消費者から見た機能性表示食品(2024年5月18日)

一般社団法人 Food Communication Compass 代表
森田満樹


 2024年3月に起きた小林製薬の紅麹サプリメントの健康被害を受けて、同社の製品が機能性表示食品であったことから、この制度の信頼が揺らいでいます。消費者庁は検討会を立ち上げ、5月末までに制度の見直しも含めて検討を行っています。
 本件の原因は現段階では明らかになっておらず、不純物の混入であれば食品安全上の品質管理の問題だという意見も聞かれます。しかし、2015年4月1日にスタートした機能性表示食品表示制度は、事業者が食品の安全性と機能性等に関する科学的根拠など必要な事項を販売前に消費者庁長官に届けることで、事業者責任のもと機能性を表示できる制度です。本件で事業者責任はきちんと果たされていたのか、機能性表示食品の仕組みに問題はないのか、制度の改正も含めて、まずは検討を行うことが求められます。

●消費者の機能性表示食品の認知度は低い
 消費者庁が所管する保健機能食品制度(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)は、その他のいわゆる健康食品との違いも含めて、消費者の認知度は低いのが現状です。消費者庁の「令和3年度食品表示に関する消費者意向調査報告書」によれば、機能性表示食品について「どのようなものか知っている」と答えた人は18.1%で、特定保健用食品の回答は27.0%、栄養機能食品の回答は14.2%でした。
 機能性表示食品制度がスタートして以来、トクホの許可数が1000件程度と頭打ちの中で、機能性表示食品はわずか9年で7000件を超える届出があり大きな市場を形成しています。消費者から見てもここ数年で機能性がはっきりと大きく表示されるサプリメント等が増え、「機能性表示食品」であることを強調した広告も増えていることから、国の制度として一定の信頼感が出てきたところだったと思います。
 ところが2023年は、機能性表示食品の機能性の科学的根拠に問題ありとして措置命令が出て、同様の製品の届出撤回が相次ぎました。また広告の問題で措置命令が出るなど、様々な問題が噴出しました。2023年末には、消費者庁はウェブサイトで機能性表示食品の正しい理解について呼びかけ、「事業者が消費者庁長官に届け出た内容は誰でも確認できますので、ぜひご活用ください」と呼び掛けていました。

●届出内容を見てみると…
 そこにきて、小林製薬に紅麹サプリメントの問題が起きました。どのような製品だったのかと届出情報を見ると、安全性情報では食経験の根拠として「2018年から20万食、類似処方で販売しています」などと書いてあります。これでは食経験として短すぎるし、類似処方なので同一性は分からず、実際の物が何人分ぐらい食べられていたのかも不明です。なお、安全性試験のデータもありますが、データの質が高いとは言えませんでした。制度がスタートした当初から、消費者団体としてサプリメントの販売実績を食経験として認めるのであれば、きちんと明確な判断基準を示してほしいと意見書を提出してきましたが、ガイドラインの改正には至っていません。
 また、届出基本情報の品質管理の事項には「当該製品は公益社団法人日本健康・栄養食品協会から認定を受けたGMP適合製造所で製造している」と書いてありました。ところが、詳細情報を見るとサプリメント委託工場の情報しかなく、小林製薬の大阪工場の情報はありませんでした。2回目の記者会見で、大阪工場はGMPの認定も受けていないし、HACCPも国際的なISOの22000とかFSSC22000といったような外部評価が行われるような基準を満たしていないことがわかりました。届出は原料工場の情報まで求めていないので制度上は問題ありませんが、原料の品質管理は食の安全確保のための重要な項目です。いわゆる健康食品のサプリメントは、原材料の製造工程においても厚生労働省が高度な品質管理の安全性の自主点検がきちんと行われるように求めています。こちらは2005年に「錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針(ガイドライン)」が示され、2024年3月に改正されています。機能性表示食品のサプリメント形状の食品においては、GMPも含めて原材料の安全性についてもこうした指針の遵守も盛り込んでもらいたいものです。
 また、本件は健康被害の消費者庁への報告が遅れていたことも問題となりました。機能性表示食品の届出ガイドラインでは「届出者は、評価の結果、届出食品による健康被害の発生及び拡大のおそれがある場合は、 消費者庁食品表示課へ速やかに報告する。」と書かれていましたが、報告基準が明確ではなく、この報告制度は全くワークしていなかったこともわかりました。本件を受けて健康被害情報収集の義務化は必須だと思います。
 他にも医薬品成分が含まれる場合はそのことがわかるような届出の方法など、本件を契機に機能性表示食品ガイドラインの様々な見直しが求められます。今後の全容解明とともに、機能性表示食品のガイドラインのハードルを上げて透明性を高めることが、消費者の信頼を取り戻すことにつながるのではないでしょうか。

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