『健康リスクが高いのはどっち?』

[2015年9月14日月曜日]

このブログでは食品のリスク情報とその双方向による伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論しているが、今回は消費者が食品の健康リスクを科学的に比較できるようになるために、どのようなリスクコミュニケーションが有効かについて考察してみたい。

筆者の今夜の食卓に「タコキムチ」が上がって美味しくいただいたが、さてこのタコが「国産」か「中国産」かで、どちらの健康リスクが高いだろうか?

価格からいうと「国産」が高いので、「国産」のほうが品質もよいはずと思われる方もおられるかもしれないが、実際は「国産」も「中国産」も安全性は変わらないというのが科学的事実であろう。また、厳しい品質検査がより多く実施されたのはどちらかというと、①中国から輸出される際、②国内に輸入された検疫の際、③国内で流通する際、のトータル3ポイントで厳しい検査をクリアした「中国産」ではないかと思う(「国産」でも複数の検査がされている場合もあるので、必ずとは言えないが)。

近くで捕獲されたフレッシュなタコのほうが安全に違いないとして、ご自身でタコ釣りに行って捕ってきたタコを調理するのが最もリスクが低いと考えられたとしたら、おそらくそれは誤りであり、食中毒のリスクに対して無防備な状況かもしれないと認識すべきだ。魚介類に限らないが、消費者が生き物を食するにあたっては、それなりの知識を持たずに自ら調理するのはリスクをともなうものだ。逆にいうと、流通にのった食材の方がはるかに安全性は高く、それが「中国産」であろうが「国産」であろうが、表示通りの調理がされる限りにおいて、健康リスクは無視できるレベルと言ってよいだろう。

食品の安全性は原産地に依存せず、製造・品質管理の質に依存するものと心得たい。すなわち、食品をどこで製造したかではなく、誰がどのように品質管理しているかが安全性のポイントなので、「国産」を過信して、品質不良はないだろうと考えるのも早計だろう。ちなみに今夜筆者が食した「タコキムチ」のタコは「中国産」だったそうだ。「国産」でも「中国産」でも安全性が同等なら、あとは味に見合った価格かどうかで食材を選択すればよいだけの話だ。

次に、「福島県産」と「岐阜県産」のひとめぼれで、どちらの健康リスクが高いだろうか?

原発事故の廃炉がいまだ続いている「福島県」の農産物をあえて購入すると、わずかでも放射性セシウムの汚染があった場合に発がんリスクが高いと考える方もおられるのではないか。だが、これも科学的に誤りだ。なぜなら「福島県産」と「岐阜県産」のお米は、ともに30ベクレル/kg程度の放射性カリウムを自然に含むと言われており、現在「福島県産」のお米でもし万が一、数ベクレル/kg程度の放射性セシウム汚染が起こっていたとしても、放射性カリウムによる自然放射線被ばくのレベルの方が高いため、結局「福島県産」と「岐阜県産」のお米の健康リスクは同程度(発がんリスクも無視できる程度)となるのだ。

すなわち、今回のようなお米に限らず「福島県産」の農産物だからといって、他県のものと比較して放射線被ばくによる健康リスクが高いのではという考え方には科学的根拠がないことになる。これは、通常の食品に数十~数百ベクレル/kgの放射性カリウムが自然に含まれることを考えると、低レベルの放射性セシウム汚染を気にして「福島産」の農産物を避けることはナンセンスなのだ。むしろ福島県の農畜産物を食べることで、東日本大震災の復興支援に少しでも協力することをおすすめしたい:

◎食の安全・食肉の魅力2015@コラッセふくしま(2015.10.12.)
http://www.nposfss.com/shokuniku2015fukushima/

最後に、手作り弁当とコンビニ弁当、どちらの健康リスクが高いだろうか?

コンビニ弁当は添加物が多く使われており安全性に問題がある、というネット記事が最近よくみられるのは非常に残念なことだ。そもそも現在国が認可している添加物に発がん性があるとか、安全性に問題があるなどという情報には科学的根拠がなく、大衆の不安を煽動する記事は相手にしないことが肝要だ。筆者はあえて手作り弁当の方が、食中毒のリスクが高くなる分、十分注意して調理していただきたいと警鐘を鳴らしたい。

もちろんのことだが、手作り弁当が十分に栄養バランスのとれたものであるなら、その観点でコンビニ弁当よりも健康への好影響が期待できることはいうまでもない。なお、添加物の安全性についてはQ&Aにまとめているので、以下を参照されたい:

◎食の安全・安心Q&A:『添加物の安全性について』
Q(消費者):食品添加物は身体によくないという記事をよく見かけますが、本当なのでしょうか?

http://www.nposfss.com/cat3/faq/post_59.html

以上、今回のブログでは、食品の健康リスクについて科学的に比較するにはどうしたらよいかを考察しました。SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法について学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2015@東大農学部(10/25)事前参加登録受付中
第4回『消費者が過敏になりがちな「ハザード」に関してのリスコミ』(参加費:3,000円)
http://www.nposfss.com/riscom2015/index.html

また、当NPOの食の安全・安心の事業活動に参加したいという皆様は、ぜひSFSS入会をご検討ください。よろしくお願いいたします。

◎SFSS正会員、賛助会員の募集について
http://www.nposfss.com/sfss.html

(文責:山崎 毅)

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