加者からの ご質問に対して活発な意見交換がなされました。

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020
【テーマ】 『消費者市民のリスクリテラシー向上を目指したリスコミとは』

【開催日程】
第1回 2020年6月28日(日)13:00~17:50
第2回 2020年8月30日(日)13:00~17:50
第3回 2020年9月26日(土)13:00~17:50
第4回 2020年10月25日(日)13:00~17:50

【開催場所】オンライン会議(Google Meet)
【主 催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
【後 援】消費者庁、東京大学大学院農学生命科学研究科食の安全研究センター
【協 賛】日本生活協同組合連合会 、一般社団法人食品品質プロフェッショナルズ、東京サラヤ株式会社
【参加費】3,000円/回
*SFSS会員、後援団体(先着1~2名程度)、メディア関係者(取材の場合)は参加費無料

<第1回> 2020年6月28日(日)『ゲノム編集食品~新たな育種技術のリスコミ~』

【プログラム】

13:00~14:00 『ゲノム編集作物の開発状況と規制状況について』
田部井 豊(農研機構)
14:00~15:00 『ゲノム編集トマトの開発と社会実装について』
江面 浩(筑波大学生命環境系)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『ゲノム編集食品に対する消費者の受け止め方』
佐々 義子(特定非営利活動法人くらしとバイオプラザ21)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『ゲノム編集食品~新たな育種技術のリスコミ~』
進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師

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田部井 豊先生

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江面 浩先生

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佐々 義子先生

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①田部井 豊(農研機構)
『ゲノム編集作物の開発状況と規制状況について』

ゲノム編集技術は、目的とする DNA 配列のみを特異的に改変できる優れた技術であり、医療分野や創薬、有用物質生産、農業分野など幅広く利用されることが期待されています。その社会実装には、規制のルール、知財、国民理解など考慮すべきことが多くあります。日本では、2019年にカルタヘナ法および食品衛生法上の基本的な取扱ルールが定められ、商業利用に先立ち、義務ではないものの情報提供が求められています。その後、文部科学省や経済産業省、農林水省、厚生労働省などから、情報提供にかかる詳細が示されています。これらの取扱ルールについて概要を紹介します。

田部井先生講演レジュメ/PDF:2.71MB

②江面 浩(筑波大学生命環境系)
『ゲノム編集トマトの開発と社会実装について』

精密かつ効率的に生物の遺伝子機能を調節・改変できるゲノム編集技術が登場し,様々なライフサイエンス分野での利用が加速しています。ゲノム編集技術を用いて,品種改良が高速化できることから,農作物の品種改良(育種)の分野でもこの技術に対する関心が急速に高まっており,今後利用拡大が予想されます。本講演会では,何故、作物育種でゲノム編集技術への関心が高まっているかを理解するために,1)そもそも作物とはどんな植物なのか,2)育種とはどのような作業なのかを説明し,続いて,3)事例としてゲノム編集トマトの開発とその社会実装に向けての私見を紹介します。

江面先生講演レジュメ/PDF:1.63MB

③佐々 義子(特定非営利活動法人くらしとバイオプラザ21)
『ゲノム編集食品に対する消費者の受け止め方』

日本で開発されたゲノム編集食品の登場を前に、食品としての安全性確認、環境影響評価の仕組みが整い、表示の方向性も定まりました。昨秋からは申請者のための相談窓口もスタートしました。遺伝子組換え食品のリスコミではボタンの掛け違いが起こったといわれますが、早期から情報発信、議論が始まったゲノム編集食品を消費者はどのように受け止めるのでしょうか。ゲノム編集食品が、消費者から健全に選択されるようになるには、何が必要なのでしょうか。ゲノム編集食品に対する様々な意見を整理しながら、ご一緒に考えたいと思います。

佐々先生講演レジュメ/PDF:648KB

*参加者アンケート集計結果(PDF/832KB)

<第2回> 2020年8月30日(日)『健康食品のリスコミ~天然成分のリスクは?~』

【プログラム】

13:00~14:00 『錠剤・カプセル状健康食品の品質等と健康被害について』
宗林さおり(国民生活センター)
14:00~15:00 『新規食品成分の安全性確保について』
畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『機能性表示食品のリスクと安全性をどう評価する?』
山﨑 毅(SFSS 理事長)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『健康食品のリスコミ~天然成分のリスクは?~』
進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師

