元神奈川県食品衛生監視員
笈川 和男
この数年アニサキス食中毒が増加し、5月には多くのテレビ番組、新聞等で取り上げられた。そこで、アニサキスとは何かを説明したうえで、増加した原因と対策を述べる。
■アニサキスとは何か
海の獣(哺乳類、以下海獣)の消化器官で成虫になる寄生虫。幼虫は中間宿主であるサバ、アジ、サンマ、イカなどの消化器官に寄生していて、大きさは長さ2~3cm、太さ0.5mmで白色の線虫(図1)。寄生体が死ぬと消化器官から肉の部分へ移動する。近海魚類を刺身、寿司として食べた数時間後に激しい上腹部痛、嘔吐を呈することがあり、原因はアニサキスの幼虫であることが多い。
海獣の消化器官に寄生しているので酸、塩分に大変強い。1975年に神奈川県小田原保健所が実施した「アニサキスの抵抗性実験結果」は表のとおりで、醸造酢で保存した場合には最長で960時間、塩分(10%)で保存した場合には最長162時間生存したと報告している1)。
■アニサキス食中毒は増えている
2000年頃、全国でアニサキスによる健康被害者は2,000~3,000人とされていた。日本食品衛生協会の賠償共済で支払い年度別のアニサキスによる件数は2001年度16件、2002年度6件、2003年度11件と少なかった。現在、国立感染症研究所の調査では年間の患者数は約7,000人と推定しており増加している2)。
2014-2016年の原因魚種別では、図2のアニサキス食中毒の魚種別発生数のとおり、氷山の一角であるが全件数は331件、魚種が特定されたのが143件、その約半数がサバであった。サンマによる発生時期は9~11月に関東以西で発生し、昔から水揚げされてきた北海道、東北からの発生報告はない3)。
■アニサキス食中毒が増加している理由
漁獲地では生食の場合、イカはイカソーメン、アジ・イワシはタタキ、サバはシメサバにして対処してきた。アニサキス症が増加している理由として次のことが考えられる。
①低温流通が進み、都市においても漁獲地に近い新鮮な魚介類が提供されるようになった。
②調理人のアニサキス対策の包丁さばき、眼力(目視力)が低下した。
③シメサバの調理で酢、塩分が甘くなった。
④アニサキス対策を熟知していない美食家が、生食を推奨する。
50年ほど前、北海道の漁獲地ではサンマの生食習慣は無かったが、現在、都会でサンマの刺身が提供される。インターネットで「サンマの刺身」調理方法が紹介されているが、アニサキス対策の記述がないのがある。
【 対策 】
新鮮な近海魚類を刺身、寿司を提供する場合は丁寧に確認して、取り除くしか対策はない。冷凍処理すれば死ぬし、もちろん加熱すれば死ぬ。
飲食店でシメサバを提供したいなら、あるいは自宅で調理した場合には、調理後、冷凍保存する。
オランダは生魚(ニシン)を食べる習慣があり、生食として販売には-20℃で24時間以上冷凍が義務付けられている。
ブラックライト(紫外線)照射で確認する方法もあるが、取り除く必要性は残る。
おわりに「取り除くのも板前、調理師の腕(包丁さばき、眼力)」である。
文 献
1)神奈川県の急性伝染病(昭和50年),p.99-105(1977)
2)病原微生物検出情報,Vol.38,p.69-70(2011.4)
3)厚生労働省ホームページ,過去の食中毒事件一覧,平成26年(2014年)~平成28年(2016年)食中毒発生事例