食品の永遠の課題、異物混入と自主回収に思う (2016年10月27日)

髙橋 治男
NPO法人食の安全と安心を科学する会 理事
髙橋 治男


東京都における昭和62年~平成24年度までの苦情食品総件数と異物混入食品

 食品中のいわゆる異物混入が国民的な関心を集める様になったのは、比較的最近のことかと思います。東京都では、毎年、この苦情件数をまとめ公開しています*。検査機関への依頼検査の経年変化からみると2000(平成12)年から増加傾向が顕著となっています。
 2000年は、大手乳業メーカーによる大きな食中毒事件が発生した年で、それ以降、食品偽装などの事件も相次ぎ、以来、食品に対する消費者の信頼は揺らぎ、苦情件数は高止まりしています。苦情検査数は、その年により波状的な増加傾向が見られ、消費者が、何らかの事件で不安を掻き立てられる度に異物を検知し、苦情を申告している姿が見えます。まさに、そこには異物問題は、安心・安全の問題と言うよりは、社会現象として存在しているとも言えます。
 異物混入を引き起こした企業は、その生産ラインに関わる製品の回収はもとより、昨今、その商品全体を市場から自主回収することも、最近は、ほぼ、通例になっています。しかも、大手の新聞に「お詫び」まで掲載することも珍しくありません。しかし、一方で、果たしてこれでよいのか?と思えて来ることがあります。
 NHKのクローズアップ現代で、苦情食品の自主回収の問題が取り上げられました。まず、過去の異物混入に伴う苦情事例で、その2/3は、健康には影響がないと考えられる事例とされました。また、この自主回収にかかる費用は、数千万円から、場合によっては数億円かかり、企業経営のかなりの負担となると伝えています。確かに、「食の安全」確立には、その負担は必要な部分も有りますが、現実には、「安心」の部分に費えているお金とも言えます。いずれこの経費は、どこかで消費者側が負担させられている可能性も否定できません。もう一つの問題は、昨今、世界的な食糧危機が叫ばれています。世界の2割足らずの先進国に住む人々が世界の穀物の半分以上を消費しているため不足を生じているとされています。この異物回収が、世界的に見てどの様に写るのでしょうか。ただ、もちろん、この回収には異物混入だけでなく、表示の誤りなど法令に基づく場合もありますので、一概には言えません。
 ただ、グローバルが叫ばれている中、Farm to Table のFood Chain は、むしろ、長くなる傾向にあり、また、格差社会が産み出す社会不安は増大して、不安が掻き立てられ、異物混入が社会的問題に発展する要素は増大する一方です。
 異物を取り巻く意識、環境は、企業側、消費者とも大きく変化しています。異物の問題を通して、自主回収のあり方、企業側の管理対策、また、消費者側のあるべき対応を含め討論することが必要な時期に来ていると思えてなりません。

*:http://www.mac.or.jp/mail/140501/01.shtml

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