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宗林さおり先生

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畝山智香子先生

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山崎 毅理事長

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①宗林さおり(国民生活センター)
『錠剤・カプセル状健康食品の品質等と健康被害について』

消費者へのアンケート調査では、商品選択に自信がないにも関わらず、治療中の諸症状の改善や老化予防等のために健康食品を摂取している人が散見され、効果が実感できないと多めに摂取する人もみられる。一方、機能性表示食品制度が発足してから消費者からの苦情や具合が悪くなった等の申し出は他の商品の中ではトップである。今回は実際に調査を行った錠剤・カプセルタイプの健康食品の崩壊性等の品質や、機能性成分の商品による差、テスト方法による測定値の差、表示との関係を紹介し、課題を抽出するとともにみなさんと解決に向けて議論したいと思っています。

宗林先生講演レジュメ/PDF:2.02MB

②畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所)
『新規食品成分の安全性確保について』

提供する食品の安全性確保は基本的に事業者の責任であるが、新しい食材や成分を使う、あるいはこれまでとは違う使い方をする場合に、日本にはどうすれば安全性が証明できるのかについては明確なきまりはない。そこで欧州と米国で近年確定された安全性の立証の考え方について紹介する。欧州では新規食品(ノベルフード)、米国では新規ダイエタリー成分(NDI)及び GRAS規制が公式に採用されている。韓国でも食品にポジティブリスト制を導入し、安全であると判断されたものだけが食品として使用できる。基本的には食経験あるいは食品添加物と同等の安全性の立証が要求されている。

畝山先生講演レジュメ/PDF:423KB

③山﨑 毅(SFSS 理事長)
『機能性表示食品のリスクと安全性をどう評価する?』

いま国が認めている機能性表示食品制度は、食品事業者自らが機能性/安全性の科学的根拠情報を消費者庁ホームページに開示し、企業の裁量(性善説)に依存した規制なので、消費者市民が開示情報を見極めたうえで、商品の合理的選択を求められている。消費者が機能性食品により生活習慣病のリスク低減を期待しているのに、実は安全性に問題ありでは本末転倒なので、筆者はこれまで「食品の機能性には寛容に、安全性には厳しく」とお伝えしてきたところだ。本講演では、食品事業者が開示している機能性表示食品の安全性情報をもとに、健康食品のリスクの大小について議論したい。

山﨑理事長講演レジュメ/PDF:1.4MB

*参加者アンケート集計結果(PDF/779KB)

<第3回> 2020年9月26日(土)『低線量放射線被ばくのリスコミ~福島復興支援のために~』

【プログラム】

13:00~14:00 『住民の放射線不安は過剰なのか:安全と安心の関係を見直そう』
伊藤 浩志(学術博士)
14:00~15:00 『原発問題への関心が低下した今、メディアが果たすべき役割は』
瀬谷 健介(BuzzFeed Japan)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『放射線リスコミはなぜ失敗したのか』
多田順一郎(放射線安全フォーラム)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『低線量放射線被ばくのリスコミ~福島復興支援のために~』
進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師

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伊藤浩志先生

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瀬谷健介先生

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多田順一郎先生

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①伊藤 浩志(学術博士)
『住民の放射線不安は過剰なのか:安全と安心の関係を見直そう』

「安全は科学の問題で、安心は心の問題。科学知識を身につければ、過剰な不安は解消できる」と考えられてきた。リスク認知研究により、素人のリスク認知はバイアスを避けられず、科学的なリスクの見積りより、過剰になりがちなことが示されているからだ。ところが、脳科学などの進展で、文化や生物種を超えて常に観察される一定の偏りには、環境に適応し、種の保存に必要な合理性があることが分かってきた。
「過剰な不安」と見られてきた素人のリスク認知の背後にある生物学的合理性を検証し、安全・安心二元論の限界を明らかにする。新型コロナウイルス感染症にも関わる普遍的な問題である。その上で、新たなリスク論を提案したい。

伊藤先生講演レジュメ/PDF:998KB

②瀬谷 健介(BuzzFeed Japan)
『原発問題への関心が低下した今、メディアが果たすべき役割は』

福島第一原発で、高濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」に、浄化処理を施した「処理水」が日々生まれ続け、タンク群が敷地の一部を埋め尽くすように拡がっています。東電は、敷地の問題から2022年夏が保管のタイムリミットだとしています。経済産業省の有識者会議が2月、「海か大気への放出が現実的」とする報告書をまとめました。ですが、政府は最終的にどうするか判断を示せていません。地元でも賛成の声がある一方、風評被害を懸念して反対し、保管継続を求める動きがあるからです。報道機関の 1 人の記者として、原発構内や関係者、元環境大臣などへの取材を通し、何を知り、何を考えたかを報告します。

