消費者がゲノム編集食品を受け入れるには(2023年3月19日)

浦郷由季


一般社団法人全国消費者団体連絡会 事務局長
浦郷由季

 ゲノム編集技術応用食品については、厚生労働省において2019年3月(魚類に関しては2021年6月)に食品衛生上の取り扱いについて検討され、事前相談を経たうえ最終的に自然界または従来の育種技術でも起こっている範囲内の遺伝子変化のものは、安全性審査は行わず届出とする制度が整えられました。全国消団連では、ゲノム編集食品に関しては新たな育種技術として研究開発の段階から関心を持って学習を進め、厚生労働省での検討の際には参考人委員として議論に参加しました。

ゲノム編集技術応用食品についての全国消団連のスタンス
・届出対象となるゲノム編集食品の安全性については従来育種と同等と考えられるが、新しい技術でまだ発展途上であることから情報の蓄積は不可欠であり、届出制度の実効性確保を求める。
・表示に関しては、開発者・事業者の自主的な表示を強く求める。
・よく分からず不安を持つ消費者が多いことから、理解促進につながる積極的なリスクコミュニケーションを求める。

一般消費者のゲノム編集技術応用食品についての認知度
 全国消団連では2022年6月にインターネットによるアンケート調査(認知度調査)を行いました。消費者団体にとってゲノム編集食品は非常に関心の高いテーマでしたが、一般の消費者にとって関心度は著しく低く、ゲノム編集食品自体がまだよく知られていないことがわかりました。そして、ゲノム編集技術を使ってどのように品種改良がされ食品ができるのか、安全性はどうなのかなど、一般の消費者はまだ知る機会が少なくイメージも悪いようです。
 アンケートの調査結果を取りまとめた報告書は12月に公表しております。
 http://www.shodanren.gr.jp/Annai/pdf/800_01.pdf

リスクコミュニケーションと情報開示の重要性
 ゲノム編集食品について消費者に理解してもらいたい、受け入れてほしいということであれば、まずは知ってもらうことが必要です。そのためにも行政、研究者、事業者などが連携して、定期的に繰り返しリスクコミュニケーションの場を作ることが重要だと思います。その際、受け入れてほしい側にとって都合の良い情報だけとならないこと、様々な立場のステークホルダーと双方向での意見交換ができる場を作ることが理解を深めることにつながると思います。
 アンケート調査の中で、ゲノム編集食品に関する情報をどのような方法で得たいかという問いに対しては、TV番組での特集、パンフレットやネットニュースなど簡易な読み物、5分未満のネット動画、漫画という回答が上位を占めたことから、時間をかけずに気軽に学べるコンテンツなどの提供も必要だろうと思います。
 また、何より重要なのは表示と情報開示だと思います。義務表示とはなっていませんが、開発者、事業者がゲノム編集食品であることの表示を積極的に行うことで消費者からの信頼が得られ、受け入れられることにつながると考えます。

消費者がゲノム編集食品を受け入れるには
 ゲノム編集という技術は将来的に持続可能な食糧生産という点において重要な技術だと思いますが、今のところ私たちのくらしに直接関わってくることが実感できないと思います。今後、アレルゲン除去の可能性、収量拡大による価格の安定、食品ロスの削減、食料の安定供給などにつながる食品の開発が期待されますが、そのようなゲノム編集食品の開発が進めば、消費者の興味・関心が集まり理解が進むと思います。「消費者がゲノム編集食品を受け入れるには」、その一つの答えとしては「消費者が必要と感じるか?」ではないかと思います。

 最後に、ゲノム編集食品に限らずですが、デジタル社会の中では膨大な情報があふれ、消費者は何が正しい情報なのか見極めることが困難になっています。科学者・研究者の皆さんには、倫理観を持って、常に正確な情報の発信をお願いしたいと思います。そして私たち消費者も、発信される様々な情報を鵜呑みにせず、情報の発信元や内容を確認し、自分で考えて判断することが大事だと思います。

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