食物アレルギーの発症リスク低減化対策とアレルゲン低減化食品の開発 (2013年8月20日)

NPO法人 食の安全と安心を科学する会理事
京都大学名誉教授
小川 正


小川  正

 昨年末、東京の小学校で、乳製品アレルギーの児童が給食を食べた後アナフィラキシーショックを起こし死亡するという悲しい事故が発生しました。食生活における食物アレルギー患者さんのリスク回避対策の必要性が再認識され、さっそく自民・公明両党は「知識の普及や教職員の研修強化」を盛り込んだ「アレルギー疾患対策基本法案」の提出を表明しました。残念なことに、食物アレルギーに対する決定的な治療法は未だ確立されておらず、原因食品の除去指導や対処療法的な処置が実施されているのが現状です。患者さんのアレルギー食品の誤摂取による事故防止対策として、我が国では加工食品中のアレルギー食品(卵、乳、小麦、えび、かに、そば、落花生の7品目)の表示を義務付けています。レストランや学校など不特定多数の喫食者に食事が提供される場においては、使用された当該アレルギー食品に関して献立・レシピ―などにより注意喚起することを基本としていますが、それでもアレルギー食品の卵・乳・小麦は形を変えてほとんどの調理・加工食品に利用されるため、調理器具や製造ラインを介して汚染・混入する恐れもあり、完璧なリスク回避は大変難しく、あくまでも自己防衛的に細心の注意を払うことが求められています。

患者さんの多くは複数食品で感作を受けているため、厳格な除去食の下で代替食品による栄養摂取基準(栄養素の必要量)を充足する献立作成は大変困難な作業であり、患者が安全で豊かな食生活を享受し、人生のQOLを確保するための試みとして、(1)健康増進法に基づいて病者用食品として認可された「アレルゲン除去食品」(ミルクアレルギー乳幼児用の育児用調製粉乳)など、(2-①)特定アレルギー食品不使用食品、即ち特定のアレルギー食品をまったく使用しない(含まない)加工食品、(2-②)アレルゲン低減化食品(その食品中のアレルゲン成分を除去あるいは低減化)、および(3)代替食品(いわゆるアレルギー対応食品:例えば、小麦アレルギー対応の米粉パン、大豆アレルギー対応のひえ味噌など)、などがあります。(2-①)や(3)はその包装にある一括表示により使用あるいは不使用のアレルギー食品を確認でき安全に摂取できます。(2-②)については、例えば大豆アレルギー患者用に開発した製品を参考に紹介します。まず大豆たんぱく質成分の何がアレルゲンとなっているかを患者さんの協力で徹底解析し、その主要アレルゲン成分を欠失した大豆をスクリーニング、育種によりさらにアレルギー発現リスクを低減化した品種(ゆめみのり・なごみまる:農水省・豆育研)を創出、改良した発酵法(低温熟成、酵素添加)にて他のアレルゲン(米麹中のアレルゲンなど)を徹底的に分解・消去したアレルゲン低減化味噌を製造しました。低アレルゲン化度は、医療機関の医師、患者さんの協力でチャレンジテスト(負荷試験)を行い、患者さんより通常の使用量では安全かつ有効であるとの評価を得て、医師の指導のもと患者さんに提供を開始しています。

味噌汁の具を求められる患者さんには、アレルギー発症リスクが最も低いねぎ・ワカメ(凍結乾燥)を添付している(写真A)。(3)としては、大豆のみを使用したクッキーを提供しています(写真B、大豆を摂取できる患者さんは多く、良質たんぱく質を摂取できる)。しかし、個々の患者さんによってアレルギーを惹起するアレルゲンの種類と量(閾値)が異なり、極微量でも発症する可能性があり(そばなど)、低減化は未だ試行錯誤の領域にあると言えます。また、これらの研究の過程で、発症したアレルギー臨床症状を緩和する食品成分(緑茶のカテキン類)の発見もあり、低アレルゲン食品の開発と相まって抗アレルギー食品の開発も期待されている。

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