ファクトチェックとは何か
〜FIJファクトチェック・ガイドラインの解説〜 (2022年6月3日)

楊井人文


FIJ事務局長
楊井人文

 誤・偽情報の蔓延が社会問題、民主主義を揺るがす問題と捉えられるようになり、ファクトチェック活動への期待が高まっている。
 ファクトチェックとは、社会に広まった言説・情報が事実に基づいているかどうかを調べる、いわば「真偽検証」活動を指す。何が事実で何がそうでないのか、情報の(不)正確性を可視化し、一般の人々に注意喚起をする機能がある。
 インターネット黎明期の1990年代から米国の市民メディアが始め(Snopes.com)、2000年代には大学に付属した専門機関(factcheck.org)や、大手メディアの専門部署(politifact.com)などが立ち上がった。SNSが普及した2010年代は、ネット情報を検証するファクトチェック専門団体が急増。科学分野の専門家を中心とした団体(sciencefeedback.co)なども現れ、現在、欧州、中南米、アジアなど世界各地で350以上の団体が活動している。独立性が重視されるため大半が非営利団体で、財団の援助などで活動している。
 今から5年前の2017年ごろ、私は大手メディアの誤報を検証するサイトを運営していたが、ネット情報の検証も含め、業界横断的な取組みが必要と感じていた。いわゆる「フェイクニュース」が流行語となって社会的関心が高まったことから、ニュースアプリ運営会社Smartnewsの支援を受ける形で、科学記者で早稲田大学の瀬川至朗教授、SFSSの山﨑毅理事長らとともに立ち上げたのが、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)である。

ガイドラインを策定した理由
 FIJはファクトチェックそのものを実施する団体ではなく、担い手拡大のための啓発や環境整備、各団体への情報提供を中心とした支援を行う、ファクトチェック推進団体である。2018年、ファクトチェック・ガイドラインを策定した。その理由は主に3つある。
 第一に、日本では当時、メディア関係者を含めてファクトチェックがほとんど知られていなかったため、具体的なルールを示し、理解を深めてもらう必要があった。第二に、ファクトチェックの国際団体(IFCN)が綱領(Code of Principles)で定めた5つの原則があったが、実務的に活用できるより具体的な指針を提供する必要があった。第三に、ファクトチェックへの信頼を得るためには、活動が依拠している原則や基準を社会に向けて明らかにすることも重要と考えた。
 現在、約10のメディア・団体がFIJのガイドラインを活用してファクトチェックに取り組むようになっている。

ガイドラインのポイント
 ガイドライン全文はFIJのサイトで公開しているので一度ご覧いただきたいが、紙幅の関係で重要な点に絞って解説したい。
 最も重要な原則は、「特定の主義主張や党派・集団等に対する擁護や批判を目的とせず、公正な基準と証拠に基づいて、事実に関する真実性・正確性の検証に徹する」というものだ。これを踏まえ、ファクトチェック対象は「客観的な証拠によって事実の存否や正確性を検証しうる『事実言明』とし、何ら事実言明を含まない意見表明や主張は対象としない」との原則を示した。ファクトチェックの目的は、ある意見や立場が正しいか間違っているかではなく、事実誤認を生じさせる言説が前提としている事実関係の真偽を明らかにすることにあるからだ。
 事実と意見の峻別は検証対象を特定するプロセスだけでなく、記事化する上でも必要である。ガイドラインでは「読者の理解を深めるために、ファクトチェック記事の中において解説等を盛り込むときは、私見はできるだけ抑え、必要以上に批判的、攻撃的、侮辱的な表現を用いない」としている。誤情報に対してついつい強く批判したくなるものだが、あくまで冷静沈着な検証態度が求められるということだ。
 IFCN綱領の5つの原則のうち4つが「透明性」に関するもので、ファクトチェックの世界で非常に重視される。FIJのガイドラインでは、このうち「情報源の透明性」(Transparency of Sources)に関して、「事実認定や結論・判定に至った理由について第三者が検証できるよう、客観的な証拠(エビデンス)・出典や情報源(ソース)をできるだけ具体的かつ詳細に記載する」としている。ファクトチェックは署名記事でなければならず、運営団体にも財源を含め、詳細な情報開示を求めている。
 ファクトチェックで特徴的なのは、その言説・情報の正確性についての判定を行う点にある。これを「レーティング」という。ガイドラインでは、「誤り」「不正確」「ミスリード」「根拠不明」といった用語と定義を定めたレーティング基準を作り、推奨している。

ファクトチェックの課題
 ファクトチェックは、証拠に基づく論証を重視し、客観的な事実を探究する「科学」「学問」の精神に通じる面があると思う。ただ、曖昧さをもった日常言語や社会的事実を扱うため、ファクトチェッカーの間でも認識や評価の食い違いはよくあり、万能ではない。「フェイクニュースと闘い、撲滅する」という正義感で行うと危険である。
 大事なことは、何が事実かを一般の人々が見極めるための判断材料を淡々と提供することである。ファクトチェックは、事実を軽視しセンセーショナルに拡散されがちな情報社会において、人々の免疫力(リテラシー)を高めるうえで非常に有用である。ただ、手間のかかる地道な実践でもあり、担い手をいかに広げていくかが大きな課題だ。

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