学校給食における衛生管理に思う (2021年11月22日)

牧 美弥子


SFSS理事
牧 美弥子

〇学校給食における衛生管理の取組への経緯
 1996(平成8)年、腸管出血性大腸菌O157による全国的な食中毒等の発生があり、大阪府堺市では学校給食を原因とする稀に見る大規模な学童集団下痢症が発生しました。これを契機に同年、文部省は食中毒発生の学校給食現場を、厚生省は全国の学校給食施設を一斉点検し、その結果多くの問題点を確認することとなりました。厚生省は早急な改善の必要性を確認し、1997(平成9)年に学校給食調理場も視野に「大量調理施設衛生管理マニュアル」を作成しました。文部省は同マニュアルとの整合性を図り、同年「学校給食衛生管理の基準」を定めて通知し、一部改正を経て2009(平成21)年4月1日付「学校給食衛生管理基準」(以下管理基準とする)として告示し、学校給食法(2008(平成20)年改正)の第九条に位置付けました。現在この基準を遵守した衛生管理に至っています。

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〇学校給食衛生管理基準における調理従事者の役割
 「HACCPの考え方」に基づいた衛生管理を実施(調理業務委託でも同様)し、調理従事者は図の手順で日常作業を進めています。前日調理は認められず、作業区域に沿った作業過程を確実に行うことが求められます。食中毒防止の徹底を図るため作業工程表及び作業動線図を適切に作成し、二次汚染、交差汚染を防止し調理後2時間以内に給食できることが原則です。しかしパンなど一からの手作り献立もあり、また調理場の構造状況等にもより作業の複雑さは日々変化します。

〇学校給食の食品の選定基準
 食材の検収は学校栄養教諭等からの委託により調理従事者が主に行っていますが、食品の購入及び選定は管理基準に、食品選定委員会等を設けるなどして栄養教諭、保護者等関係者の意見の上での仕組みとしています。調理業務委託の場合も受託者が独自で食材を調達できるわけではありません。
 食品の選定基準は「第3 調理の過程等における衛生管理に係る衛生管理基準」の(2)の「③食品の選定」第二項に、「有害若しくは不必要な着色料、保存料、漂白剤、発色剤その他の食品添加物が添加された・・・の食品については使用しないこと」と定めています。学校給食で食中毒の惨禍を再び繰り返してはならないという反省と決意のもとに策定された管理基準でこの選定基準は安全性を担保する要件とは言い難いものと考えます。
・消費者庁「食品添加物表示制度に関する検討会」(2019.4~2020.3)議事録から
 「③食品の選定」は「食品添加物表示制度に関する検討会」の議題に挙がり、学校教育関連の中学校学習指導要領(平成29年告示)【技術・家庭編】及び高校の家庭基礎並びに家庭総合の指導要領(平成30年告示)解説が、食品添加物や残留農薬、放射性物質などは基準値が設けられ、食品の安全性を確保する仕組みについても理解できるようにすると改められたことで委員から評価を得た反面、管理基準の「有害」は食品添加物にかかり「使用が認められていない食品添加物などが添加された食品が使用されないように児童生徒が食べる給食の安全性に配慮した意味を込め基準に定めた」とする文部科学省の回答に、食品衛生法違反のことであり説明になっていないのでは、とのことでした。検討会報告書のおわりには食品添加物の表示の対象範囲ではないが、食品添加物そのものに関する誤認が生じているのではないかとして、普及啓発の重要性に鑑み、管理基準の告示について改正を求める意見が複数の委員から挙がったことに触れています。

〇学校給食についてのリスクコミュニケーション
 教育の一環である学校給食にこそ食品添加物について正しく理解してもらうために管理基準を再考の上、学校教育とともにその役割、有用性についてリスクコミュニケーションにより育まれることを期待したいと思います。また、ネット上に公開された自治体の給食調理業務委託に関する保護者のアンケート結果に推進意見の他、安全よりも利益を追求してしまわないか不安などの声も多く、先入観や確証バイアスに陥っていると思われる意見を鑑みて、リスクコミュニケーションを通じて学校給食を安心(安全+信頼)してもらえるものになることを願っています。

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