瀬谷先生講演レジュメ/PDF:0.99MB

③多田順一郎(放射線安全フォーラム)
『放射線リスコミはなぜ失敗したのか』

言い古されたことですが、安全を理解させることはできても、安心してはもらえません。行政は、すでに安全だった食品基準をさらに引き下げて安心を提供しようとし、案の定失敗しました。
食品の放射能汚染に関する人々の認識を混乱させた最大の要因は、科学的な判断ではなく、ポピュリズムへの妥協に基づいて基準を作ってしまったことにあります。ただしその背景には、1950年代に作られた放射線防護の基本的な考え方を、無批判に墨守してきた学界の姿勢がありました。とくに、放射線防護体系が用いてきた「どれほど僅かな放射線曝露にも健康リスクがある」という慎重な前提は、さまざまな誤解の根源となっています。

多田先生講演レジュメ/PDF:65KB

*参加者アンケート集計結果(PDF/753KB)

<第4回> 2020年10月25日(日)『食品添加物のリスコミ~無添加/不使用表示の弊害とは~』

【プログラム】

13:00~14:00 『食品添加物について正しく伝えるには』
三輪 操(日本農芸化学会フェロー)
14:00~15:00 『無添加表示の犯人はだれなのか―メディアか事業者か市民団体か行政か』
小島 正美(元毎日新聞)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『食品添加物の安全性と無添加/不使用表示』
西島 基弘(実践女子大学名誉教授)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『食品添加物のリスコミ~無添加/不使用表示の弊害とは~』
進行:山崎 毅(SFSS)、パネラー:各講師

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三輪操先生

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小島正美先生

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西島基弘先生

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*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:

①三輪 操(日本農芸化学会フェロー)
『食品添加物について正しく伝えるには』

食品添加物の研究に長く携わり、いろいろな所で講演や講義を行ってきたが、「添加物の有用性・安全性」がうまく伝わらず、もどかしい思いをすることが多い。相手が学生であれば必修科目の単位を取るため必死に勉強するし、科学的に理解してくれる可能性が高い。一方、「何となく不安」、「中学・高校の先生がなるべく使うなと言った」、「無添加表示の食品がたくさんあるということは添加物は危ないのだ」、というような理由で添加物を避けている人たちに対しては、
科学的データを示して、「ほら、大丈夫ですよ」、と言っても、添加物に対する不安が簡単に消えるわけではない。消費者それぞれの立場を考慮した伝え方を工夫する必要があるのではないか。

三輪先生講演レジュメ/PDF:2.14MB

②小島 正美(元毎日新聞)
『無添加表示の犯人はだれなのか―メディアか事業者か市民団体か行政か』

食品添加物の危険性を煽る人たちを分類すると以下の4つだ。①週刊新潮のような週刊誌、②週刊誌に登場する市民活動家とその学者、③無添加で商売をする事業者、④学校給食は無添加にすべきだとする学校関係者。この4者の影響力で得をする人、損をする人はだれなのか。損失を被っている人は何をすればよいのか。そもそも食品添加物のリテラシーを上げる目的とメリットは何なのか。このままだと何が問題かを、もう一度、ゼロから考えてみることが必要ではないだろうか。

小島先生講演レジュメ/PDF:2.45MB

③西島 基弘(実践女子大学名誉教授)
『食品添加物の安全性と無添加/不使用表示』

食品添加物は、国として安全性や有効性、各種の規格など厳しい条件を満たしたものについて認めたものです。このことも知らない消費者が多いのが実態です。昔から食品添加物無添加/不使用の表示は少しありましたが「着色料、保存料不使用」という大手コンビニのコマ―シャルで火が付き、その後は他のコンビニも追従し、次いで中小メーカーの製品にまで不使用表示が書かれるようになりました。それにより消費者は食品添加物を使用していない食品が安全と思う人
も増え、無添加/不使用を書かないと売れないと思い込むメーカーも出てきました。添加物不使用についての矛盾と弊害を考えてみたいと思います。

西島先生講演レジュメ/PDF:342KB

*参加者アンケート集計結果(PDF/879KB)

(文責・写真撮影:miruhana)

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