2021年4月から10月にかけて食のリスクコミュニケーションを テーマとしたフォーラムを4回シリーズで開催いたしました。
毎回70名~100名程のご参加があり、3人の専門家より、 それぞれのテーマに沿ったご講演をいただいた後、 パネルディスカッションではオンライン参加者からの ご質問に対して活発な意見交換がなされました。
◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021
【テーマ】『withコロナの安全・安心につながるリスコミとは』
【開催日程】
第1回 2021年4月25日(日)13:00~17:50
第2回 2021年6月20日(日)13:00~17:50
第3回 2021年8月29日(日)13:00~17:50
第4回 2021年10月31日(日)13:00~17:50
【開催場所】オンライン会議(Zoom)
【主 催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
【後 援】消費者庁、東京大学大学院農学生命科学研究科
【協 賛】株式会社セブン-イレブン・ジャパン、日本生活協同組合連合会、日清食品ホールディングス株式会社、
サラヤ株式会社
【参加費】3,000円/回
*SFSS会員、後援団体、協賛団体(口数次第)、メディア(取材の場合)は参加費無料
<第1回> 2021年4月25日(日)『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』
【プログラム】
13:00~14:00 『ゲノム編集トマトが世界初の国産ビジネスに育つ条件は何か』
小島 正美(元毎日新聞編集委員)
14:00~15:00 『ゲノム編集トマトをどう世に出すか』
竹下 達夫(サナテックシード(株)代表取締役会長)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『ゲノム編集食品のスマート・リスクコミュニケーションとは』
山崎 毅(SFSS理事長)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』
パネリスト:小泉望(大阪府立大学)、佐々義子(くらしとバイオプラザ21)、
上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
①小島 正美(元毎日新聞編集委員)
『ゲノム編集トマトが世界初の国産ビジネスに育つ条件は何か』
日本発のゲノム編集トマトは、はたして世界初の市場流通という快挙を達成できるのか。そのハードルを越えるには、どんな条件をクリアすればよいのか、すでに流通している遺伝子組み換え作物の歴史的経過と比較しながら考えてみる。普及への最大の壁は、国民もしくは消費者の理解ではなく、反対派の運動がどれくらい強いか、そして流通事業者のパイオニア精神(販売意欲)が発揮されるかどうかの2つの条件いかんだ。そして、メディアの動向がそうした阻害条件をどれだけプッシュするかも大きなカギを握る。
②竹下 達夫(サナテックシード(株)代表取締役会長)
『ゲノム編集トマトをどう世に出すか』
1.ゲノム編集の種子であることを種子袋、トマト生産物に明記する。農家や消費者はどのように種子が作られたか、生産物がどのような種子で作られたかを知る権利があり、購買の選択の自由がある。それを尊重して、公明正大にステークホ−ルダーに取引をしたい。
2.本格的な種子販売の前に消費者でもあり農家でもある、いわゆる、プロシユーマーである家庭菜園の方々に苗、土壌改良材、肥料を約 5,000 人に無料配布する。そして、LINE を通じて、栽培指導、お互いの会話、ゲノム編集の知識、調理、トマトの保存の方法、動画での栽培体験の話に等、モニターしてゆく。こうした、市民による実際の栽培や食体験が SNS で発信されて社会受容につながるのが民主的な草の根メディアの一つではないかと考えている。
<竹下様講演レジュメ/PDF:1.15MB>
<講演資料/PDF:864KB>
③山崎 毅(SFSS理事長)
『ゲノム編集食品のスマート・リスクコミュニケーションとは』
インターネット調査において「ゲノム編集食品は安全かどうかよくわからないので、できれば食べたくない」と回答のあった30歳代/40歳代の女性100名をランダムに抽出し、その安全性に疑念をいだいた不安要因に共感する設問を投げかけたうえで、学術的理解を与える科学的根拠をわかりやすく提供するスマート・リスクコミュニケーション手法の効果を検証した。その結果、「ゲノム編集食品も安心して食べられそうだ」との回答が66人から得られた。どのような設問+学術的説明が、より市民の安心につながったのかを考察/議論したい。
<第2回> 2021年6月20日(日)『残留農薬のリスコミのあり方』
【プログラム】
