[2017年6月15日木曜日]
“リスクの伝道師”ドクターKです。このブログでは食のリスク情報とその双方向による伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論していますが、今月は豊洲新市場移転問題がいよいよ佳境を迎えたようですので、それに関する安全・安心のポイントについて解説したいと思います。
まずは、混迷を繰り返していた「豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議」の第6回会合が6月11日(日)に再開され、地下水対策やモニタリングなどの課題は残したものの、当面の専門家による審議が完了したので、これを伝えた記事のひとつとともに、さらなる詳細は専門家会議の動画をご参照いただきたい:
◎豊洲市場「地上部分は安全」専門家会議が追加対策
日本経済新聞(2017/6/11)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK11H3S_R10C17A6000000/
◎豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議 第6回(休会後の後半部)
<動画配信>平成29年6月11日(日)12時30分~
https://www.youtube.com/watch?v=o2xcqHAN78w
筆者自身も本専門家会議の第4回・第5回を傍聴した際に、都民の「食の安全」を第一義とした見解を述べさせていただき、その後の豊洲新市場/既存築地市場の「食の安全・安心」に関わるリスクコミュニケーションが徐々に好転してきたことを実感してきたところだが、本専門家会議が最終的に豊洲新市場の安全について問題がないと結論づけ、地下水の汚染状況に対する追加対策案も妥当であるとして審議を終了したことはまことに感慨深いものだ。
専門家会議の平田座長、駒井先生、内山先生、事務局の中島フェローには、混沌とした議論の中にも毅然とした態度で科学的・中立的説明を貫いてこられたことに心より敬意を表したい(専門家会議の動画を閲覧すると、市場関係者との質疑応答が非常に困難であったことがわかる)。また盛り土がなかったことや予期せぬ地下水の汚染状況が発覚し、都民や市場関係者からの信頼を大きく失ってしまった中でも、豊洲新市場のリスク低減策とリスク評価のデータ収集を根気よく継続してこられた東京都の市場担当者の皆さんにも、都民の食の安全確保のためによく頑張っていただいたものだと賞賛したい。専門家会議の先生方と東京都市場担当者により、都民にとって最も大切な「食の安全」の科学的中立性・正確性・公益性が守られたことは「メトロポリタン東京」のプライドと言えるだろう。
また、本専門家会議の冒頭・審議開始前に、村松市場長より東京都が過去に地下水の無害化を約束したことに関して、いまだその目標が達成できていないことを都民ならびに市場の事業者にむけて陳謝した。これは、今月初めの東京都議会における小池都知事の所信表明のなかでも、同じ内容の謝罪をしており、以下の記事を参照いただきたい:
◎豊洲「無害化」できず陳謝=小池知事、移転時期明言せず-都議会
時事ドットコムニュース(2017/6/1)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017060100931&g=pol
この中で小池百合子知事は、豊洲市場について「これまでの都知事が市場業者や都民に約束した『無害化』が達成できていない。約束を守れなかったことを都知事としておわびする」と陳謝したとのこと。ある意味この小池都知事と村松市場長がタイミングを併せて、石原元都知事時代の「無害化の約束」を謝罪したことで、いまだ地下水の「無害化」が達成できていないけれども、それは過去の都政における約束自体が問題だったわけで、これを解除したうえで次に進みたい、との意思表明とも解釈できるように思う。
そもそも「地下水の無害化」(地下水を”飲み水基準”以下にする?!)を目標としたこと自体「ゼロリスク症候群」の妄想であり、この無用な安心目標を追い続ける限り、肝心の市場の食の安全に関わるリスクは高いまま放置されることになるため、まずはこの無用の約束を解除することが正しい行政判断だろう。その点で舛添前都知事が豊洲市場安全宣言をされた際の目標修正は正解であり、それに都議会から異論も出なかったのなら「無害化の約束」は公式に訂正されたと解釈すべきではなかったのか。東京都中央卸売市場の食の安全は地下水の汚染状況に依存しないことが明白であり、「地下水の無害化」という約束自体が市場の「食の安全」より優先されては本末転倒なのだ。
一部の報道でも、小池都知事による豊洲新市場移転に関する最終決断が近々に発表されるのではないかとのことだが、もし我々がずっと主張してきた豊洲新市場への早期移転がやっと現実のものとなるのであれば、小池都知事による移転発表日(X-day)が、まさに「地下の安心」より「地上の安全」を優先すると東京都が決断した「安全>安心記念日」となるだろう。これは国内で最も大きな予算を動かしている自治体=東京都が、市民の安心側から安全側に舵を切った重要なリスク管理転換事例として、将来にわたっても語り継がれるのではないかと思う。
しかし、本豊洲市場移転問題はこれで終わりではなく、都民の食の安全に関するリスク低減策はハード面で良い方向に向かうことは朗報だが、ソフト面では新たな豊洲市場に市場の業者さんたちがいかに適応していくかが最初のハードルとなるだろう。また、地下水の安心の問題についても汚染状況が残る限りモニタリングは継続されるので、そのリスコミ手法が非常に重要になってくるのは間違いない。筆者がこれまで主張してきた「安心=安全X信頼」の法則を参考にしていただき、都民にもっとも信頼されている小池都知事がリスク情報を開示しつつも、毅然と安全宣言をされれば、都民の「食の安心」はきっと確保されるであろう。
この豊洲新市場移転問題に関するリスコミのあるべき姿については、食の安全・安心の専門家を集めて議論を繰り返しており、3月末にはその集大成として都庁において記者会見も実施した。安全・安心に関わるリスコミのあり方はここでも何度か解説しているのでご参照いただきたい:
◎『安心のための必要条件:「安全」と「信頼」』[2017年4月10日月曜日]
http://www.nposfss.com/blog/safe_trust.html
◎「都民にとって”やさしい”食のリスコミとは」- 山崎 毅
緊急パネル討論会『豊洲市場移転に関わる食のリスクコミュニケーション』
(2016/12/20)より
<講演レジュメ/PDF:718KB>
以上、今回のブログでは豊洲新市場移転問題が佳境に入ったことを受けて、「地下の安心」と「地上の安全」に関する東京都の重要な決断について解説しました。SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法について学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください。
◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2017
第2回『食品衛生上のリスクを議論する』(6/25) @東大農学部
http://www.nposfss.com/riscom2017/index.html
◎SFSS食の安全と安心フォーラム第13回
食物アレルギーのリスク管理と低減化策に関するフォーラムⅢ(7/30) @東大農学部
http://www.nposfss.com/forum13/index.html
(文責:ドクターK こと 山崎 毅)