なぜ、ゲノム編集食品は
そこそこ受け入れられているのだろうか? (2021年6月11日)

小島正美


元毎日新聞編集委員
小島正美


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 狙った遺伝子を効率よく書き換えることができる「ゲノム編集技術」で生まれたゲノム編集トマトのモニター栽培が今年5月から全国で一斉に始まった。遺伝子改変作物を5000人のモニターが一斉に家庭菜園で栽培する光景は、世界初の体験である。これは1996年に登場した遺伝子組み換え作物では想像もできなかった現象だ。いったい何が違うのか。報道の観点からゲノム編集食品と遺伝子組み換え食品の違いを比べてみた。
 2020年12月11日、血圧の上昇を抑えるGABA(ガンマアミノ酪酸)を豊富に含む国産初のゲノム編集トマト(製品名シシリアンルージュハイギャバ)が国に届け出られ、同トマトを開発した江面浩・筑波大学教授とベンチャー企業「サナテックシード」が東京で記者会見を行った。翌日の新聞各紙を比べてみるとその論調の特徴が分かる(表1)
 朝日、毎日は「安全性の審査がなく、国への届け出も任意のため、安全性への懸念がある」との声を伝えた。一方、読売は、開発会社が事前に研究データ資料を国へ提出しており、「事前相談は実質的な審査」だとして、安全性の懸念よりも実質的に審査されていることを強調した。日本経済は「安全性への懸念は低いものの、消費者の不安を払拭することが必要」と報じた。産経は食べて危ないというニュアンスではなかったものの、「花粉が飛んで生態系を乱す恐れがある」と他紙とは異なる内容に触れた。
 どの新聞にも共通していたのは、表示が義務化されていないため、表示が販売者まかせになっている点だ。この点について、サナテックシード社は「表示をして販売する」と明言しており、東京新聞などは「サナテックシードは消費者の知る権利に配慮して表示する」と好意的に報じた。
 こうしてみると、朝日、毎日は安全性への懸念を伝えているものの、食べて危ないかのような解説はなく、遺伝子組み換え食品とはかなりトーンが異なる。遺伝子組み換え食品の場合は、たいてい「消費者から危険視」といった文言が躍っていたのを思い出す。

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 なぜ、ゲノム編集食品への風当たりは強くないのだろうか。過去30年にわたり、遺伝子組み換え作物を取材してきた経験から以下のことが言える。最大の違いは、ゲノム編集作物は、日本の大学や公的機関の研究者が開発している点だ。遺伝子組み換え作物は外資系巨大企業が開発会社のため、種子が海外の巨大企業に支配されてしまうといった批判があった。
 これに対し、一学者が生み出したゲノム編集作物は国内の新しい産業に育つ可能性もあり、これまでのような攻撃のターゲットにはなりにくい。また、遺伝子組み換え作物の場合は試験研究自体に反対運動が吹き荒れたが、ゲノム編集ではそういう動きはない。その裏には、ゲノム編集技術は従来の品種改良と変わらないという利点もあるだろう。
 いまのところ、市民団体の反対運動も組み換え作物ほど強くない。これはやはり一途な思いの研究者が生み出すゲノム編集技術の成果に正面切って反対しづらい面が強いのではとみている。ゲノム編集食品に逆風が吹いていない10項目の判定を表にした。ぜひ参考にしてほしい(表2)

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