『リスクの神様』に学ぶ企業の危機管理対策のコツ

[2015年7月12日日曜日]

このブログでは食品のリスク情報とその伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論しているが、今回はいま話題の連載TVドラマ『リスクの神様』(フジTV系列、水曜午後10時)について考察してみたい。筆者はTVドラマやスポーツ観戦の話まで本ブログで採り上げているが、「どうせフィクションだろ?」という視点ではなく、もし自分がリスク管理責任者だったらどうする?という視点で、本件を考察していただきたい。

『リスクの神様』は先日7月8日(水)に第1回が放映されたが、予想していた以上に現実の企業が直面している危機管理対策に近い状況を再現しており、おそらく同じような境遇(謝罪会見など)に遭ったことのあるリスク管理担当者はかなりいたはずである。初回のエピソードはリスク・マネジメントというよりはクライシス・マネジメントが主体の内容であったが、その詳細はフジTVのサイトをご参照いただきたい(http://www.fujitv.co.jp/risk_no_kamisama/index.html)。
簡単にその内容を抜粋すると以下のようなストーリーであった:

【すべてフィクションです】
サンライズ物産では、電機メーカー・生島電機とともに新素材を使った次世代型バッテリー『LIFE』を共同開発し、新会社ライフパワー社を設立。サンライズ物産の開発責任者であった優秀な電機部主任の神狩かおり(戸田恵梨香)は新会社の商品開発担当役員に抜擢された。華やかな新製品発表会で、『LIFE』バッテリーを内蔵したPCと自走式掃除機を世に出すことに成功し、時の人となった神狩かおりであったが、ある家庭で自走式掃除機が発火し子どもが火傷を負ったという苦情が入ったことから、事態は急変。

この問題の解決にあたることになった西行寺智(堤真一)は、米国帰りの危機管理専門家として業界内で”the God of risk(リスクの神様)”と呼ばれ、サンライズ物産の危機対策室長に迎え入れられたばかりであった。自走式掃除機発火事故のクレイムを入れた消費者の家庭を訪問し、発火した事故機を回収するが、誠意を見せるように要求された西行寺は調査を実施したうえで、謝罪金で解決する道を選ぶが、かおりはヘマはしていないとして、商品開発担当者が悪くないのに謝るのはよくないと反発する。そうこうしているうちに、今度は下町のクリーニング屋で同製品による発火事故が起こる。

このクリーニング屋店主に謝罪にむかった西行寺とかおりだが、単純に謝るなとかおりに言われた西行寺は、結局クリーニング屋の店舗を無償で建て替える、息子さんの就職口を紹介するなどの条件を出して交渉し解決した。かおりは金で解決するのはよくないと反発するが、西行寺は事故が起きたのだから顧客に誠意を見せるしかないとして、聞く耳をもたない。さらに西行寺の調査結果で、製品の耐久性試験が1万回実施されて問題なしとの生島電機からの情報がどうも3千回分のデータしかないということが判明し、実は最初の7千回の耐久性試験で発火事故が1度起こっていたことがわかった。発火の原因と思われるバッテリーの接合部品は変更されたのだが、なぜか結局発火原因となった接合部品が販売された商品に交じって市場に出てしまったようで、それが実際の2件の発火事故につながったようであった。

その後も発火事故が起こる可能性を否定できないため、当該製品の全品回収(Complete Recall)を提案する西行寺に対して、生島電機社長とかおりは、『LIFE』商品の今後の販売計画を見直さないといけない、生島電機の株価が急落する可能性が高いなどの問題点をあげて、回収はさけたいとの見解を述べる。しかし西行寺は、もし大きな火災につながって人命が失われた時の両社の信用失墜ははかり知れないなどと二人を一喝し、生島電機社長から全品回収の了承をとりつけた。