13:00~14:00 『グリホサートのリスク(発がん性)について』
原田 孝則 (一般財団法人残留農薬研究所 理事長)
14:00~15:00 『世界・日本の「反グリホサート運動」の真相』
浅川 芳裕(農業技術通信社)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『我が国の農薬登録制度について』
小林 秀誉(農林水産省 消費・安全局農産安全管理課農薬対策室 室長)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『残留農薬のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
①原田 孝則 (一般財団法人残留農薬研究所 理事長)
『グリホサートのリスク(発がん性)について』
グリホサートは、1970 年に米国モンサント社によって開発されたアミノ酸系除草剤で、1974 年に米国にて登録され、安全で有効な除草剤として世界的に普及し、現在も各国にて幅広く使用されている。ところが 2015 年に国際がん研究機関(IARC)が、グリホサートを Group 2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類したことに端を発し、その波紋が各国に波及し、農薬業界のみならず農業作業者や一般消費者にまでグリホサートの安全性に対する不安を煽る結果となった。このグリホサートを Group2A に分類した IARC の根拠と各国規制当局のリスク評価結果を対比しながら、その発がん性リスクについて科学者としての個人的見解を述べる。
②浅川 芳裕(農業技術通信社)
『世界・日本の「反グリホサート運動」の真相』
グリホサート(除草剤ラウンドアップ等の有効成分)の使用に対して、”市民”の反対運動が長期化している。グリホサートは世界中の科学的規制機関で安全性試験をクリアし、150 カ国以上の農業現場でもっとも使用されている農薬成分である。科学界・農業界に受け入れられながら、なぜ反対運動が続くのか。その背景には、米国の訴訟ビジネス業界と欧米日の反農薬・GM の有機ビジネス業界の共通利害が存在する。さらには、両業界の利害にお墨付きを与える国際機関の存在ならびに業界と機関のパイプ役として動く専門家の利害がある。講演では、この複雑な利害構造を解きほぐし、反対運動の真相に迫る。そのことで、従来の性善説に基づく農薬リスクコミュニケーションの限界を示すと共に、新たな視点から根本的な打開策を提言する。
③小林 秀誉(農林水産省 消費・安全局農産安全管理課農薬対策室 室長)
『我が国の農薬登録制度について』
農薬は、農産物を安定供給するために必要な資材である一方、農作物という、食品になり得る物に散布されるものであり、また意図的に環境中に放出されるものであることから、リスクを適切に管理する必要がある。本講演では、我が国において、農薬を新しく開発したり、使用したりするときにどのように管理されているのかについて紹介する。また、食品中の残留農薬については、各国が定める基準値のほか、国際的な基準値(コーデックス基準値)も存在する。本講演では、コーデックス基準値の設定の仕方や、基準値を設定する際の科学的な考え方についても紹介する。
<第3回> 2021年8月29日(日)『学校給食のリスコミのあり方』
【プログラム】
13:00~14:00 『最近の学校と学校給食における食中毒事故の傾向と事例についての考察』
吉田 達也 (株式会社菜友)
14:00~15:00 『衛生学の目線で考える学校給食』
大道 公秀 (実践女子大学)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『学校給食受託業務における衛生管理』
牧 美弥子 (SFSS 理事)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『学校給食のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
①吉田 達也 (株式会社菜友)
『最近の学校と学校給食における食中毒事故の傾向と事例についての考察』
学校において児童生徒が給食を食べる際に想定されるリスク要因として、食中毒、異物混入、食物アレルギー、窒息等が考えられる。1996年の堺市集団下痢症の事故以降、大量調理施設衛生管理マニュアル、学校給食衛生管理基準の整備や科学的なエビデンスに基づくマニュアルや栄養教諭・学校栄養職員の衛生管理講習の実施などにより食中毒事故件数は減っているが、ゼロとなった年はなく日々の業務の見直しが続いている。 直近では児童が食事中にパンをのどに詰まらせて死亡する重大な事故も起きている。 また非加熱食品である牛乳による大規模な食中毒事故も発生し、給食室や給食センターが介入しにくい事故も目立っている。 これらの最近発生した様々な事故の特徴と背景を考察し、見えてくる課題を紹介する。
