認定NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク
事務局長/専務理事
赤城智美
誤食はどのように起こっているか
食物アレルギーの患者が社会生活を安全に心豊かに過ごすためには、社会生活の様々な場面において任意の第三者の協力や支援が不可欠です。それは本人や家族がどんなに努力しても、患者が口にするあらゆる食物を自分たちだけの努力で作り上げることはできないからです。
患者やその家族は細心の注意を払って毎回の食事を吟味しています。しかし、それでも多くの患者は自分のアレルゲン食物を間違って食べてしまった経験を持っています。家族は「注意深く選んだはずなのにどうしてだろう」と不安に駆られます。時には「大切な我が子にアレルゲンを食べさせてしまった」と深く傷ついてしまうことすらあります。
患者の経験を丁寧に解き明かすことで、再発を防ぐ鍵があると考え、私たちは様々な聞き取りやアンケート調査を行い患者の行動や認識の仕方についてのヒントを探しています。
2016年の調査では62.2%の患者が誤食を経験したと回答し、そのうちの30.1%は自宅で加工品やテイクアウトの食品を食べたときに、27.6%が外食で誤食していました。その時の状況を自由に記述してもらい、私たちがキーワードを付与して分類してみると「食べて大丈夫なものと思い込んで」または「大丈夫な食べ物だ」と勘違いした人が40.7%、「表示を見たのに書かれていたアレルゲンを見落として食べた」人が20.4%いました。
誤食の背景
(1)食品が多様になっている
卵、乳成分がアレルゲンの人の事例では「団子は米粉、醤油、砂糖でできていると思ったら柔らかい感触を出すために乳成分が使われていた」「そば饅頭は小麦粉、そば粉、小豆、黒糖でできていると思ったら卵が入っていた」というような、従来の素朴な材料で、手作りするときをイメージして「これなら大丈夫」と思い込んで食べた結果誤食しています。作り方や味のバラエティは時代と共に変化していることに誤食事例から気づきます。
(2)食物の常識が一様でなくなってきた(食卓の知識が受け継がれていない)
お麩が小麦でできていると知らなかった、高野豆腐は大豆でできていると知らなかった、マヨネーズは卵が使われていると知らなかったといった、そもそもそれが何からできているか知らなかった事例がめずらしくなくなってきた。
(3)一度食べて大丈夫だった食品の表示を次から見なくなる(購買行動の特徴)
原材料表示は患者にとってとてもありがたいものであると同時に、とても煩わしいものでもあります。忙しい毎日の買い物の時間に、パッケージに書かれた原材料を1つ1つ安全確認するのに、字は小さく、原材料以外にも欄外の注意喚起も見ながら判断しなければなりません。そんな時に以前細かく表示を見て大丈夫だったものを見つけると、「いつものあれだ!」という気持ちから表示を見ずに商品をかごに入れてしまうのです。この傾向は多くの聞き取りやワークショップなどで母親らが証言しています。
(4)規格変更に気づかない
加工食品の原材料は、味や食感を改良するためや原材料の仕入れ先が変更することによって絶えず「規格変更」が行われています。これは食品企業にとっては周知の事実ですが、消費者にとっては想像の範囲外のできごとです。「以前食べて大丈夫だったので今回も買って食べたら、以前使われていない材料が使われていて症状が出てしまった」といった出来事は、多くの食物アレルギーの人が体験しています。「好きだった商品が無くなってしまった」「数少ない私にとって安全なものが無くなってしまった」と嘆いたり、「なんで材料を変えてしまうの!」と半ば憤慨したり、商品の規格変更は食物アレルギーの人にとって一大事となることがあります。
(5)食品表示の理解が不十分
2017年の調査では、患者の購買行動に着目したアンケート調査を行いました。原材料に表示されている言葉の意味がわからない34.4%、任意表示が統一されていないためわかりにくい47.7%の回答がありました。誤食事例では、(一部に〇〇を含む)の表示を「少量含んでいる」と誤って理解したため、原材料が表示されているのに食べて発症した事例が散見されました。またタンパク加水分解物と示された後に(一部に乳を含む)と示されているので、卵は使われていないと理解できるように表示されているのに「タンパク加水分解物が何の由来かわからないのでこれは食べられないものだ」と判断する人が多数いました。
リスクマネジメントに関わる人と共有したい課題
・「規格変更によってアレルゲンが増える食品」の注意喚起の工夫
・食物をめぐる知識の普及は「食物アレルギーのリスク管理」にとって重要な要素と認識すること
患者に向けて私たちがやらなければならないこと
・規格変更があることを周知し毎回表示を確認すべきことを啓発する
・食品表示の見方を学ぶ機会の提供