ストーリーの詳細を知りたい方は、オンデマンドなどで実際のドラマを観られることをおすすめするが、一番の見どころは、商品開発担当役員だった神狩かおりがたったひとりで記者会見にのぞみ、すべての責任は自分にあると辞任を発表し謝罪するシーンであった。戸田恵梨香が涙を流して謝罪する姿は、まさに迫真の演技でぐっときた。ただ、謝罪会見のシナリオや身振り手振り・服装まで、すべて危機管理のプロである西行寺の指示によるものという筋書きであった。普通このような謝罪会見は社長がやるべきだろう、と思われる方もおられるだろうが、本ドラマではサンライズ物産が上得意先である生島電機の御曹司社長に入院してもらって、神狩かおりだけがすべての責任をかぶって辞任し、生島電機に恩を着せるという面白いシナリオだ。

たしかにフィクションなので細かい部分で現実とは異なる部分もあるものの、商品回収の謝罪会見にのぞむ基本方針は十分共感できる内容であった。人命にも関わるような製品不良事故が発生し、全品回収となると、企業にとっては大きな決断になるが、このドラマのように企業が自らリスク情報を開示し、担当役員が責任をとって辞任することで企業のブランドを守るのはうまいやり方であろう。筆者の過去のブログでも、そのあたりを議論しているので、ご参照いただきたい:

◎ハラキリ・コミュニケーション ~日本文化に合ったリスコミとは~
http://www.nposfss.com/blog/harakiri.html

日本人は特に、いさぎよいハラキリに対して寛容な心があるように思う。ペヤングさんが異物混入問題で工場まで閉鎖して再起を目指されたことで、それまでのファンたちはペヤングさんを完全に許したことは明白で、製造販売再開に対しての消費者たちの反応がそれを証明している。ブランドを守るためには、いさぎよく謝り、身を切る改革をすることが非常に重要なのだ。

今回のエピソードでもっとも筆者が共感した台詞があったので紹介しよう。今回の危機対策室の作戦によりライフパワー社の問題は解決したわけだが、神狩かおりは「解決?無駄な口止め料を払ったのに、結局事故の件だって公表させたじゃないですか」と反論したのに対して、西行寺智はこう言い放った:「無駄じゃない。事故が外部から漏れれば企業の信頼はゆらぐが、自ら発表すればむしろ信頼は高まる!」まさにその通りだ。100%共感した。この番組の脚本を監修した危機管理コンサルは、クライシス・マネジメントの基本をよくご存じのようだ。

これだけSNSが社会に浸透し、たったひとりの消費者でも製品不良をリアルタイムで世界中に発信でき、それがいつ炎上してもおかしくない環境が整ってしまった限りは、いかに企業サイドがこういったリスク情報に関して先手をとって開示していくか、迅速性こそが勝負なのだ。これを失敗すると、SNSが炎上しマスコミから事故情報が発表されれば、記事はスクープとなり、隠ぺいしていた企業への信頼は失墜する。お客様からご指摘の電話があったら、初動を誤らないこと。まずはお客様に対して誠意をもって謝罪することで、企業側が危害性・多発性をいち早く判断し、必要に応じて製品不良を世間に発表するリスコミのための猶予をもらわないといけない。

リスクに関連した業務を担当しているリスク管理責任者、企業の広報/CSR担当者、品証/お客様相談室担当者などは、ぜひこの「リスクの神様」をビデオに録画して視聴いただきたい。ちなみに7/15(水)の第2回は「カップ麺への異物混入」のエピソードになるようなので、大変興味深い展開が観られそうで楽しみだ:

◎リスクの神様 第2話 あらすじ
http://www.fujitv.co.jp/risk_no_kamisama/story/index02.html

以上、SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法について学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください:

◎第11回食の安全と安心フォーラム@東大農学部(7月18日(土))
『新たな機能性表示食品制度ってどうなの?-消費者と食品企業の距離を縮めるために-』
http://www.nposfss.com/cat2/forum11.html

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2015@東大農学部(8月30日(日))
第3回『世間が目にする食品リスクとリスク管理の実際』
http://www.nposfss.com/riscom2015/index.html

また、当NPOの食の安全・安心の事業活動に参加したいという皆様は、ぜひSFSS入会をご検討ください。よろしくお願いいたします。

◎SFSS正会員、賛助会員の募集について
http://www.nposfss.com/sfss.html

(文責:山崎 毅)

タイトルとURLをコピーしました