~新たな『機能性表示食品』は消費者市民社会の救世主となるか~ (2015年8月23日)

山崎  毅

特定非営利活動法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)理事長
山崎 毅

平成25年6月14日に閣議決定された規制改革実施計画及び日本再興戦略で、加工食品または農林水産物に企業等の責任で科学的根拠をもとに機能性表示ができる新たな制度を平成27年3月末までに開始すべしとして、まさに安倍首相の第三の矢(規制緩和)が放たれ、ついにその制度が出発の時を迎えた。そもそも何故、本規制改革を実施することにしたのか?

1.「病気や介護を予防し、健康を維持したい」との国民のニーズ
2.世界に先駆けて「健康長寿社会」を実現。

もちろん規制緩和をするということは、上記2点とは別に、国内食品市場においてできるだけ規制のハードルを下げ、中小企業も含めた自由競争を活発化させ、経済の活性化をもたらすという目標も当然あるだろう。本制度は、これら3つの目標を達成するための手段であることを、まずは肝に銘じなければならない。すなわち、規制をできるだけゆるめることで、増加の一途をたどる高齢者の生活習慣病予防(=医療費抑制)につながるような機能性食品が市場にあふれ、経済の活性化にも寄与できると考えたわけだ。国民が健康長寿+QOL改善+生活も豊かになるのだから、こんなによいことはない。
今回の第三の機能性食品の最大の特徴は、米国のダイエタリーサプリメント制度にならって、企業等が自己責任で安全性/品質+有効性のエビデンスを消費者庁に届け出ることで、2か月後には規則に沿った機能性表示を付した食品の販売がゆるされる点だ。トクホが、国に対して安全性/有効性データを申請し、国の承認が下りない限り販売できないこと(国も企業も相当のヒト・カネ・時間を要する)と比較すると大きな規制緩和だ。
ただ規制をゆるめると言いながらも、食品自体の安全性に問題が生じたり、その生体調節効果にそぐわない機能性表示をゆるしては、国民の健康に悪影響が出ることは必至だ。そこで今回、企業等が届け出た安全性/機能性のエビデンス情報が消費者庁および企業のホームページに公開され、一般消費者が自由にアクセスできるようにした。食品企業にとっては、商品の機能性/安全性情報を消費者に伝えることができる反面、しっかりしたエビデンス情報がないと消費者からの批判にあうため、襟を正す必要性が出てくるわけだ。
これまで霧の中で全く見えなかった健康食品の安全性/機能性情報も消費者から見えるようになるので、野放し状態の粗悪な健康食品から、安全性/機能性の高い機能性表示食品に切り替えが進むと期待される。さらに、本制度では有害事象が発生した場合の情報収集体制も企業に義務化される(医薬品に近い対策)ので、安全性も向上する。また、本制度制定前の消費者庁検討会では、消費者/学識者ではなくむしろ産業界サイドから、特にサプリメント形状の食品に関しては医薬品基準に近いGMP製造を法的に義務付けることで安全性を確保すべきとの意見が出ており、食の安全の最適化をめざす当NPOにとっても、近い将来ぜひとも実現してほしい制度と考えている。
ただ、機能性食品の保健機能成分はそうはいっても食品素材なので、医薬品のようなキレはなく、むしろ医薬品ほどの効果が臨床試験で認められたりしたら、それはもはや食品とは呼べず、副作用を抑えるためにも医薬品として厳しく管理すべきだ。ともすれば医薬品と同レベルの有効性エビデンス+完璧な安全性データを同時に要求するような声もあるが、そのような完璧な食品機能成分はありえない。機能性表示食品の評価のポイントは「安全性には厳しく、機能性には寛容に」であり、機能性まで厳しく評価しては対象食品がなくなり、本制度は形骸化、企業も消費者も「いわゆる健康食品」に戻るだろう。
筆者は本制度が消費者の意識変革につながる画期的取り組みとして高く評価しており、これまで国のお墨付き頼みで思考停止のまま機能性食品を選択していた市民にとって、ついに消費者市民社会を形成するための船出の時がきたとの印象だ。あとは、いかに食品事業者が本制度を忠実に利用して、たくさんの機能性表示食品を開発し、目に見えるような医療費削減を達成して国民の健康長寿に貢献することだが、そこに「考える消費者」が主役として活躍できる真の意味の「消費者市民社会」を望むところである。

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