②大道 公秀 (実践女子大学)
『衛生学の目線で考える学校給食』
学校給食は、保護者も食事をする本人もその食事内容を選ぶことはできない。それゆえ学校給食には安全でそして、安心できる食事を求めていく願いは高まる。しかし学校給食にどこまでの安全そして安心を求めればよいのだろうか。一方で学校給食は教育活動という側面がある。この独特な性質をもつ学校給食について、衛生学の視点から課題を挙げていきたい。また、私が行った集団給食施設の衛生管理に関する調査結果をもとに、衛生管理が進んでいる施設とはどのような施設だったのか、その特性を紹介し、衛生管理を進めるためには何が必要かを考察する。最後に With コロナ、After コロナの学校給食について考えてみる時間としたい。
③牧 美弥子 (SFSS 理事)
『学校給食受託業務における衛生管理』
文部科学省が公表した「平成 30 年度(2018 年度)学校給食実施状況調査の結果について」によると、学校給食調理業務における外部委託状況は、2018 年 5 月1日現在、小・中学校単独調理場、共同調理場ともに前回調査比(2 年に 1 回の調査)4.6 ポイント増の 50.6%を占めるようになっています。受託事業者として、給食調理の提供において食中毒防止対策、異物混入防止対策等について学校給食衛生管理基準に基づいた具体的取組を行っていますが、課題や方向性など皆様と議論の場にできればと思います。
<第4回> 2021年10月31日(日)『惣菜の衛生管理に関するリスクコミュニケーション』
【プログラム】
13:00~14:00 『惣菜の HACCP に沿った衛生管理のポイント』
豊福 肇(山口大学共同獣医学部教授)
14:00~15:00 『サラダ・惣菜の安全マネジメント』
宮下 隆(キユーピー株式会社 食品安全科学センター長)
15:00~15:20 休憩
15:20~16:20 『セブン‐イレブンにおける惣菜の安全管理』
斉藤 俊二((株)セブン-イレブン・ジャパン QC 室 総括マネジャー)
16:20~17:50 パネルディスカッション
『惣菜の衛生管理に関するリスクコミュニケーション』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)
18:00~19:30 オンライン懇親会
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
①豊福 肇(山口大学共同獣医学部教授)
『惣菜の HACCP に沿った衛生管理のポイント』
近年、女性の社会進出や高齢化等の社会環境の変化を背景に食の外部化が進んでおり、中食である惣菜産業の市場規模も拡大しているのに伴い、消費者の期待、食品の安全・安心に対する要求もより一層高まってきています。さらに、本年 6 月から原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、「HACCP に沿った衛生管理の制度化」が導入されました。特に、惣菜は「生原料の使用」や「低温加熱調理」などが多く、比較的保存性の低い製品であるため、作業者の手洗いや作業区域の清掃などの「一般衛生管理」の他、製造時の「食品の安全に関する管理」が大変重要になっています。講演では一般社団法人 日本惣菜協会が作成した HACCP の考え方を取り入れた衛生管理の手引書に基づき、「小規模な惣菜製造工場」に最低限必要な食品安全管理のポイントを紹介します。
②宮下 隆(キユーピー株式会社 食品安全科学センター長)
『サラダ・惣菜の安全マネジメント』
カット野菜等のサラダの市場は、美味しさや手軽さ、健康志向の高まり、多彩なライフスタイルにより拡大している。しかし生鮮に近い商品であるがゆえ、微生物リスクは決して低くない。また惣菜においては、その手軽さや美味しさ、レパートリーの多さから市場は活性化している。CVS を中心にスタンドパウチの日持ちタイプが主流になりつつあり、消費者での便宜性は高く、フードロス削減や生産効率への貢献も高い。今講演では、カット野菜や惣菜の微生物的な安全性や守るべきポイントについて説明する。
③斉藤 俊二((株)セブン-イレブン・ジャパン QC 室 総括マネジャー)
『セブン‐イレブンにおける惣菜の安全管理』
社会環境の変化に伴い惣菜に対する消費者ニーズは大きく変化し、商品形態も大きく変化している。また、コロナ禍で更なる変化が予測される。近年、食品のリスク要因も多様化し従来の衛生管理重視から総合的な安全管理を食品事業者が実践しなければならない状況に変化している。惣菜の商品開発、品質管理の歴史を振り返り、現状の安全対策の事例を紹介するとともに、未来に向けての課題を考察、紹介する。
(文責・写真記録:miruhana)